JSTトッププレス一覧 > 科学技術振興機構報 第435号
科学技術振興機構報 第435号

※ 「Nature Cell Biology」が当該プレスリリースに関する研究論文を取り下げたことに伴い、
平成28年3月25日付けで本プレスリリースを取り下げました。

平成19年10月22日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(広報・ポータル部広報課)
URL http://www.jst.go.jp

骨と脂肪のバランスを制御するメカニズムを解明

(メタボリックシンドロームなどの予防・治療薬開発に道)

 JST(理事長 北澤宏一)は、生体の骨量と脂肪のバランスを調節するメカニズムにおいて、「Wnt5a」という細胞外分泌たんぱく質が決定的に重要な働きをしていることを、マウスを使った研究で突き止めました。具体的には、生体の骨量調節においては脂肪細胞を増やす作用を持つ「PPARγ」注1)(ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ)が関与し、Wnt5aはそのPPARγの機能制御を介して骨量調節を行っていることが分かりました。
 骨髄に存在する間葉系幹細胞注2)は脂肪細胞や骨芽細胞、筋芽細胞など多様な細胞種に分化することが知られています(図1)。そうした間葉系幹細胞の分化によって生体の骨や筋肉、脂肪などのバランスが保たれていますが、肥満や骨粗鬆症などの病態ではこのバランスが崩れていることが報告されています。そのため、このバランスを制御するメカニズムの解明が待たれていました。
 研究チームは今回、骨髄中に存在する間葉系幹細胞が脂肪細胞や骨芽細胞に分化することに着目し、脂肪細胞を増やすPPARγの機能抑制因子の同定を試みました。その結果、細胞外分泌たんぱく質であるWnt5aが核においてリン酸化酵素NLK注3)を活性化し、PPAR機能を抑制することを発見しました。さらにNLKがヒストン修飾酵素SETDB1注4)の機能を制御することで染色体のクロマチン構造注5)を変化させ、間葉系幹細胞の分化を制御していることが判明しました。(図2,3)。
 本研究の成果は、今まで明確でなかった骨芽細胞・脂肪細胞への分化・振り分けのメカニズム、および老化や骨粗鬆症に伴って起こる骨組織中の脂肪細胞蓄積の原因の一端を明らかにしたことです。また、Wnt5aやNLKの活性制御物質を開発すれば、肥満の低下や骨量増加が期待されることから、肥満や骨粗鬆症などの治療開発の一助になるものと思われます。
 本研究は、戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「加藤核内複合体プロジェクト」(研究総括:加藤茂明 東京大学分子細胞生物学研究所教授)の加藤茂明(同上)と高田伊知郎(東京大学分子細胞生物学研究所助教)らが、大竹史明(JST研究員)らと共同で行ったもので、英国科学雑誌「Nature Cell Biology」電子版(Article)に10月21日(英国時間)に公開されます。

<研究の背景>

 骨組織においては通常、骨を作る骨芽細胞、骨を壊す破骨細胞などのバランスによってその強度が維持されています。しかし老化や肥満、2型糖尿病注6)などのメタボリックシンドロームでは、骨芽細胞を作るもとになる間葉系幹細胞が骨芽細胞よりも脂肪細胞へより多く分化してしまい、骨の強度の低下が起きる場合があります。そのため、脂肪細胞への分化を抑制し、骨を作る骨芽細胞を増やすメカニズムを理解することが重要です。
 そこで研究チームは今回、脂肪細胞を増やす作用を持つPPARγに着目しました。PPARγ遺伝子欠損マウスにおいては脂肪細胞の減少と骨量の増加が観察されます。そこでPPARγ機能を抑制する因子を見つけることができないか、PPARγの転写活性化能を指標として探索を行いました。

<研究成果の概要>

 研究チームは、骨芽細胞や脂肪細胞に分化できるマウス骨髄由来間葉系幹細胞(ST2細胞)を用いて、PPARγ機能を抑制する因子の探索を行いました。すると、細胞外分泌たんぱく質Wnt5aが細胞内リン酸化酵素CaMKII、TAK1/TAB2、NLKを順に活性化することにより、PPARγ機能を抑制することを発見しました。またST2細胞やWnt5a遺伝子欠損マウスを用いた結果からも、骨髄内に存在する間葉系幹細胞においてWnt5aの濃度増加が骨芽細胞を増やし、Wat5aの濃度減少が脂肪細胞を増やすことが分かりました。
 さらに、Wnt5aで活性化されるリン酸化酵素群によるPPARγ機能の抑制メカニズムについても検討しました。細胞内にNLKを強発現させ、NLKとPPARγ双方に結合する因子を質量分析計(MALDI TOF-MS)を用いて同定した結果、ヒストンH3のメチル化酵素SETDB1や、メチル化修飾を受けたヒストンと相互作用するたんぱく質CHD7を見出しました。これらはWnt5aシグナル依存的に核内でPPARγと相互作用し、本来PPARγが作用するべき遺伝子のmRNA合成が抑えられることが判明しました。つまり、骨芽細胞分化促進作用を示すたんぱく質Wnt5aは、核内のヒストン修飾を制御することで、脂肪細胞分化促進たんぱく質PPARγの機能を抑えることが分かりました(図1)。

<今後の展開>

 PPARγは脂肪細胞増殖機能を持つ半面、メタボリックシンドロームを治す作用も持つ、二面性のあるたんぱく質であることが分かりました。そのため、PPARγ機能を強くもなく、弱くもなく維持することは、健康を維持するために重要であると考えられます。本研究において同定したWnt5aやNLK、SETDB1の活性を調節できるような薬剤を開発すれば、肥満の防止や骨強度の増強に役立つ可能性を秘めています。細胞外分泌たんぱく質Wnt5aやリン酸化酵素NLKを特異的に抑制あるいは活性化する物質を、開発できる可能性が高いと思われます。

図1 間葉系幹細胞からの細胞分化の模式図
図2 18週齢の雄マウス大腿骨における骨髄中の脂肪細胞分布
図3 今回見出した模式図
<用語解説>

<掲載名>

"A histone lysine methyltransferase activated by non-canonical Wnt signaling suppresses PPARγ transactivation"
(Non-canonicalなWntシグナルで活性化されるヒストンリジンメチル化転移酵素がPPARγの転写活性化能を抑制する)
doi: 10.1038/ncb1647

<研究領域等>

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。

戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「加藤核内複合体プロジェクト」
研究総括:加藤茂明 東京大学分子細胞生物学研究所 教授
研究期間:平成16年度〜平成21年度

<お問い合わせ先>

独立行政法人 科学技術振興機構
加藤核内複合体プロジェクト 研究総括
東京大学分子細胞生物学研究所教授
〒113-0033 東京都文京区弥生1-1-1
加藤 茂明(かとう しげあき)
Tel: 03-5841-8478 Fax: 03-5841-8477
E-mail:

独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究プロジェクト推進部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
小林 正(こばやし ただし)
Tel: 03-3512-3528 Fax: 03-3222-2068
E-mail: