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資料2

平成19年度新規採択
研究開発プロジェクトおよびプロジェクト企画調査の一覧

【ユビキタス社会のガバナンス】

 総評 : 領域総括 土居 範久(中央大学 教授)

 人類の持つ情報のすべてが情報システムの上にユビキタスに拡散し、情報システムが人をユビキタスに同定する「ユビキタス社会」の到来は、生活と社会経済活動の一段の発展が期待される一方で、情報セキュリティの確保やプライバシーの保護などの社会的な脆弱性が心配される。その際、特に情報技術の進歩が速いため、技術開発と従来の社会制度との整合性が十分に確保されない状況、社会科学や法制度が追従し切れない状況が生ずる。このような問題意識に立脚して、「ユビキタス社会」で必要とされる「ガバナンス」はいかにあるべきかを主題として、人文社会科学、科学技術などの知見も統合した俯瞰的な視点から問題解決の道筋を探るべく本研究開発プログラムを設定し、募集を行った。本研究開発プログラムは平成17年度に第1回目の募集を開始し、今回は第3回目の最後の募集となる。
 必ずしも成熟した研究テーマとは言えないことから、これまでと同様、6ヶ月程度の実行可能性に係る調査研究課題を対象に募集した。応募総数は4件と残念ながらこれまでの3年間で最も少なかった。これはユビキタス社会が未だ発展途上であること、6ヶ月の調査研究という趣旨が研究者の間に十分理解されなかったこと等、今後の公募の進め方に当たってやや課題を残すこととなった。ともあれ今回の提案ではセキュリティを考慮した医療情報や障害者支援技術、インターネット上のガバナンスなど、重要な問題を取り扱った興味深い提案が寄せられた。選考にあたっては「ガバナンス」という視点を重視したのはもちろん、提案者の企画力、調査研究の効果などにも留意しつつ、8名の領域アドバイザーの協力により書類選考、面接選考を行い、最終的に1件を採択した。
 採択された提案者には、現実的かつ実効性の高い研究体制やアプローチを検討してくださることを期待したい。なお、採択されたプロジェクトについては、6ヵ月後にその実効性等についてあらためて評価を実施した上で、本格的な研究に移行するかどうかを決定する予定である。
 本研究開発プログラムでは3年間の公募でユビキタス社会における情報信頼性の評価や危険の予防策、企業における情報セキュリティや自治体におけるリスクマネジメント等、到来する本格的ユビキタス社会における問題点等を先取りする形での研究プロジェクトを5件採択できた。今後本格研究開発プログラムの目標達成に向けて生み出されてくる研究成果を社会に発信、適用することにより、プライバシーやセキュリティの問題、様々なリスク回避の問題、法整備の問題を含め、これまで存在しなかった「ユビキタス社会」に必要な「ガバナンス」の新たな課題を解決する上で大きく貢献してゆくものと期待している。

採択研究開発プロジェクト
代表者氏名 所属機関 所属部署 役職 カテ
ゴリ
課題名 課題の概要
三上 喜貴 長岡技術科学大学 大学院技術経営研究科 教授 カントリードメインの脆弱性監視と対策 ネットワーク上の悪意ある行為者は管理の手薄いドメインに巣食っている。インターネット上には250のカントリー・ドメインがあるが、小規模な島嶼を中心に当事者のガバナンス外にあってスパムやポルノなど不適切なコンテンツの温床となっているものが存在している。こうしたドメインを発見し、その実態を監視する手法を開発する。また、監視結果に基づき国際社会への注意喚起を行うとともに、ドメイン管理の理念とルールを提案する。
領域総括および領域アドバイザー
  氏名 所属機関 役職
領域総括 土居 範久 中央大学理工学部 教授
領域アドバイザー 岩下 直行 日本銀行金融研究所 情報技術研究センター長
坂村 健 東京大学大学院情報学環 教授
佐々木 良一 東京電機大学未来科学部 情報メディア学科 教授
東倉 洋一 国立情報学研究所 副所長
村上 輝康 野村総合研究所 理事長
村瀬 一郎 三菱総合研究所 社会情報通信研究本部情報セキュリティ研究グループ グループリーダー
安冨 潔 慶應義塾大学法学部 教授
山口 英 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 教授