JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


9 戦略目標 「ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築」
研究領域 「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」
研究総括 堀池 靖浩(独立行政法人物質・材料研究機構 フェロー)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
明石 満 大阪大学大学院工学研究科 教授 免疫制御能を有する高分子ナノ粒子ワクチンの製造 本研究では、生分解性高分子を基盤とした免疫応答制御能を有するナノ粒子を開発し、高分子ナノ粒子ワクチンを実用化するための製造技術および製剤化プロセスを構築します。ナノ粒子の分子設計により、組織・細胞内での抗原動態制御能と免疫賦活剤として機能を付与し、安全かつ普遍性の高いナノ粒子ワクチンを創製することで、感染症・がん・自己免疫疾患の免疫療法に対する新たな治療戦略の展開が可能となります。
宇田 泰三 大分大学工学部 教授 高機能分子「スーパー抗体酵素」の自動合成装置と大量合成 高機能性ナノ分子「スーパー抗体酵素」は標的とするタンパク質を高度に認識し、かつ、酵素的に分解します。本研究ではテーラーメード医療を視野に、医療現場で患者に適ったヒト型「スーパー抗体酵素」が作れるという画期的な道具(自動合成装置)を提供します。並行して「スーパー抗体酵素」を大量に取得し、このナノ分子の生体内機能を詳細に評価することにより悪性の感染症やガンなどに対する新型治療薬を世界に先駆けて開発します。
片浦 弘道 独立行政法人産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門 グループ長 第二世代カーボンナノチューブ創製による不代替デバイス開発 カーボンナノチューブ(CNT)には金属型と半導体型の2種類があり、それらが混ざって合成される事が実用化の大きな妨げになっていました。この課題では新技術により金属型と半導体型をほぼ完全に分離し、さらにCNT内に異種分子を内包する事により、これまでにない高機能の第二世代CNTの創製を目指します。これを用いて、CNT本来のポテンシャルを活かした、高性能薄膜トランジスタや非線形光学素子の開発を行います。
桑畑 進 大阪大学大学院工学研究科 教授 イオン液体と真空技術による革新的ナノ材料創成法の開発 蒸気圧が限りなく0に近いイオン液体は、真空下でも蒸発しません。この特徴に着目し、1)イオン液体に金のスパッタリングを行うと金の超微粒子を調製できる、2)イオン液体を走査型電子顕微鏡で観察するとイオン液体は帯電することなく観察できる、という現象を発見しました。これらの発見を発展させ、イオン液体と真空技術を組み合わせた革新的なナノ材料の創成法とそれらの計測法(その場測定法)の開発を目指します。
堀 勝 名古屋大学大学院工学研究科 教授 プラズマナノ科学創成によるプロセスナビゲーション構築とソフト材料加工 将来のナノデバイス量産のために、プラズマプロセスを試行錯誤的手法から科学に基づいた手法への質的変換を実現します。そのため、ラジカル・イオン密度、エネルギーのモニタリング技術を有した卓上型コンビナトリアル解析装置を創成し、プラズマナノ科学を構築するとともに、科学に基づいたプロセスデータマップによるプロセスナビゲーションという指導原理を確立します。これにより有機ソフト材料の革新的ナノ加工生産技術を確立します。
松尾 二郎 京都大学大学院工学研究科附属量子理工学研究実験センター 准教授 ソフトナノマテリアル3D分子イメージング法の開発 有機物や生体高分子などのソフトナノマテリアルを高速重イオン励起により脱離・イオン化させる2次イオン質量分析法を開発し、サブミクロンオーダーの分子イメージングを実現します。さらに、有機物を破壊することなくエッチングするクラスターイオンビーム法と有機的に組み合わせて、ソフトナノマテリアルの3D分子イメージング法を確立し、ナノ・バイオテクノロジー分野に画期的な評価手法を提供することを目的とします。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:堀池 靖浩(独立行政法人物質・材料研究機構 フェロー)

 本研究領域では、ナノ科学を基盤にナノスケールで初めて発現する新機能を内蔵した新材料や新デバイスの開発、及びそれらを高効率に製造や高精度に評価する技術群の基盤構築やこれらの応用による具体的実施例の提示、ならびに製造プロセスに係る現象のナノスケール科学による革新を志向した研究を推進し、これらを「ナノ製造技術」の基盤として構築することを通してナノテクノロジーの本格的実用化を目指します。昨年度の選考を総括した上で、本領域の目指すところを一層鮮明にするべく、ナノ科学と実用化のギャップを埋める、ナノ科学を駆使した独創的な「使えるナノテク」を目指した提案を練り上げていただくようメッセージを発信し、審査過程での議論を深め選考を進めてきました。
 今回の応募は55件でした。その多くが融合分野に属し、分野特定しにくい面がありますが、昨年同様の考え方で分類しますとナノプロセス系:9件、ナノカーボン系:5件、半導体・プロセス系6件、ナノデバイス系:7件、バイオデバイス系:8件、ナノ構造系:7件、有機デバイス系:7件、有機合成系:2件、MEMS/NEMS系:1件、計測系:3件となります。全体の中でウエイトが増加したカテゴリーは、バイオデバイス系、ナノ構造系、有機デバイス系でした。
 本研究領域の研究総括、領域アドバイザー11名で、当該趣旨に概ね合致した新規な提案であるか、さらに、単にナノ現象の研究や製造技術に留まらず、当該戦略目標であるナノ科学技術を製造技術へいかにして具体的に展開しようとしているかに関して議論を深め、方向性の考え方を共有した後、書類審査により14件の提案を選択し、面接審査により以下の6件の提案を採択しました。面接選考に当たっては、当該領域の趣旨に合致しているかに加え、ご提案と関係の深いテーマでの他の研究費の取得状況などを勘案して質疑討議を行いました。本年度の選考は、専門家3名の査読に加えて、書類選考過程の後半で全アドバイザーによる、再査読を実施したことから、議論を一層深めることができました。
 その結果、高純度カーボンナノチューブの製造基盤確立、微細化を支えるプラズマにナノ科学の観点から極限プロセスを牽引する提案、革新的ナノ医療を実現するナノ粒子ワクチン製造、「スーパー抗体酵素」自動合成の要素技術確立、イオン液体と真空技術を組み合わせたナノ材料の観察や創成、高速重イオン励起によるソフトナノ材料3次元イメージングを目指す提案を採択しました。
 不採択提案の中には採択提案と匹敵する提案も多々ありましたが、研究内容としては優れているものの、構想のみでエビデンスに欠ける提案は受け入れることはできないことは当然ですが、当該領域の趣旨である実用化への具体性が述べられていない構想、他助成との切り分けの明確化が不足した提案が見られました。今回も、ナノバイオロジーが昨年と同様2件採択されましたが、極めて優れた研究のため採択となりました。一方、当該領域の広いスコープの中で、バイオ以外の上記の4研究提案も当該領域の目指すところに合致し、厳しい審査を経て採択されました。なお、当該領域は限られた予算の中で来年度最後の募集を行います。当該領域が目指す研究はこれらに限るものでないことは言うまでもなく、他についてもより一層優れた提案を期待します。
 今後「使えるナノテク」の趣旨をより深くご理解され、どこを突破するかを明確にフォーカスし、研究構想の綿密な提案を切に希望します。