JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「ナノ界面技術の基盤構築」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


8 戦略目標 「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」
研究領域 「ナノ界面技術の基盤構築」
研究総括 新海 征治(九州大学大学院工学研究院 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
有賀 哲也 京都大学大学院理学研究科 教授 巨大Rashba効果によるスピン偏極電流 代表者らは、最近、従来の記録を1桁近く上回る巨大Rashba効果を見いだしました。この効果を利用すると、界面を動き回る電子について、外部磁場や磁性体をいっさい用いずに、スピン状態に応じて運動を制御することが可能になります。本研究では、重元素修飾した半導体表面の巨大Rashba効果を利用することにより、特定のスピン状態の電子のみの電流を作り出したり、電子のスピン状態を識別したりする方法を開拓します。
君塚 信夫 九州大学大学院工学研究院 教授 自己組織化に基づくナノインターフェースの統合構築技術 金属イオンや金属錯体の自己組織化プロセスを利用して、新しいナノ界面構造(0次元、1次元、2次元、3次元)を自在に構築し、その界面の構造的特徴を最大限に活かした新機能の創製に結びつける「新しいナノ界面構造ならびに電子機能の統合制御基盤技術」を開発します。その応用分野として、分子メモリ、強誘電性ナノ薄膜やセンサー、医療ナノ材料などを含む革新的な自己組織性ナノマテリアル化学への展開を目指します。
平川 一彦 東京大学生産技術研究所 教授 ナノギャップ電極/ナノ量子系接合による新機能の創出 単一分子や量子ドットなどナノ量子系の状態を金属電極により電気的に制御・読み出すことができれば、演算や記憶を司る情報処理デバイスに革新をもたらすことができます。本研究では、精密に構造制御したナノギャップ電極により単一分子、InAs量子ドット、グラフェンへの接合を作製し、金属接合を介した1電子の注入と金属/ナノ量子系接合が発現する新規な物理現象の解明とその高機能デバイスへの展開について研究を行います。
藤田 誠 東京大学大学院工学系研究科 教授 自己組織化有限ナノ界面の化学 本研究では、自己組織化により定量的に生成するナノスケール中空球状錯体の表面および内面を「一義構造の有限ナノ界面」と捉え、明瞭な構造を持った巨大分子上で有限系の表面化学と内面化学を展開します。具体的には、(1)有限界面を分子設計に基づいて精密構築します。(2)界面の特性に基づく新機能や新反応を溶液状態で発現させます。(3)有限界面での現象を溶液・結晶化学手法で解析し、界面現象の本質の解明や有用物質の創製を達成します。
由井 伸彦 北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科 教授 分子運動操作を基盤とした多次元的バイオ界面 生体内埋込型医療デバイスと生体との理想的な界面の創製を目指して、材料を構成する分子の運動をナノメーターレベルの分子間力をもとにして操作し、それを基盤とした多次元的バイオ界面構築によって生体の階層的応答を支配します。これにより最終的には、材料-細胞界面における機能を永続的に発現して生体と共存可能なバイオ界面を創製します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:新海 征治(九州大学大学院工学研究院 教授)

 最近、有機/無機を問わず、新規に開発された機能材料の中には、界面がもつ特異な性質を巧みに利用している系が増えてきました。特に異種物質が接合した界面、有機/無機ハイブリッド、界面構造をナノレベルで制御した系などには、従来の材料とは概念的に異質で飛躍的な高機能を発現することを予感させるものがあります。本研究領域は、異種材料・異種物質状態間の界面をナノスケールの視点で扱う研究分野が集結することにより、ナノ界面機能に関する横断的な知識を獲得するとともに、これを基盤としたナノレベルでの理論解析や構造制御により飛躍的な高機能を有する革新的材料、デバイス、評価技術の創出を目指すものです。界面を構成する物質としては、無機・金属材料、有機・高分子材料、天然由来バイオ材料などを念頭に置いています。また形状としては、単なる2次元的に広がった界面のみならず、ナノ粒子やベシクルのような0次元小胞体、ナノチューブやナノワイヤーのような1次元形状のもの、さらには多孔質結晶のような3次元形状のものも募集対象としています。
 平成19年度は、多岐に渡る分野の研究者から、86課題に及ぶ提案がありました。数としては昨年の107件よりもやや減少しましたが、他の領域に参加していた研究者がその領域の終了に伴って本領域に申請したために、質的なレベルとしては昨年を上回る内容でした。特に、私が平成18年度には採択が少なかった有機・高分子化学の研究者を鼓舞したためか、これらの分野からの申請数が格段に増加しました。私としては、異分野に跨って提案を採択し、その異分野間での共同研究によるシナジー効果が発生することを画策していますので、これは平成19年度に限って言えば、好ましい結果だったと考えています。
 領域アドバイザーの方々の協力を得て、独創性、世界的レベルでの先進性、将来の発展性、実用化の可能性などをポイントに書類選考を行い、12課題を選出してヒアリングに付しました。面接選考は予想していた通りに激戦となりましたが、最終的に従来予算規模である種別Bの提案を3件、平成19年度に新設された半額予算規模である種別Aの提案を2件採択しました。採択された5課題は、それ自身でもレベルが高いものですが、他の課題との共同研究体制を築くことにより、一層の研究進展が計れる潜在的な内容を包含しているものと信じています。