JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「先進的統合センシング技術」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


1 戦略目標 「安全・安心な社会を実現するための先進的統合センシング技術の創出」
研究領域 「先進的統合センシング技術」
研究総括 板生 清(東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
東野 輝夫 大阪大学大学院情報科学研究科 教授 災害時救命救急支援を目指した人間情報センシングシステム 本研究では、列車事故など短時間に多数の傷病者が発生する事故現場において、生体情報センサとボディエリアネットワークを介して傷病者の情報を収集すると共に、無線アドホックネットワークを用いて傷病者の位置や病状変化をリアルタイムで監視・収集し、救命活動を行う関係者にその情報を図的に提示する救命救急医療支援システムを構築します。これにより、救命救急の効率化とトリアージの高度化を実現します。
本田 学 国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第七部 部長 脳に安全な情報環境をつくるウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステム 情報環境と脳との不適合によって発生する特異なストレスは、生命活動を制御する基幹脳の機能異常を導くことがPETによる計測実験により判明しており、情動・自律神経系や内分泌・免疫系の不調を介して様々な現代病の原因となります。本研究では、安全・安心な情報環境の創出に資するために、多チャンネルバイタルセンサからのシグナルを統合することにより、小型軽量で高確度なウェアラブル基幹脳機能センシング技術を創成し、日常生活空間で簡便に使用できるシステムの実用化を目指します。
前田 太郎 大阪大学大学院情報科学研究科 教授 パラサイトヒューマンネットによる五感情報通信と環境センシング・行動誘導 人間の感覚・運動・生体情報を計測し同時に各種感覚提示による錯覚利用の運動誘導を可能にするウェアラブル技術「パラサイトヒューマン」を用いて、装着者自身をセンサとアクチュエータを備えた双方向機能ノードとしてネットに接続します。これにより五感情報通信による協調作業型の行動支援や、少数装着者による群衆の移動誘導など、環境ネット下での安全・安心を実現するためにより直観的で効果的な人間の環境情報の計測と行動支援を実現します。
山田 一郎 東京大学大学院工学系研究科 教授 生体・環境情報処理基盤の開発とメタボリック症候群対策への応用 日常生活における生体・環境情報を手軽に収集し、客観的視点から生活習慣を確認できる生体・環境情報処理基盤を開発します。ウェアラブルセンサを用い、データを取る・貯める・見るためのソフトウェア、診断アルゴリズムなどの基盤技術を研究開発します。例として、様々な生体・環境情報とメタボリック症候群の因果関係を理解し、生活習慣の改善を促すことを目指します。また個人に応じた柔軟な予防・治療に資するヘルスケアサービスを開発し、実証実験により有効性を検証します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:板生 清(東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科 教授)

 本研究領域では、安全・安心な社会に役立つ将来的なサービスイメージを設定し、それを実現するためのブレークスルー技術、応用プロダクト・システムの実用化・実証までを目指す研究提案と独創的・革新的なセンシング技術、無線ネットワーク基盤技術などの要素技術の創出をも目指しています。
 3年目を迎えた今年度は、新規課題採択の最終年度にも関わらず42件という多くの応募があり、10名の領域アドバイザーと共に書類審査を行い、そのうち8件の提案を選び面接審査を行った結果、4件の課題を採択しました。選考に当たっては、主に以下の点を重視しました。

(1)安全・安心分野として、これまで年間の採択課題のカバー分野を勘案し、今年度は特に人の健康・医療・福祉に着目した人間情報システムなどの提案。
(2)実現にあたり、超小型センサ、情報処理、微弱無線通信、自然発電などの技術融合と、これら融合技術をベースとしたセンサーネットワーク技術の創成。
(3)ただ理論のみに傾くことなく、現実的な安全・安心システムを描いて着実に段階的にシステム化を進めてゆくこと。
(4)研究技術領域としては、安全・安心な社会の実現に貢献するものという観点で選択し、領域全体としては幅広い分野で成果の出ること。

 以上のことを考慮した結果、今回の提案からは、
1)人の五感情報通信と環境センシングと行動誘導の研究
2)脳に安全な情報環境を作る基幹脳統合センシングシステムの研究
3)災害時救命救急支援を目指した人間情報センシングシステムの研究
4)生体・環境情報処理基盤の研究とメタボリック症候群対策への応用研究
 という優れた提案を選定しました。

 今回の提案では個々の技術に特化してサービスイメージが明確でなかったもの、逆に核となる基盤技術が不明確あるいは予備的調査の不十分なものもありましたが面接に進んだものはどれも優れた研究提案でありました。予算枠の関係から不採択にせざるを得なかった提案の中には、極めて質の高い提案もありました。この分野の研究が重要かつ緊急であることが十分示されたと言えます。