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科学技術振興機構報 第425号

平成19年9月5日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)-8404(広報・ポータル部広報課)
URL http://www.jst.go.jp

超広帯域・高感度ディジタルサーボ地震計の開発に成功

(潮汐による揺れから激震まで一台で計測可能)

 JST(理事長 沖村憲樹)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「ディジタルサーボ地震計」の開発結果を成功と認定しました。
 本開発課題は、横浜市立大学 国際総合科学研究科教授 木下繁夫らの研究成果を基に、平成16年3月から平成19年3月にかけて株式会社東京測振(代表取締役社長 横井 勇、本社住所 東京都足立区扇3丁目14番34号、資本金 4,000万円、電話:03-3855-5911)に委託して、企業化開発(開発費約135百万円)を進めていたものです。
 地球上の地震は潮の干満で生じる非常に小さな脈動から震度7を超える激震まで、振動注1)の周期では1秒間に十数回の短周期から地面の傾斜変化のように長周期のものまで様々です。従来から用いられている地震計はアナログ式であり、測定できる範囲に限界がありました。そのため対象とする揺れの大きさに適した数種類の地震計を複数用意していましたが、装置が増え計測コストがかさむ、解析が難しいという問題がありました。
 本技術は、振動の測定にディジタル技術を採用することにより観測できる振動範囲を拡大し、地球上で発生するほとんど全ての地震を1台の地震計で計測可能とすることを目指したものです。
 広範囲の振動を一度に記録するためには、広い範囲の物理量変化を同時に計測する必要があります。
 本開発では、この要求を実現させるために制御部の回路をすべてディジタル化し、広帯域化とノイズの低減を図りました。また機構部分は振り子の支持に極めて柔軟なバネを採用し高感度化を図りました。これらの新技術により、地震振動として脈動レベルの小さなものから激震までを、1台(外寸:260mm×260mm×250mm(h)、重さ:13Kg)で計測できる地震計を完成しました。
 本新技術による地震計は広帯域かつ高感度である特徴を生かし、地震予知や火山噴火などの研究用途に利用できるうえ、出力を直接ディジタルデータで得られるため、地震の揺れを軽減するビルの制振機構への組み込みなど、産業面での応用も広く期待されます。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 地震発生メカニズムの研究や強震の観測など用途に応じ複数の地震計を設置し使い分けていました。

 現在の地震計は大きく2種類に分類されます(図1)。一つは強震ネットワーク注2)(以下K-NETと略)に代表される大きな地震を対象とするもので、微動と呼ばれる領域の地震は検出できません。もう一つは世界標準地震計観測網注3)に使用される微小地震が対象のもので、高感度地震計、あるいは広帯域地震計と呼ばれます。これは地震の研究や、火山噴火予知に使われ、これらはいずれも大きな地震では振り切れます。現在は計器の特色を使い分け、用途に応じ2台あるいはそれ以上の地震計を同じ場所に設置し、別々にデータ処理をしています。この方法では、常に複数の地震計を管理する必要がありコストがかさむ上、得られたデータは地震計の種類ごとに異なるため解析が難しいという問題があります。
 この問題を解決するために、近年オーディオ機器の記録方式としても使用されているΔ−Σ型A/D変換技術注4)に着目し、従来は複数の地震計で対応していた測定範囲を1台の地震計で処理することを目的として、ディジタル地震計を開発しました。

(内容) ディジタル回路技術と非線形バネを応用し微小振動から激震までを1台で測定できる地震計を開発しました。

 現在は負帰還型と呼ばれる地震計が主に利用されています。サーボ型加速度計とも呼ばれ、「錘の移動を検出し、元の位置に戻すように逆の力を振り子に与える」という制御のループを高速で繰り返して錘の位置を維持します。地震計は振り子の位置を維持するために磁力として錘に加えた力をアナログ電気信号に変換して出力します。本新技術はこの負帰還型を更に発展させ、このループ全体をディジタル化することにしました。ディジタル回路技術の導入により次の効果が得られました。(図2

・ 計測範囲(総合ダイナミックレンジ)注5)を100倍以上拡大できた。
・ 信号を数値として扱うため関数演算による高性能なフィルターを実現した。これにより変換器の自己ノイズを低減でき、非線形特性も改善できた。
・ アナログディジタル変換にΔ−Σ型A/D変換技術を採用し、従来の変換器では120〜140dB前後であった総合ダイナミックレンジを160dB程度まで改善した。

 地震振動の検出には振り子の原理を利用するため、地震計の感度を高めるために柔軟なバネで錘を支える必要があります。バネの反発力が小さいほど錘の僅かな変位の検出が可能ですが、その半面機械的に弱く扱いにくくなります。この問題を解決するため、地震計として初めて非線形バネ注6)を採用しました。それにより次の効果が得られました。

・ 特殊な構造を使わずに錘に掛かるバネの反発力を抑えることができ、高感度を達成した。
・ 脆弱で扱いにくい高感度地震計が、本開発で通常の地震計と同様に取り扱えるようになった。

 電気的、機械的な個々の技術を融合し、試験用の地震観測トンネルを使ってディジタル地震計として設計、製造、検討を重ねた結果、160dBの帯域を測定できる地震計が完成しました。これは1台の地震計で計測できる総合ダイナミックレンジとしては現在最大のものです。(図3)

(効果) ディジタルサーボ地震計では、1台で必要な振動をすべて計測しデータを得ることができるようになりました。

 本新技術のディジタルサーボ地震計は、その超広帯域、高感度な特徴を生かし、研究開発用途や耐震構造設計用地震計、あるいは構造物健全度診断用の地震計として高い性能を発揮します。また、本開発で得られたディジタル制御技術や非線形バネの技術は従来の地震計への応用が可能で、地震計のコストダウンや用途の拡大と精度の向上が期待されるものです。

図1 本地震計の測定範囲
図2 ディジタルサーボ地震計構成図
図3 ディジタルサーボ地震計外観図
用語解説
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社東京測振
〒123-0873 東京都足立区扇3丁目14番34号
代表取締役社長 横井 勇(ヨコイ イサム)
TEL:03-3855-5911 FAX: 03-3855-5921

独立行政法人科学技術振興機構
産学連携事業本部 開発部 開発推進課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5−3
三原 真一(ミハラ シンイチ)、西尾 克俊(ニシオ カツトシ)
TEL: 03-5214-8995 FAX: 03-5214-8999