JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第420号(資料2) > 研究領域 「生命現象と計測分析」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
新規採択研究者及び研究課題


12 戦略目標 「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」
研究領域 「生命現象と計測分析」
研究総括 森島 績(立命館大学理工学部 客員教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
池滝 慶記 オリンパス(株) 主任研究員 1分子超解像空間分析法の開発 2色のレーザー光の照明法を工夫することで、平面的分解能に止まらず、深さ方向に対しても100nm上回る空間分解能をもつ蛍光分析法が可能となります。更に、これを蛍光相関法と組み合わせると、アトℓ(10-18ℓ)という超微小空間内でおきる分子の相互作用を1分子レベルで解析できます。これは生きた生物試料の構造・機能を非襲侵かつ超高分解能で3次元空間解析できることを意味します。本研究では、上記機能をもつ1分子超解像空間分析法の確立を目指します。
上村 想太郎 東京大学 助教 1分子同時計測技術によるタンパク質翻訳操作 タンパク質合成の仕組みを分子レベルで明らかにすることは新薬創製、医療分野への応用が期待されますが、従来までの研究手法では限界があります。そこで本研究では、光ピンセット技術による1分子力測定技術と蛍光測定技術を組み合わせた同時計測を行うことで外力による1分子操作を行い、タンパク質合成の活性を制御することを研究目標とします。さらに抗生物質による翻訳阻害メカニズムを詳細に解明し、新薬の開発を目指します。
荻 博次 大阪大学 准教授 無線・無電極振動子たんぱく質マイクロアレイの創製 癌やアルツハイマー病などの難病の極めて早期の発見、および、それらに対する創薬プロセスに貢献するための超高感度振動子たんぱく質アレイチップ開発をします。振動子センサにおいては不可欠と考えられていました電極と配線を使用しないことにより、従来の感度限界を無くし、飛躍的に感度を向上します。さらに、一枚のチップ内に多数の測定領域を作り、一度に大量のたんぱく質相互作用をモニタリングするマイクロアレイチップを創製します。
小澤 岳昌 自然科学研究機構 准教授 不透明な生体内における細胞内小分子の可視化と光制御法の開発 生命現象の真の理解には、生体分子の機能や動態を低侵襲的に時空間解析する方法が必要です。本研究では二分した発光タンパク質を再構成させる技術を用いて、環状ヌクレオチドとRNAを、不透明な動植物個体内で可視化するプローブを開発します。さらにRNAからタンパク質への翻訳機能を光制御する、新たな原理に基づく機能性分子プローブを開発します。プローブの技術革新を通じて、生理機能の新規発見を目指します。
加納 英明 東京大学 准教授 コヒーレント・ラマン内視分光鏡による生体組織のin vivo計測 ラマン分光法は、非染色・非侵襲で生体の観察を可能とするため、分子レベルでの生細胞分析や病理診断など、生命科学・医学双方に大きなブレイクスルーを創出することが期待されます。本研究では、ラマン散乱光を増強するコヒーレント・ラマン分光法を利用することで、薬剤や病変等による生体組織の構造変化をin vivo、in situで高速に可視化できる、まったく新しいコヒーレント・ラマン内視分光鏡を開発します。
加納 ふみ 東京大学 助教 セミインタクト細胞を用いた蛋白質の一生の可視化解析 コレステロール排出トランスポーターABCA1蛋白質の一生の素過程-転写、翻訳、輸送、分解-を、形質膜を透過性にしたセミインタクト細胞で可視化解析します。動脈硬化など病態時に起こる各素過程の異常を明らかにし、遺伝子発現解析とカップルさせた病態改善因子の同定や、低分子化合物ライブラリーを用いた創薬スクリーニングを目指します。
西山 雅祥 京都大学 助教 高圧力による分子間相互作用変調イメージング タンパク質と水との間で形成される水素結合ネットワークは、分子間相互作用をエネルギー的に最適化する働きがあり、高次の立体構造形成や機能発現において大きな役割を果たしています。本研究では、高圧力技術を用いて、タンパク質の水和状態を可逆的に変化させながら、その構造変化・機能変調を顕微観測する新しい分析技術の開発を行います。
福間 剛士 金沢大学 特任准教授 ビデオフレーム液中原子分解能AFMの開発 生命現象を分子レベルで理解するためには、多数分子・長時間の平均としてではなく、個々の分子の構造・挙動を局所的に高速観察する必要があります。近年、液中での原子分解能観察を可能とする新たな原子間力顕微鏡技術が開発されましたが、その観察速度では動的な生命現象をとらえることはできません。本研究では、この技術の動作速度を向上させ、液中でのビデオフレーム原子分解能観察を可能とし、生命現象の分子レベルでの解明に貢献します。
八代 晴彦 大阪大学 特任研究員 多周波電子核2重共鳴法による酸素発生機構の解明 金属タンパク質の金属イオン周辺の原子の種類と距離情報を得る手段として電子核2重共鳴(ENDOR)法があります。本研究では、従来の技術では不可能であった整数電子スピンをもつ金属タンパク質のENDORも計測可能な装置を開発します。これにより地球上の酸素供給源である葉緑体中の酸素発生機構を、酸素発生マンガン錯体と酸素の材料である水や発生した酸素の位置情報を元に解明します。
若杉 桂輔 東京大学 准教授 蛋白質工学的手法による細胞内環境の計測 蛋白質は、構造・機能単位である「モジュール」の組み合わせで構成されています。本研究では、「モジュール」構造に着目した蛋白質工学的手法を駆使し、さらに物理化学、有機化学、生物化学など化学のあらゆる手法を最大限活用することにより、「ヘム濃度」、「酸化ストレス」などの細胞内環境を計測できる新規機能性蛋白質を創製することに挑みます。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:森島 績(立命館大学理工学部 客員教授)

 本研究領域は、生命現象の解明のために必要な新たな原理や手法に基づく計測・分析の技術に関して、独創的な発想に基づき革新技術を創出し、生命現象の本質に迫る諸問題を解決することを目指したもので、本年度は最終年度の研究提案を募集しました。
 これまでに活発に研究されてきた生体分子の科学から生命現象の科学への進展には生命現象にかかわる計測・分析技術の飛躍的発展が不可欠となります。細胞内での生体分子の動態や生体分子間相互作用など複雑な化学的諸過程を含む生命現象を解明するためには、物理・化学・生物現象を利用した新規な発想に基づく先端的計測分析法の開発が必須となります。また、このような計測技術の開発を支える新しい試薬の開発などの周辺技術研究も公募の対象としました。さらには細胞レベルにとどまらず個体や生態・環境レベルでの研究も対象としました。
 本研究領域の公募に対し、幅広い研究分野から計132件の応募があり、これらの研究提案を10名の領域アドバイザー、4名の外部評価者の協力を得て厳正に書類選考を行い、特に優れた研究提案24件に対して面接選考を行いました。面接選考に際しては、研究のねらい、研究計画などの観点のほか、研究構想が提案者の独自のアイデアに基づくこと、当該研究分野において新規性に富んでいること、研究実施体制が個人規模であること、などを重視しました。
 採択課題数は10件で、新しい発想に基づく意欲的な研究課題を採択することが出来ました。競争率は13倍強と依然高い倍率であり、この分野の研究に対する関心が極めて高いことを示しております。物理原理に基づく新しい計測法、既存の手法の革新的高性能化、分子生物学的手法による細胞内生体高分子の動態解析、化学合成による高感度プローブの開発、新しい分離分析チップの開発など多数の優れた提案がありました。採択された課題はいずれも意欲的かつ挑戦的で、準備状況も進んでいるものが多くありました。他方、提案課題の中には独創性は高いが準備が進んでいないものや、研究対象としては生命現象にかかわる極めて優れた研究でありながら、新規な計測・分析技術開発という本領域の趣旨にそぐわない研究提案もありました。女性研究者からの優れた提案を今年度も1件採択しましたが、提案数そのものが依然として少なかったことは残念でした。