JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第420号(資料2) > 研究領域 「構造制御と機能」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
新規採択研究者及び研究課題


11 戦略目標 「プログラムされたビルドアップ型ナノ構造の構築と機能の探索」
研究領域 「構造制御と機能」
研究総括 岡本 佳男(名古屋大学エコトピア科学研究所 客員教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
石田 康博 東京大学 助教 酸・塩基液晶の鋳型重合による新規多孔性材料の創成 本研究では二つの成分よりなる液晶を用い、その構成要素を巧みに「プログラム」し、液晶状態での重合によりその構造を「凍結」することにより、望みの形状・性質・機能を持った多孔性規則構造材料を得ることを目指します。具体的には、従来の多孔性材料では決して容易ではなかった空孔の「形状・官能基配列・キラリティー・しなやかさ」の能動的な制御に挑戦します。
岩浦 里愛 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 主任研究員 DNAを鋳型としたナノファイバーの構造制御 本研究は、優れた分子認識能をもつDNAと自己集合性分子をナノ構造形成素子として用いることにより、ビルドアップ型ヘリカルナノファイバー構造の構築とその構造制御を目指します。さらに、これらヘリカルナノファイバーの構造形成メカニズムの解明や新しい機能の探索を行い、DNA科学と自己集合体科学の融合による新しいナノ構造形成手法を開発します。
岡崎 俊也 (独)産業技術総合研究所 主任研究員 分子内包によるカーボンナノチューブ機能材料の創製 フラーレンなどの分子を内包したカーボンナノチューブ(CNT)は次世代分子エレクトロニクスを担う1次元ナノヘテロ構造として注目されていますが、そのバンドギャップ変調メカニズムの詳細は未だ明らかではありません。本研究では発光分析法を同物質に適用することによって、分子構造ごとに高分解能でバンドギャップ変調を明らかにし、変調メカニズムに対する指導原理を導きます。また、得られた知見を利用してCNTの高機能化を行ないます。
河合 英敏 北海道大学 助教 適材適所の構造構築を実現するアロステリック制御分子の協同的自己集積法の開発 適材適所の構造構築を実現する手法として、細胞骨格繊維の形成に働く核形成-伸長プロセスは大変魅力的な機構です。本研究では、はじめの会合に伴う構造変化により、続く会合強度を増すアロステリック制御分子を開発し、その協同的な自己集合による「核形成-伸長プロセスに基づく超分子ポリマーの構築」を目指します。さらに動的共有結合を用いた可逆的な架橋形成により超分子ポリマーの運動性・安定性を制御するようなシステムの開発を目指します。
今場 司朗 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 主任研究員 フォトリソグラフィーを活用した糖鎖ナノデバイスの構築 第三の生命鎖として重要な機能を有する糖鎖ですが、その複雑な構造ゆえに現在においても、それらの機能を網羅的に解析できる糖鎖アレイは存在しません。そこで、独自に開発しその有効性を明らかにした「だるま落とし保護法」による糖鎖合成手法と、集積回路作製技術であるフォトリソグラフィー技術を融合し、ガラス基盤上でのビルドアップ型糖鎖合成手法の確立を目指します。
高見澤 聡 横浜市立大学 准教授 分子性固体内微小空間の動的制御と機能化 本研究は、分子性結晶に潜在している動的な構造自由度を利用し、新しい省エネルギーのガス分離プロセスを実現可能とする新規固体機能の開拓を目的とします。動的なナノ空間を有する単結晶材料をリード構造体として用い、ミクロおよびマクロレベル双方の解析による統一的な現象理解と動的構造・物性遷移制御手法の開拓を行います。ガス捕捉・拡散・放出の一連のプロセスを一元的に制御しうる新しいガス分離機構の創出を目指します。
谷口 正輝 大阪大学 助教 自己組織化配線法による超高集積分子デバイスの創製 現在のエレクトロニクスデバイスの微細加工限界を突破し、新しい原理・新機能デバイスを開拓するためには、微細加工技術と自己組織化が融合した新プロセスによるナノアーキテクチャーの創成が必要不可欠です。本研究では、微細加工技術で作製したナノ電極を基点とする自己組織化により、デバイスの基本構造となるネットワーク構造とクロスバー構造を創製し、デバイス動作の実証を行うとともに、超高集積化の限界に挑みます。
中西 尚志 (独)物質・材料研究機構 主任研究員 次元規制型フラーレン超分子を素材とする新規材料創製 化学修飾を施したフラーレンの自己分子集合を基盤とした、簡易・高性能・多様性のある様々な形状の超分子材料の開発を行います。超撥水性を示すフラワー状の組織体の構築、イオン性液体フラーレンの創製、及び分子自己組織化に関する理論解析までを一貫して実施します。また、得られる超分子組織構造の転写による、ナノフレーク状金属表面の創製技術を開発します。
羽村 季之 東京工業大学 助教 反応性分子が拓くπ共役系分子の多様性と機能 原子・分子レベルからのビルドアップ法として、コア分子を基点とする多様な分子構造の導入は物性・機能の面から意義を持つと期待される高次構造体を創出する方法として有用です。本研究では、これまで扱いが難しいと見られてきた高反応性分子を積極的に活用し、これの持つ自発的な反応性を駆使した多様なナノ構造体の自在合成、ひいてはそれらの分子群の織りなす三次元空間を精密に制御する合成方法論の開発を目指します。
前田 大光 立命館大学 准教授 アニオン応答性組織構造の創製と機能探索 本研究では、負電荷を帯びた化学種(アニオン)によって空間制御可能な非環状型π共役系素子を合成し、それらをビルディングユニットとして共有結合オリゴマーやナノスケール組織体(超分子ゲルや液晶など)を構築し、モノマーの動的構造変化を利用した外部刺激応答性の構造制御や機能性の発現に挑戦します。さらに時間に依存した組織構造の状態変化を検証するプロトタイプをデザインし、その評価や制御を行います。
山内 美穂 九州大学 助教 合金ナノ粒子の構造制御と水素機能性発現 化学的活性の高い水素を効率的に利用するには、水素と適度な強さで結合する遷移金属を利用するのが最も良い方法です。本研究では、高い反応性、構造の柔軟性、高い設計自由度などの特長をもつナノ粒子を水素機能性物質として取り上げます。化学的還元により精密に組成・構造を制御した合金のナノ粒子をボトムアップ合成し、温和な条件下で水素吸蔵、透過・分離、水素応答性を有する水素機能性ナノ合金材料の創製を行います。
吉田 亮 東京大学 准教授 自励振動高分子を用いた機能性表面の創製 これまでに開発した自励振動型の高分子鎖やナノゲル微粒子をナノ振動子として基板上にグラフトあるいはアレイ化し、自発的に生じる化学反応波の伝播と共に、表面に添加したナノ微粒子や生体分子、細胞等を自動的に輸送し集積化します。添加のタイミングや波の伝播挙動をコントロールすることにより、最終的に欲しいナノ組織構造を作り上げる「ナノ搬送システム(ナノコンベア)」として、新しい機能性表面の構築を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:岡本 佳男(名古屋大学エコトピア科学研究所 客員教授)

 研究領域「構造制御と機能」は、平成17年度から公募を開始し、本年度は最終の3年目となります。領域の目指すビルドアップ型ナノテクノロジーの難しさは、分子や原子を組織化してナノ構造体を構築する際に、分子や原子の組合せや並びなどに人間の意図を加え、実用的なアウトプットを得るプロセスの体系化にあります。 そのために、様々なアプローチの中にある独創的なアイデアに飛躍の機会を提供することで、ナノ構造の構築とその機能発現につながる技術の多様性を確保し、将来体系化された技術となりうる新しい技術の芽を見いだすことが求められます。
 今年度は126件にのぼる応募がありましたが、これは近年のナノテクノロジーに対する関心の高さと、本領域が材料科学のかなり広範囲の研究を対象としていることによるものと思います。これらの応募課題を研究総括と11名の領域アドバイザーで書面審査し、21件を面接対象課題として選出いたしました。その後、2日間にわたる面接を実施し、厳選の結果、本年度は12件が採択課題に選ばれました。今回採択されなかった課題の中には、面接に選ばれなかった課題を含めて非常に質の高い提案課題が多くあったことは申すまでもありません。
 これら提案の選考に当たっては、「プログラムされた」及び「ビルドアップ型」という概念を意識した独創的な研究提案を求め、構造と機能の関係を明らかにすることを基本に、原子や分子を積み上げてゆくビルドアップナノ構造制御が提案されているか、あるいは本領域が目指す基盤技術開発における独創性や新しい科学・技術分野に展開できる社会的意義の大きい研究テーマであるかを重視しました。
 とくに独創性のポイントは、ナノ構造の構築手法でも、構築したものから発現する機能であっても構いませんが、ナノ構造の構築プロセスの制御が、系の特性に本質的な影響を及ぼすものを対象としました。また、研究で掘り下げる部分は限定されていても、その研究が、ナノスケールから実用的なスケールまで、様々なスケールで起こる現象を結びつける連続的なプロセスを意識した視野の広い研究提案であることを重視しました。
 さらに、すでにかなりの実績がある研究より多様性確保の観点から、リスクの高いチャレンジングな研究を優先して採択しました。