JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第420号(資料2) > 研究領域 「物質と光作用」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
新規採択研究者及び研究課題


8 戦略目標 「光の究極的及び局所的制御とその応用」
研究領域 「物質と光作用」
研究総括 筒井 哲夫(九州大学先導物質化学研究所 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
飯田 琢也 大阪府立大学 助教 デザインされた光場によるナノ複合体の力学制御 ミクロな世界では光が誘起する力も重要な役割を果たします。最近、特定条件のレーザー光照射下で、ナノ物質間に量子力学的効果による遠隔的な力が生じることを理論的に解明しました。本研究ではこの現象に注目し、特性をデザインされた光場でナノ物質間に生じる力と揺らぎのバランスを変化させ、ナノ複合体の運動制御を行うための原理の獲得を目指します。これにより新規光機能を有するナノ材料の操作・製造・計測技術を開拓します。
伊都 将司 大阪大学 助教 光-分子間の力学作用によるナノ化学反応場の創製 本研究では、分子と光との力学的な相互作用(光放射圧)を用いて、溶液中の極微空間で化学反応性を制御する方法、つまり、「光の力」でナノ反応場を創る方法を開発します。同時に、単分子検出法を駆使し、光放射圧が分子のブラウン運動に与える影響を定量的に解析することで分子と光との力学的相互作用を包括的に探求します。本研究の成果は、ナノ構造作製、特定の分子の選択的収集、局所反応制御などへの展開が期待できます。
大久保 貴志 近畿大学 講師 多重機能性混合原子価集積型金属錯体の開発 混合原子価配位高分子は、無機・有機複合材料である金属錯体が集積化する事で実現する特異な構造及び電子状態に加え、混合原子価特有の高い電荷の内部自由度を併せ持つユニークな材料です。本研究ではジチオカルバミン誘導体を架橋配位子として、種々の新規混合原子価配位高分子を合成し、主に誘電測定や非線形光学測定からその非線形外場応答性を明らかにし、同時に新たな多重機能性材料としての可能性も探究します。
勝藤 拓郎 早稲田大学 准教授 遷移金属酸化物の軌道自由度と光の相互作用 遷移金属酸化物には、電子が縮退した複数のd軌道のどれを占めるかという自由度(軌道自由度)が存在します。この軌道自由度が光とどのような相互作用を持つかを調べることは、軌道自由度の励起状態と密接に関連しており、非常に興味深い研究分野です。本研究では、このような軌道自由度と光の相互作用に関して、「物質開発」と「光学測定」の双方を平行して行うことによって基礎的な知見を得ることを目指します。
後藤 敦 (独)物質・材料研究機構 主幹研究員 光ポンピング法を偏極源とした固体超偏極技術の開発 固体内の原子核スピンの非平衡偏極状態である「超偏極」は、次世代情報技術や先端分析技術に技術革新をもたらすと期待されています。本研究では、偏光を用いて半導体内に超偏極を生成する光ポンピング法を偏極源とし、それに偏極転写技術を組み合わせることで、多様な固体内に効率的に超偏極を生成する手法を開発します。さらに、磁気共鳴技術を駆使してその本質を明らかにすると共に、これを自在に制御する手法を開拓します。
瀬高 渉 東北大学 助教 分子コンパスの創製と配向制御による光機能発現 かご型シラアルカンフレーム骨格内にヘテロ環状π電子系を指針として架橋した"分子コンパス"を創製し、光による指針の配向制御や運動制御、およびこれに起因する新規な物性の解明を目指します。このような結晶中の分子運動の物性利用は、これまで殆ど研究されていませんでしたが将来ナノテクノロジーの一分野を形成すると期待されます。本研究の成果は機能性誘電体や高機能光スイッチなど新しい材料への応用が期待できます。
所 裕子 東京大学 日本学術振興会 特別研究員 光と磁気・電気の相関による新規相転移現象の創製 本研究では、物質に光を照射することにより相転移現象を引き起こし、「光を照射することでしか作ることの出来ない物性および物理現象」を作り出すことを目指します。磁性や電気物性がお互いに作用することにより現れてくる機能性や、相転移現象の特徴である「協同効果」や「ゆらぎ」が重要な役割を果たす物理現象を発掘し、新しい物性を持つ機能物質の創製を目標としています。
羽曾部 卓 北陸先端科学技術大学院大学 講師 超分子集合体に基づく太陽電池の創製 合成化学及び超分子化学をはじめとする分子集合体科学の発展により近年、単一または複数の構成分子による分子集合体を分子レベルで精密に構造制御することが可能になってきています。本研究では太陽電池駆動に必須な機能である光吸収及びキャリア生成・移動に適した分子集合体を合成化学及び超分子化学的手法によりあらかじめ溶液中で作製し、機能化を行います。さらに、それら分子集合体を実際に薄膜・デバイス化させ、新規な超分子型太陽電池の創製に取り組みます。
藤原 英樹 北海道大学 助教 ランダム構造内の欠陥領域を利用した光局在モード制御 波長オーダーの無秩序な屈折率分布をもつランダム構造は、多重散乱光の干渉効果によって光局在を誘起できる為、作製や機能化が容易な光反応場として注目されています。しかし、その特徴である無秩序さのため、局在モード特性を制御する事は困難です。本研究では、ランダム構造の均一化と構造内に散乱体の無い領域を故意に設ける事により、構造内に制御された光局在モードを実現し、新規な光反応場の構築を目指します。
森本 正和 立教大学 助教 光機能性有機強誘電結晶の創製 固体物性を光により制御できる光機能性分子結晶材料へ向けての基礎として、従来とは異なる新機構、すなわち光可逆なフォトクロミック反応により強誘電性の変化を示す有機分子結晶を創製することを目的とします。光化学反応と固体物性が相関した「フォトクロミック強秩序材料」として、将来エレクトロニクス、フォトニクスなどの分野で発展し得る革新的機能物質の開拓を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:筒井 哲夫(九州大学先導物質化学研究所 教授)

 本研究領域は、平成18年度からスタートし2年目を迎えた領域であり、「光機能を物質から取り出す」、「光を用いて物質の本質を調べる」、「光を用いて機能物質を創成する」という観点で、有機物、無機物、生物関連物質などの凝集体(固体から、薄膜、分子集合体、液晶、ゲルに至るまで)に対する光の作用について多面的に追求する研究を対象として本年度も募集を行い、選考を進めました。
 国公私立大学、独立行政法人研究機関など、外国の研究機関からのものを含めて総計107件の応募がありました。昨年と同様に応募内容は多岐にわたっており、有機化学、無機化学、材料科学、物性物理、分光学、光物理、物性理論にまで及んでいました。対象とする物質としては、有機物がやや多いものの、無機物、生物関連物質、金属まで多様であり、一方研究手法としては物質合成や構造体形成手法に重点を置くものと、物性研究や機能発現に重点をおくものがほぼ等しい件数ありました。応募件数は昨年度とほぼ同数でしたが、昨年と比較しても、現実的で具体的な内容であって、よく練れた研究提案が増えていましたことは、研究総括の方針を応募者に充分理解してもらえたものと思われます。
 すべての応募書類を9名の領域アドバイザーと研究総括とで査読、評価を行い、22名を面接対象に選びました。書類選考の過程では、提案の新規性、独創性は重視しましたが、更に研究提案における研究者の主体性、研究計画の発展性、将来の科学技術へのインパクトについても、充分な議論を加えました。一般的な意味での学問的な質は高いものの、一方で計画のまとまりはあるが焦点が絞りきれていない提案、提案者独自の発想が見えず一般論を越えていないと見なされる提案、実験計画の中味に詰めの甘さが伺える提案などは、残念ながら、面接対象には選ばれませんでした。
 対象者22名について面接選考を行い、最終的に10名を採択しました。面接選考においても、将来の日本の科学技術にイノベーションをもたらす研究テーマと、それを支える優れた研究人材の育成という目的に合致する、最も優れた提案を選び出すことだけを念頭に選考を進めました。その結果、昨年の10名と併せて20名の、学問的背景も研究対象も大変広い研究者集団を作り出すことができました。
 なお本年度も採択倍率が10倍を越えましたので、優れた提案でありながら採択にあと一歩至らなかったものが多数出ました。また、残された小さな問題点を修正さえできれば、採択ラインを越えることができたと惜しまれる提案もありました。本領域の募集の最終年度となる来年度には、これまで応募されて惜しくも採択に至らなかった方々は再度の挑戦を、そして、今年度までに採択された20名の研究者に加わり、新たな展開を目指す意欲のある方々も第3年度目への挑戦を、是非とも期待します。