JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第420号(資料2) > 研究領域 「界面の構造と制御」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
新規採択研究者及び研究課題


6 戦略目標 「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」
研究領域 「界面の構造と制御」
研究総括 川合 眞紀(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授、理化学研究所 川合表面化学研究室 主任研究員)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
大島 義文 東京工業大学 助教 電極ギャップに発現する単分子ダイナミックス 分子を用いたナノデバイスの開発で、フラーレン分子は、化学的・機械的安定性から注目されています。ナノデバイスの実現には、フラーレン分子伝導特性の解明が欠かせません。そこで、本研究ではフラーレン分子と金属電極の結合状態を制御し、伝導特性を計測する実験を行います。特に、結合状態を直接確認することで、信頼性の高いデータを得ることができます。結合状態を直接観察することは、分子マニピュレーション技術への展開も期待できます。
小笠原 寛人 スタンフォード大学 スタッフサイエンティスト 三相界面の化学組成と電子状態の解明 水素燃料への社会的関心が集まっています。電気分解による水素燃料の製造、燃料電池による水素燃料の利用における特性の改善には、これらの化学反応が進行する触媒表面での活性化損失をできるだけ小さくしなければなりません。電気分解や燃料電池の触媒反応は気相-電解質液相-触媒相の三つの相が互いに接している三相界面で進行します。本研究では、差動排気機構を備えた電子分光器と高輝度放射光からの軟エックス線を利用した光電子分光で、三相界面での分子の挙動を明らかにすることを目指します。
川崎 忠寛 名古屋大学 助教 ナノ金触媒の反応中における表面・界面構造変化の直視解析 金は化学的に安定な物質ですが、これを数ナノメートルのサイズにし、金属酸化物の表面に強固に接合することで、極めて高い触媒作用が発生します。しかし、そのメカニズムは未だに明らかにされていません。そこで、本研究では申請者自ら新規開発した電子顕微鏡装置で、反応中の金ナノ触媒を直接観察し、その表面・界面で起こる原子レベルの変化を明らかにすることで、本触媒の活性発現機構の解明を目指します。
齋藤 彰 大阪大学 助教 放射光STMによるナノ構造の分析と制御 界面とは、異種物質の境界面です。では、その「異種」という認識、そもそも化学種同定をナノスケールでどう行うか、今なお困難なこの問に対し、本研究は「原子分解能で」「異種原子・分子の識別」を行います。具体的には高輝度、特定波長のX線をSTM観察点に入射し、その像変化を元に高精度分析を行います。さらに分析だけでなく、高輝度X線とSTMの局所刺激を組み合わせ、ナノサイズの反応「制御」など、広く物性研究に応用します。
柴田 直哉 東京大学 助教 ナノコヒーレント界面の構造計測と機能設計 ナノサイズの金属クラスターと結晶との界面は、触媒活性や量子デバイス機能を決定する重要な局所界面構造です。しかし、この界面の原子・電子構造に関しては未だ不明な点が数多く残されています。そこで本研究では、サブÅ分解能を有する走査透過型電子顕微鏡法をベースに、ナノクラスターと結晶表面とが強く相互作用するナノコヒーレント界面の直接観察手法を確立し、その機能発現メカニズムの解明と設計指針の構築を目指します。
竹谷 純一 大阪大学 准教授 有機単結晶シートのヘテロ接合による高機能ナノ界面の創製 本研究は有機単結晶のヘテロ接合を作製し、ナノ界面に新規な機能をもつ高移動度の電子伝導層を構築します。厚さ1μm以下の有機単結晶シートから最高移動度の有機トランジスタを開発した手法を援用し、ドナー性及びアクセプター性有機単結晶シートを貼り合せたナノ界面に電荷移動を引き起こします。高移動度かつ高キャリア濃度の界面電子伝導を実現し、超伝導状態などの電子相転移や巨大応答デバイスに結びつく新現象の発現を目指します。
館山 佳尚 (独)物質・材料研究機構 主任研究員 固液界面酸化還元反応の理論的反応設計技術の構築 本研究は光触媒や色素増感太陽電池の効率改善や耐久性向上に向け、理論シミュレーションによる固液界面構造・反応設計の実現を目標に、固液界面における酸化還元(電子・プロトン移動)反応を取り扱うための新しい第一原理"自由エネルギー"計算手法の開発とその固液界面適用に向けた拡張を行います。さらに半導体電極-電解質溶液界面における電子移動と化学結合変化の電子・原子スケールでのメカニズム解明とその制御法探索に取り組みます。
新留 琢郎 九州大学 准教授 光・環境-応答型多層界面金ナノロッドの創製 本研究は熱・光といった外部刺激、あるいは、pH、酵素活性といった環境に応答する化学結合を界面とし、金属ナノロッド表面に多重層を構築します。このナノ材料はこれら刺激や環境変化により、層構造が連続的に崩壊し、その機能がコントロールされます。この多層界面をもつナノ粒子はドラッグリリースシステムのための素材となるばかりでなく、自在に機能を変換できるナノデバイスを提供し、ナノテクノロジーの重要な基盤技術となります。
西野 智昭 東京大学 助教 分子間トンネル効果顕微鏡による単一分子分析法の開発 本研究では、今まで見ることのできなかった、界面における化学的性質や状態を単一原子/分子レベルで可視化する手法を開発します。カーボンナノチューブなど、様々な電子機能を有する機能性分子のフロンティア軌道を可視化し、界面の影響下における単一分子の物性評価を可能とします。また、キラル化合物単分子の立体化学を可視化することにより、機能性キラル界面の創製を目指します。
渡邊 一也 自然科学研究機構 助教 超短パルス光による振動励起を用いた表面反応制御 遷移金属などの固体表面上では、分子と固体の相互作用により特異な化学反応が進行します。この化学反応はピコ秒(ピコは10のマイナス12乗)程度の時間で起きる原子核の運動により支配されます。本研究では、これと同程度の時間幅を有する特殊なレーザー光を用いて、分子の原子核の運動を観測・制御し、固体表面に吸着した分子の化学反応を制御することを目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:川合 眞紀(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授、理化学研究所 川合表面化学研究室 主任研究員)

 界面の制御は、材料科学や生命科学のほとんど全ての先端分野で興味ある現象や機能発現に関わっています。ナノスケールレベルの界面の観測や分析手法の開発、およびそれによる知識の蓄積、界面のナノ構造制御技術などを背景とした独創的な着想をもつ研究を対象として選考を実施しました。
 本研究領域の提案に対し、国公私立大学、独立行政法人研究機関、国立研究機関等の方々から計157件もの応募が有りました。応募内容は、高度な分析手法による触媒反応現象や界面の分子メカニズムの解明に関する研究、固液界面における酸化還元反応を取り扱うための新しい計算手法の開発、超短パルス光やX線照射による表面反応制御に関する研究、など、多岐に渡り、界面科学の基本的な共通概念の構築に繋がる研究が提案されました。また、ドラッグデリバリーのための新しいナノカプセルや機能性多層ナノロッドの研究、有機電子デバイス創製につながる有機単結晶の界面電子伝導制御に関する研究なども提案されました。これらの応募課題を11名の領域アドバイザーが書面審査し、22件の面接対象課題を選考いたしました。その後の2日間にわたる面接で本年度は10件が採択課題に選ばれました。選考にあたっては、提案者自身のオリジナリティおよび、物質科学の新たなブレークスルーに繋がり得るかなどを重視して選考いたしました。面接に残るには約7倍、採択されるには約16倍の狭き門を通過しなければならないことになりました。今回採択されなかった課題の中には、面接に選ばれなかった課題を含めて多くの非常に興味深い提案課題があったことは申すまでもありません。
 本研究領域は、材料・生命科学の広範な研究分野を対象としておりますので、応募いただいた研究内容も多くの研究分野にまたがっております。この領域では、研究者個人の発想に基づく創造的な研究に重点を置いていますが、異分野の研究者間の交流を通じて新しい発見や発明が生まれることも多いと考えています。この領域が物質科学の新たなブレークスルーに繋がる役目を担えることを期待しています。