JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第420号(資料2) > 研究領域 「RNAと生体機能」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
新規採択研究者及び研究課題


5 戦略目標 「医療応用等に資するRNA分子活用技術(RNAテクノロジー)の確立」
研究領域 「RNAと生体機能」
研究総括  野本 明男(東京大学大学院医学系研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
奥脇 暢 筑波大学 講師 RNA-タンパク質複合体による細胞核機能・構造制御 細胞核の中にはRNAの転写・修飾・切断等を協調的に、効率よく行うために機能的な領域が形成されます。核小体はリボソームの生合成を行うための機能領域です。本研究では、核小体に局在するRNA-タンパク質複合体の機能解析を通して、RNA分子の新規機能の解明と、核小体構造形成機構の解明を目指します。本研究の成果から、細胞核の構造形成に関わる基本原理を見出したいと思います。
北畠 真 京都大学 助教 紫外線によって生じるRNA損傷の修復機構 さまざまなストレスによりRNAにはDNAと同様な損傷が起こります。損傷をもったRNAに細胞がどう対応し障害を克服するかについては、これまでにほとんど知られていませんでしたが、紫外線によりリボソームRNAに生じた損傷がリボソーム自身によって修復されるという新しい現象を見出しました。本研究では、RNA修復の詳細なメカニズムとその生物学的意味を明らかにすることを目指します。
富田 耕造 (独)産業技術総合研究所 グループ長 RNA末端合成プロセス装置の分子基盤 生体内には核酸性の鋳型を用いずRNAを重合する鋳型非依存的なRNA合成システムが存在しています。鋳型非依存的なRNA合成は、遺伝子発現に重要な役割を果たしていますが、その動的反応分子メカニズムは永年の謎です。本研究では鋳型非依存的なRNA合成酵素族がRNAを重合していく様子の動的分子基盤を解明するとともに、鋳型非依存的RNA合成酵素をコアとしたRNA末端合成プロセス装置の機能構造相関の解明を目指します。
西村 健 (独)産業技術総合研究所 日本学術振興会 特別研究員 細胞質持続発現型RNAベクター 生体への遺伝子導入の際、ベクター遺伝情報の染色体への挿入による発癌等のリスクが存在します。本研究では、持続発現性・安全性を併せ持つ新規ベクター「細胞質持続発現型RNAベクター」を、細胞質内で持続感染するセンダイウイルス変異株を基に作成し、遺伝子治療・再生医療につなげることを目指します。また、持続感染機構の解析からRNAを生体内に安定維持させる技術や、持続発現しているベクターを除去する技術の確立も目指します。
増富 健吉 国立がんセンター プロジェクトリーダー RNA依存性RNAポリメレースとそのクロマチン構造維持機構 RNA依存性RNAポリメレース(RdRp)は、RNAにより介在されるゲノム構造維持機構の中でその根幹を担う重要な酵素です。哺乳動物においてもRdRpと機能的な相同性を有する分子の存在は予想こそされていますが、依然としてその立証はされていません。本研究では、ヒトにおけるRdRpの同定とその生物学的意義の解明を目指します。
山下 暁朗 横浜市立大学 COE特任助教 RNA品質管理機構を介した遺伝子発現制御 ヒトの遺伝性疾患および癌における変異のうち約1/3は異常な早期終止コドンを生じますが、mRNA品質管理機構により変異mRNAが排除されます。本研究では、異常な終止コドンを有するmRNA品質管理機構の分子メカニズムを基に、異常終止コドン認識過程を阻害し、認識複合体を濃縮することにより、変異mRNAおよびその構造を簡易に明らかとする方法の確立を目指します。この技術は、癌および遺伝性疾患の診断、治療の基盤技術となることが期待されます。
吉川 学 (独)農業生物資源研究所 主任研究員 植物におけるRNAサイレンシング経路への導入機構の解明 植物は、ウイルスなどの外来因子や高発現している遺伝子を異常と認識し、それらの発現を抑制します。RNAサイレンシングと呼ばれるこの機構は、標的と相補的な配列をもつ低分子干渉RNA(siRNA)が関与します。本研究は、植物のsiRNAの生成過程を解析することによって異常なRNAの認識機構を解明し、人為的な遺伝子発現制御へ向けた基盤の構築を目指します。
吉久 徹 名古屋大学 准教授 細胞質の機能RNA・RNPの品質管理機構 生物はタンパク質やRNAといった多様な分子を正確に作り出すだけでなく、できあがった分子のうち異常なもの、機能を失ったものを確実に見つけ出し、適切に排除(=分解)する優れた品質管理の能力を持っています。本研究では核で生まれ、機能の場である細胞質に運ばれたRNA、特にtRNAなどの低分子の機能RNAが、できあがって機能している最中に受ける品質管理・分解のメカニズムの解明を目指します。
米山 光俊 京都大学 准教授 細胞内ウイルスセンサーによる非自己RNA認識様式の解明 今なお大きな社会問題になっているウイルス感染症に対抗するためには、ウイルスと宿主である我々の細胞との関係を理解することが必須です。近年明らかになってきた"細胞内ウイルスRNAセンサー"分子群の機能解析を通じて、どのようにして細胞が"自己"と"非自己"RNAを識別して生体防御システムを発動させているのかを解明し、その成果をもとに新たな抗ウイルス薬剤の開発を目指した解析を進めます。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:野本 明男(東京大学大学院医学系研究科 教授)

 ポストゲノム時代における生命科学研究において、RNA研究はプロテオームと並ぶ最重要課題として位置付けられています。まだまだ重要な未知のRNA機能が数多く存在すると思われ、その探索研究は生命現象を理解するために非常に重要です。またRNA研究の原点はRNAゲノムにあると考えられますので、この方面の研究も大いに活性化するべきと考えています。一方、既知の機能性RNAは、生命体における本来の機能の理解が未だ不十分ながら、既知機能のみを抽出して利用する方向に急速に進展し始め、非常に有望な医療応用等に資する技術となる可能性を示しています。本研究領域では、生命活動におけるRNAの新たな機能を探索する研究、および機能が明らかとなっているRNAを活用し医療応用等を含めたRNAテクノロジーに関する研究を対象とし、第2回目の募集・選考を行いました。
 RNAを取り巻く研究に限定した本研究領域ですが、計77件と多数の応募があり、RNA研究に対する関心の高さが示されました。これらの研究提案を11名の領域アドバイザーとともに書類選考を行い、とくに内容の優れた研究提案20件を面接対象として選考しました。面接選考においては、申請者の研究の主体性、研究のねらい、研究計画の妥当性、将来性等を中心に審査しました。研究構想が本研究領域の趣旨に合っていること、高い独創性と新規性に富むことを重視したのは言うまでもありません。選考の結果、本年度の採択課題数は、9件となりました。長い歴史を持つRNA研究の新展開には、これまでの伝統的研究を大切に生かしつつ、新しい視点を大胆に取り込むことが必要です。我が国発の新たな研究領域の開拓を目指す基礎研究および独創的な発想に基づく技術展開という視点からみて、面接選考の対象とならなかった研究提案の中にも、優れたものが多数ありました。
 来年度も、世界で急速に展開しているRNA研究領域において、将来を担う研究者の方々が、十分に練り上げた研究構想を持って挑戦してくれることを願っています。