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<用語解説>

(注1) mRNA(メッセンジャーRNA)
 細胞のDNAが持つ遺伝情報が発現する際には、塩基配列を写しとったRNA分子、すなわちmRNAが生成され、情報伝達のメッセンジャーの役割を担います。例えば、たんぱく質をコードする遺伝子では、生じたmRNAを鋳型として細胞内のたんぱく質が合成されます。

(注2) リン酸化
 たんぱく質が受ける修飾反応の一つです。リン酸化を細胞内スイッチとして利用する利点はリン酸の付加(OF)と脱離(OFF)が比較的短時間に行えることであり、たんぱく質リン酸化はその特徴を生かして、細胞内のシグナル伝達機構において、中心的な役割を果たすと考えられています。

(注3) キナーゼ(たんぱく質リン酸化酵素)
 たんぱく質をリン酸化する酵素の総称で、一般的には基質たんぱく質のセリン、トレオニン、チロシン残基などをリン酸化し、そのたんぱく質の生理機能などを調節します。なお、脱リン酸化反応を司る酵素として、たんぱく質フォスファターゼが知られています。

(注4) PCR
 Polymerase Chain Reactionの略。特定のDNA断片を大量に増やす手法で、DNAを複製する酵素(DNAポリメラーゼ)を利用して、特定のDNA断片だけを増幅し、検出します。目的のDNA領域をはさんだ2種類のプライマーとDNA合成酵素(ポリメラーゼ)によるDNA合成反応を温度コントロールすることにより短時間に特定DNA領域を数10万倍に増幅することができます。逆転写酵素によるDNA合成とPCRを組み合わせたRT-PCR(reverse transcription-PCR)を用いればmRNAの解析も行えます。

(注5) 上皮成長因子受容体(EGFR: epidermal growth factor receptor)
 皮膚など上皮系の細胞に働いて、細胞増殖を促すたんぱく質を上皮成長因子と言いますが、その細胞側の受容体がEGFRです。EGFRたんぱく質は細胞内領域にチロシンキナーゼ酵素活性を有しており、上皮成長因子が結合すると、そのキナーゼ活性が誘導されます。一部の肺がん症例において、EGFRの遺伝子異常が見つかりました。この異常はEGFRたんぱく質のキナーゼ活性を高め、上皮成長因子が結合していない状態でも、EGFR酵素活性を上昇させて肺がん発症を誘導するとされています。

(注6) ゲフィチ二ブ(gefitinib)
 EGFR選択的にそのチロシンキナーゼ活性を阻害する薬剤としてgefitinibが開発され、市販されています(商品名 イレッサ、アストラゼネカ株式会社)。EGFR変異を有する肺がんに有効ですが、不用意に用いると重篤な間質性肺炎を生じることが知られています。

(注7) 肺腺がん
 肺がんは、がん細胞の性質や生じる組織によって様々に分類されますが、そのうちの肺腺がんは、我が国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めるといわれています。通常の胸部のレントゲン写真で発見されやすい「肺野型」と呼ばれる、肺の末梢に発生するのがほとんどで、進行の速いものから進行の遅いものまでいろいろあります。

(注8) 染色体短腕
 核内のヒトDNAは、24種類の染色体と呼ばれる構造に分かれて格納されています。ヒトでは22対の常染色体とX,Yの性染色体の計46本から成ります。それぞれの染色体には、中心付近にセントロメアと呼ばれる狭窄部が観察されますが、完全な中心に位置しないため、両末端からセントロメアまでの長さに長短が生じます(長腕部と短腕部)。

(注9) 逆位
 一本の染色体内で2カ所の切断が生じ、遊離したフラグメントが反対向きに元の染色体と再結合した状態のことを指します。切断点が遺伝子の中にあると、今回のEML4-ALKのように、その遺伝子が他の遺伝子と融合遺伝子を形成することもあります。白血病の一部に生じる16番染色体の逆位が有名です。