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科学技術振興機構報 第399号

平成19年5月28日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)-8404(広報・ポータル部広報課)
URL http://www.jst.go.jp

味をデジタル化する「味覚センサ」の開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「人工脂質膜注1を用いた品質管理用高耐久性高速味覚センサ」の開発結果をこのほど成功と認定しました。
 本開発課題は、九州大学大学院システム情報科学研究院教授 都甲とこう 潔 きよしらの研究成果を基に、平成17年3月から平成19年2月にかけて株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー(代表取締役社長 池崎秀和、本社住所 神奈川県厚木市恩名5丁目1番1号、資本金95百万円、電話:046-296-6609)に委託して、企業化開発(開発費約160百万円)を進めていたものです。
 食品産業や医薬品産業では、新商品開発や品質管理の検査方法として人の感覚による味の評価(官能試験)が広く行われています。このような検査では、検査員(パネル)の個人差を解消して客観性を向上させるため、味をデジタル化(数値化)する味覚センサの利用が提唱されています。しかし、従来の味覚センサは応答特性の変化が早かったため、食品の品質管理のような非常に高い安定性が要求される現場で使用するには耐久性が十分でありませんでした。
 本事業では、味覚センサに用いている膜の材料を改良して、センサの耐久性を向上させました。さらに、各味覚のセンサの組み合わせを考慮して使用する物質を最適化したことで、苦味・渋味・酸味・旨味・塩味を同時に測定することが可能になりました。これにより、測定にかかる時間が大幅に短縮され、測定機能のスピード化を実現しました。また、本技術の成果を実際の品質管理現場で活用するため、味の測定が正常に行われていることを自己診断できるシステムも同時に開発いたしました。その結果、味の解析機能を有した味覚センサの製造が可能になりました。
 本技術によって開発された製品は、脂質膜注1を利用して味を感知するという、人間の舌に類似したメカニズムを有しています。耐久性が高く、迅速に複雑な味をデジタル化できるのが特徴です(参考図)。大手食品メーカーでは合理性を追求するために味の均一化が進んでおり、その品質管理として味覚のデジタル化が注目されている他、医薬品業界における"苦くない薬"の製剤開発など、さまざまな分野での利用が期待されます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 人による官能試験をデジタル化するセンサが求められていました

 人間の舌は主に5つの味(甘味、酸味、塩味、うま味、苦味)を感じ、その情報は神経を伝わって脳に届き識別されます。さらに、辛さや渋味、コクや香り、温度、色などさまざまな要因が影響し合って、総合的な「味覚」を感じるようになっています。その味覚をデジタル化(数値化)するセンサが求められていました。
 食品メーカーなどにおいては、検査員(パネル)が食品の味を実際に舌で吟味する人の官能による味の評価が、新しい商品の開発や品質管理を行う上で、有用な判断基準となっています。しかし、検査をする側の人間に個人差があり、また一人の人間が検査する数には限界があるため、客観的な評価が困難でした。また、官能試験自体がたいへんな作業で疲労度が大きく、検査員(パネル)の育成が難しいなどの問題も指摘されていました。そこで、味を数値化する味覚センサの利用が提唱されていましたが、光・音などのセンサが高度に発達しているのに対して、味物質の種類は膨大であり、これらの味物質間で相乗・抑制効果の相互作用注2があるため、味覚センサの開発は遅れていました。

(内容) 味覚センサの脂質膜を改良して識別性と耐久性を向上させました

 人間の舌の表面は、全体が脂質膜で構成されていて、食べ物の味物質が舌の脂質膜に吸着されると膜の内側と外側で電位差が生じます。人工脂質膜を用いて人間の舌と同様の電位差を生じさせ、これを測定すれば、味覚をデジタル化(数値化)することが可能になります。従来の味覚センサは、応答特性の変化が早かったため、食品の品質管理のような非常に高い安定性が要求される現場で使用するには耐久性が十分でありませんでした。本事業では、脂質膜を改良させて苦味や酸味等個別の味に対する識別性を向上させると同時に、従来品比較で10倍以上の耐久性を実現させる技術を開発しました。
 味覚センサとは、苦味センサや渋味センサなど個別の味を測定するセンサの集合体です。従来は、個別のセンサを独立して最適化していました。そのため、あるセンサに用いた物質が別のセンサに悪影響を与える場合があり、従来は全ての味を同時に測定することができませんでした。今回、各センサの組み合わせを考慮して使用する物質を最適化した結果、少量のサンプルでも苦味・渋味・酸味・うま味・塩味を同時に測定することが可能になりました。これにより、測定時間が大幅に短縮され、測定機能のスピード化を実現しました。味覚センサでは、脂質膜に味物質が吸着して味を認識する測定工程と、吸着した味物質を洗い流して次の測定に備える洗浄工程が繰り返されます。味物質と脂質膜の吸着が強すぎると、洗浄工程で洗い流すことができず、脂質膜に蓄積した味物質が妨害し、安定した測定ができなくなります。逆に洗浄工程が強すぎると、脂質膜から味物質に応答する成分が流出してしまうため、耐久性が低下します。そこで本事業では、味物質に対する反応性と洗浄工程における安定性を考慮して、脂質膜を構成する成分を設計いたしました。その結果、識別性と耐久性をあわせ持った味覚センサの製造方法を確立しました。
 前述のとおり、味覚センサは苦味センサや渋味センサなど個別の味を測定するセンサの集合体です。センサに1本でも不具合があれば、正確な測定ができなくなります。そこで、今回全体として味覚センサが正常に稼働していることを確認するための自己診断を行うソフトウェアを開発いたしました。これは、センサから得られる数値と人間の感覚との相関性を確立するための官能試験を実施し、そのデータ(相関性)に基づいて、測定結果を味として表現する新しい解析ソフトウェアです。これにより、より正確に数値を求めることができます。
 本技術を用いて製造した味覚センサは、2,000回の測定を行っても応答特性の変化は20%以下と安定しており、従来技術と比較して耐久性が10倍以上も向上しています。これにより、客観的な基準で味をデジタル化(数値化)することが可能になったことを実証いたしました。

(効果) 食品産業や医薬品製造などにおける味の官能試験の品質向上に貢献

 本技術は、個々の物質の濃度を測定するといった従来の分析法とは異なり、複合的に味を評価するセンサです。脂質膜を用いた味覚センサの特徴は、例えば、コーヒーに砂糖を入れるとコーヒーの苦味が消えたりするといった、人の舌の反応を敏感に模していることです。本開発成果品は、脂質膜の長所を残しながら識別性と耐久性を向上させました(参考図)。その結果、応答特性が一定になり、食品の品質管理のような非常に高い安定性が要求される現場で使用することが可能になりました。また、自己診断機能と解析ソフトウェアを開発したことにより、特別な知識がなくても安定した結果が得られるようになりました。味の官能試験の精度が向上し、人任せだった味覚がデジタル化されることで、食品の品質管理や、医薬品業界における"苦くない薬"の製剤開発など、さまざまな分野での利用が期待されます。また、センサの条件を変えることによって、キレ、コクと言った後味をもデジタル化が可能となることで、料亭やおふくろの味の再現が簡単にできるようになります。

参考図
用語説明
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー
生産技術・サポート部
内藤 悦伸(ナイトウ ヨシノブ)
〒243-0032 神奈川県厚木市恩名5−1−1
TEL: 046-296-6609 FAX: 046-225-7933

独立行政法人科学技術振興機構
産学連携推進事業本部 開発部 開発推進課
三原 真一(ミハラ シンイチ)、剱持 由起夫(ケンモチ ユキオ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5−3
TEL: 03-5214-8995 FAX: 03-5214-8999