本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 麻酔ガスの無駄が少なく、安全な全身麻酔システムが待望されていました。

 現在、全身麻酔中に供給される麻酔ガスのうち、患者に摂取されるものはごく一部であり、摂取されないガスは大気中に捨てられています。全身麻酔中に、患者の呼吸気の流量、ガス成分、濃度を計測し、患者に摂取された麻酔ガス量と、患者の代謝※1状態を監視できれば、供給すべき麻酔ガスの量を必要最小限にとどめることが可能です。しかし、呼吸気は、短時間のうちに変化することに加えて、麻酔時は供給するガスの組成、濃度が特殊であり、一般に用いられている代謝計算式※2が適用できないため、これまでは呼吸気から代謝状態を計測することができませんでした。

(内容) 麻酔ガス下でも患者の代謝状態を推定可能な新しい麻酔システムです。

 本新技術は、ミキシングチャンバにより呼気の時間変化を相殺して平均的ガス濃度を計測し、同時に計測される呼吸気の流量値と合わせて麻酔ガス用に新たに考案した代謝計算式から酸素、麻酔ガスの消費体積を算出、表示して麻酔ガスの調節に必要な情報を提供する全身麻酔システムです(図1)。本開発では、ミキシングチャンバの小型化に取り組んだ結果、代謝モニターのためにミキシングチャンバや他のガス計測部を追加したにもかかわらず、麻酔システムの大きさは従来品とほぼ同等に抑えられました(図2)。また、新代謝計算式は従来のように身体に不活性な窒素ガス濃度を計算の基準とする必要がないため、麻酔ガスのように窒素を含まない状態でも計算が可能となりました。このアルゴリズムの妥当性は、動物実験や、実際の麻酔中の呼吸ガス濃度を用いた計算等により検証されています(図3)

(効果) 麻酔ガス量が削減できるとともに、安全な全身麻酔が可能となります。

麻酔ガス摂取量と代謝の両面から、麻酔の状態を常に把握できるため、供給する麻酔ガスを必要十分な量に制御することができます。
全身麻酔中の身体の状態を、直接的な生命活動である代謝の面から把握できるため、状態変化の察知が容易であり、麻酔時の安全性が向上します。
 本システムにより、大気中に廃棄される麻酔ガス量が劇的に減少するため、麻酔ガスが有効に利用される共に、オゾン層破壊も抑えられることが期待されます。また、麻酔中の安全性向上に寄与する患者の代謝状態が容易に監視できるため、手術における麻酔医の負担が低減され、将来的には麻酔の自動化などに道をつなぐ技術となることが期待されます。

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This page updated on March 23, 2004

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