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別紙2

委託開発の採択課題の内容


課題名: 膀胱癌再発予防ペプチドワクチン
新技術の代表研究者: 東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター センター長 中村 祐輔
開発実施企業: オンコセラピー・サイエンス株式会社(神奈川県川崎市)
新技術の内容:
 本技術は、正常臓器ではほとんど発現が見られず、膀胱癌で特異的、高頻度に発現している新規の腫瘍抗原を用いたペプチドワクチンに関するものである。膀胱癌の患者数は高齢者人口の増加につれて年々増えており、手術による腫瘍の摘出や既存の治療法では3~4割程度で再発し、その後再発を繰り返しながら、最終的には膀胱の全摘出をよぎなくされる場合が多く、患者のQOLの向上が求められている。
 本技術では、網羅的な遺伝子発現解析により、膀胱癌に高頻度に発現し、正常細胞では発現していない新規の遺伝子・タンパク質を同定し、それらをワクチンの抗原として用いることで、免疫細胞を活性化し、膀胱にある癌細胞だけを攻撃することを可能にした。
 本技術により、副作用なく、膀胱癌の再発を予防でき、患者の膀胱温存が図れる治療法として新しく確立することが期待される。

課題名: 水産廃棄物を用いた凝集沈殿剤の製造技術
新技術の代表研究者: 東京海洋大学 海洋科学部海洋環境学科 助手 榎 牧子
開発実施企業: 東洋建設株式会社(東京都千代田区)
新技術の内容:
 本技術は廃棄海藻から抽出したアルギン酸ナトリウムと、カキなどの廃貝殻から得られる塩化カルシウム水溶液を助剤として組み合わせた天然物由来の凝集沈殿剤製造技術である。
 土木、浚渫工事等で発生する濁水処理対策は化学系高分子凝集剤が用いられているが、沈殿後の放流排水のpH対策や重金属イオン含有の問題などから、安価で環境負荷の小さい凝集沈殿剤の開発が望まれている。本技術では貝殻を凝集沈殿助剤の原料として利用するだけでなく、海藻からアルギン酸ナトリウム抽出時の原料としても利用するため、廃棄物の完全リサイクルが可能となる。
 水産廃棄物の海洋投棄による海洋汚染問題等が深刻化する中、二つの廃棄物を用いた本処理技術により、有用物の生産と環境負荷低減の相乗効果が期待される。

課題名: アスベスト含有複合材の無害化処理装置
新技術の代表研究者: 国立高等専門学校機構 群馬工業高等専門学校 物質工学科 教授 小島 昭
開発実施企業: 美濃窯業株式会社(岐阜県瑞浪市)
新技術の内容:
 本技術は繊維状アスベスト含有複合材を塩化カルシウム反応液に含浸したのち、低温で加熱することにより、結晶構造と繊維構造を崩壊させ無害化しようとするものである。
 アスベスト無害化処理技術としては既に溶融法が認定されているが、高温処理のためコスト面に問題があり、今後大量に発生するスレートや水道管などのアスベスト低含有複合材を安全、低廉に処理できる無害化技術の開発が望まれている。本技術では塩化カルシウムとの反応により化合物中のMgOとSiO2の化学結合を切断し、繊維状アスベストの構造を粒状、粉状に変化させることで無害化することができる。
 社会問題となったアスベスト含有製品の低コストで安全な処理技術の確立により、安心で安全な社会の形成に寄与することが期待される。

課題名: ケナフ繊維含有プラスチックの製造技術
新技術の代表研究者: 群馬大学 工学部 助教授 黒田 真一
開発実施企業: 東邦工業株式会社(群馬県安中市)
新技術の内容:
 本技術は、植物繊維を含有させたプラスチック製造技術である。
 プラスチック製品のCO2排出量抑制、リサイクルの観点から植物繊維プラスチック、特に力学特性・コストに優れるケナフ繊維を含有するプラスチックについて関心が持たれているが、ケナフの含有量や成形性、生産コストに問題があり実用化の妨げとなっていた。
 本技術では、新規高分子カップリング剤を用いたケナフ繊維表面処理により、ケナフ含有量と成形加工性を同時に向上させ、植物繊維プラスチックの低コストでの生産が可能となる。
 本技術は植物繊維プラスチックによるプラスチック製品代替を可能とするものであり、環境保全への寄与と社会貢献が期待される。

課題名: 金コロイドを用いた高感度体外診断薬キット
新技術の代表研究者: 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 教授 民谷 栄一
開発実施企業: 田中貴金属工業株式会社(東京都千代田区)
新技術の内容:
 本技術は、金コロイドのプラズモン効果による発色現象を利用し、前立腺癌やアレルギーなどの疾病を早期発見する体外診断薬キットに関するものである。従来のELISA法は感度は高いが判定に時間がかかり、一方判定時間が短いイムノクロマトキットは感度が悪く、医療現場で迅速に定量判定できなかった。
 本技術は、金コロイド表面に修飾した抗体と検体中の抗原とを抗体抗原反応させて検出部に固定化し、金コロイドの発色現象を利用して疾病を検出する際、粒径の異なる2種類の金コロイドを組み合わせて金コロイド粒子のプラズモン効果を向上させることで、検出感度を向上させるものである。
 これにより、簡便・迅速、超高感度で定量分析が可能な高感度体外診断薬キットが期待される。

課題名: RFIDタグを用いた手術器具識別システム
新技術の代表研究者: 大阪大学大学院 医学系研究科 助教授 加藤 天美
開発実施企業: 川本産業株式会社(大阪府大阪市)
新技術の内容:
 本技術は、人体を透過可能で確実に検知できるRFIDタグ(ラジオ波による非接触識別タグ)を用いて手術中に使われる器材を識別するシステムである。
 病院での外科手術後にガーゼなどの異物が体内に忘れられる医療事故が多発しており、社会問題となっている。これまでは、器材の出入りチェックの二重化や手術直後のX線撮影など、医療スタッフに依存した方法がとられているが、医療事故の確実な防止には至っていなかった。
 本技術では、様々な医療器具にRFIDタグを取り付け、無線通信で非接触に情報の読み出しを行うことにより、器具の存在をリアルタイムで認識できるため、人手に依存せずに手術中の医療器具を確実に識別することを可能にした。
 本技術を用いることにより、安全で確実な器具の管理ができるため、医療事故の防止が可能であり、手術時間の短縮は手術のクオリティーの向上にも貢献することが期待される。

課題名: 尿中微量蛋白質検出キット
新技術の代表研究者: 東北大学大学院 工学研究科 産学官連携研究員 金子 恵美子
開発実施企業: 株式会社シノテスト(東京都千代田区)
新技術の内容:
 本技術は、従来法と比べ、検出が広範囲で高感度なタンパク質検出法に関するものである。
 糖尿病性腎症は自覚症状がなく、検査でタンパク尿が検出されたときにはすでに発病しており、発病した腎症を完治することは困難であり、進行すると、腎不全から透析が必要になる。それ故、早期発のために高感度な尿中微量タンパク質検出法が望まれている。
 本技術は、安価なエリスロシンBを用いた新規の色素結合法により、従来の色変化ではなく同一色調の濃淡変化を検出することで高感度且つ広い測定範囲のタンパク検出が可能になった。
 本技術による腎症のマススクリーニング用自動分析装置用試薬と糖尿病患者のモニタリング用スポットテストによれば糖尿病性腎の早期診断・早期治療が可能となり、臨床分野への貢献が期待される。

課題名: LEDモスアイ構造製造技術
新技術の代表研究者: 名城大学 理工学部 教授 天野 浩
開発実施企業: エルシード株式会社(愛知県名古屋市)
新技術の内容:
 本技術は光取出し効率を向上させる発光ダイオード(LED)基板表面構造の製造技術である。
 LED輝度を上げる方法として基板表面の凹凸加工等があるが、例えば白色LEDでは蛍光灯代替が可能となる発光効率は得られておらず、より高い効率を実現するLED基板表面加工技術が求められていた。
 本技術は生産性・再現性に優れた微細加工プロセスにより光取出し効率の極めて高いモスアイ構造の形成を可能とし、LEDの高効率・高出力化を実現するものである。
 本技術による低消費電力・低コスト且つ長寿命の高効率高出力白色LEDは、蛍光灯に匹敵する高い発光効率を有し、LEDの一般照明光源としての普及に寄与することが期待される。

課題名: 抗単純ヘルペス軟膏薬
新技術の代表研究者: 東京医科歯科大学 大学院疾患生命科学研究部 教授 萩原 正敏
開発実施企業: 株式会社キノファーマ(東京都文京区)
新技術の内容:
 本技術は、単純ヘルペスウイルス(HSV)に対して新規作用機序に基づき治療効果を有する臨床薬開発を目指すものである。
 HSVは初感染後、神経節に潜伏し、口唇ヘルペスあるいは性器ヘルペスを繰り返す。これまで用いられてきた既存薬は、ウイルスタンパク質を標的とする作用機序であり、薬剤耐性ウイルスの発生が問題となっている。本事業で開発を進める低分子化合物は、ウイルスRNAに結合する蛋白質のリン酸化阻害を作用機序に有することから、既存薬で問題視されてきた薬剤耐性ウイルスの出現を抑制できる効果が見込める。
 本技術は、口唇、性器などに病態を呈する口唇ヘルペス・性器ヘルペスに対し、革新的な抗ヘルペス軟膏薬となることが期待される。