研究領域「光エネルギー変換システム」の概要
近年のナノテクノロジーの発展は、物質を原子・分子単位で扱うことを可能にし始め、それにより、様々な新規材料がもたらされています。ナノテクノロジーの大きな手法の1つに、ナノスケールで材料を設計することにより新規機能材料の作成を目指す方法があります。この手法により、多くのナノ構造を持った材料が研究されてきましたが、この手法ではナノ構造を作ってからその利用を考えるという方法論が採られることが多く、必ずしも、すべての材料が有効利用されているとはいえません。また、ナノテクノロジーは、エネルギー問題や環境問題の解決策としての期待も大きく、そのためにも、さらなる新規機能材料の研究が望まれています。本研究領域では、光エネルギーを主としたエネルギー変換材料の分野において、材料の利用目的を想定して、その目的にあわせて物質のナノ構造を最適化するという視点から新規材料を設計・作成する手法を研究し、その基盤となるべき材料・システムの創製を目指すものです。さらには、バイオサイエンスの知見を利用した新規材料の創出も目指します。
具体的には、(1)高効率な有機薄膜太陽電池の創出を目指します。そのために、有機薄膜中の超分子構造・結晶性・相分離構造を自己組織的に制御する手法と、高分子の結晶性・液晶性などの精密制御や無機材料のナノ構造を利用した分子の配向性などを自発的に制御する手法の研究を行います。(2)耐久性に優れた無機人工光合成ナノデバイスの構築を目指して、「金属間電荷移動遷移(MMCT)に着目した光反応場の自在制御」という新しい概念を提唱し、金属イオン間の電子移動を制御することが可能な無機ナノ材料技術の研究を行います。(3)微生物のもつ自己修復能などの優れた機能を利用したエネルギー変換・環境浄化デバイスとして、新たな燃料電池や環境浄化材料の開拓を目指します。そのための第一歩として、半導体ナノ材料や半導体高分子材料を使った光化学的手法とバイオサイエンスの知見を用いることにより、微生物から半導体材料への電子移動を可能とするような新しいナノバイオ材料技術に挑戦します。
本研究領域は、各目的に対して物質のナノ構造を最適化することにより、エネルギー変換材料の分野において、高効率なエネルギー変換システムやエネルギー利用高度化材料の創出を目指すもので、戦略目標「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」に役立つものと期待されます。
研究総括 橋本和仁氏の略歴等
1.氏名(現職) |
橋本 和仁(はしもと かずひと) |
(東京大学大学院工学系研究科 教授)51歳 | |
2.略歴 |
昭和53年 3月 東京大学理学部化学科卒 |
昭和55年 3月 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了 | |
昭和55年 4月 国立分子科学研究所 技官 | |
昭和59年 2月 〃 助手 | |
昭和60年 3月 博士(理学)(東京大学) | |
平成 元年 9月 東京大学工学部 講師 | |
平成 3年11月 〃 助教授 | |
平成 9年 6月 東京大学先端科学技術研究センター 教授 | |
平成16年 4月 東京大学大学院工学系研究科 教授 | |
平成16年 4月 東京大学先端科学技術研究センター 所長 | |
この間 | 平成7年10月~平成13年3月 神奈川科学技術アカデミー「橋本光機能変換材料プロジェクト」リーダー |
平成13年 4月~平成19年3月(予定) 神奈川科学技術アカデミー 光科学重点研究室 グループリーダー |
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平成15年 7月~平成18年3月 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高機能住宅部材プロジェクト」リーダー |
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平成17年 7月~現在 北海道大学 客員教授 | |
3.研究分野 |
光触媒、エネルギー変換材料、環境科学 |
4.学会活動等 |
平成 4年 4月~平成 7年 3月 日本写真学会理事 |
平成 5年 4月~平成 6年 3月 日本電気化学協会理事 | |
平成12年 4月~平成13年 3月 日本電気化学会庶務理事 | |
平成12年 4月~平成18年 3月 光化学と太陽エネルギー変換に関する国際会議委員 | |
平成12年 4月~現在 酸化チタン国際会議委員 | |
平成18年 4月~現在 「Journal of Photochemistry and Photobiology」Editorial board | |
平成18年 4月~現在 日本化学会理事 | |
5.業績 |
光応答材料の分野において、数多くの先駆的な研究を行ってきた。特に、太陽光をエネルギー源として利用し、酸化チタンのナノ薄膜・ナノ粒子光触媒を用いることにより、新規の環境保全・改善のための材料、およびシステムの研究開発において優れた成果を上げている。具体的には、「微弱光下での光触媒反応」という新概念の創出、「光触媒材料表面での光誘起親水化反応」という新反応機構の解明、これらを基にした光触媒ナノ薄膜コーティング材料という新規の建築材料分野の創製、さらに「大地や建築物外壁を反応場とする光触媒反応」という新概念の創出、それを基にした光触媒環境保全・改善技術の農業、土木、建設などの分野への展開など基礎研究から応用研究、さらに実用化研究にまで至っている。また、これらの研究により多数の特許も取得している。 その他の業績として、金属シアノ錯体を用いる磁性材料の研究では、光で強磁性を可逆的に発現させることの出来る材料を世界ではじめて設計・合成することに成功し、錯体化学の分野に新しく「光磁性材料」の分野を築いた。 既発表論文はNature誌4編、Nature material 誌1編、Science誌2編、J. Am. Chem. Soc.誌 15編、Angew. Chem. Int. Ed.誌1編 他。 |
6.受賞 |
平成 2年 研究表彰者 (光科学技術研究振興財団) |
平成 4年 電気化学協会論文賞 (日本電気化学協会) | |
平成 9年 日本照明賞(日本照明学会) | |
平成 9年 日本IBM科学賞(日本IBM科学財団) | |
平成10年 注目発明賞(科学技術庁) | |
平成10年 Innovation in Real Material Award(国際材料学会) | |
平成10年 光化学協会賞(日本光化学協会) | |
平成15年 電気化学会論文賞(日本電気化学会) | |
平成16年 内閣総理大臣賞:産学官連携功労者(内閣府) | |
平成16年 日経環境技術賞(日本経済新聞社) | |
平成18年 恩賜発明賞(発明協会) | |
平成18年 山﨑貞一賞(材料科学技術財団) |