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科学技術振興機構報 第366号

平成18年12月15日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(広報・ポータル部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

光で電気を流すナノサイズ同軸ケーブルの開発に成功

(光エレクトロニクス分野の発展に大いに期待)

 JST(理事長 沖村憲樹)は、光で電気を発生するナノサイズの同軸ケーブル注1の開発に初めて成功しました。
 クリーンエネルギーとして注目を集める太陽電池は、その軽量化、低コスト化、大面積化を目指して、世界中が有機薄膜太陽電池注2の開発に向けてしのぎを削っています。有機太陽電池を動作するには、電子供与体(電子を放出する能力をもつ分子)と電子受容体(電子を受取る能力をもつ分子)とが、光の吸収に応答して電子をやりとりするプロセスが必要ですが、この際、両者が互いに混ざり合わないようにナノメートル注3スケールで分離し、かつ、広い接触面積で接合させることが、移動した電子の逆戻りの抑制、ひいてはエネルギー変換効率の大幅な向上につながると予想されています。しかし、正反対の性質を有する電子供与体と電子受容体は、互いに引き合い、混ざりやすい性質のために、分離(ナノ相分離)と接合(ヘテロ接合注4)の実現は容易でないと考えられていました。
 今回、研究グループは、電子供与体からなる分子層を、電子受容体からなる分子層で包んだ中が空洞の同軸構造で、かつ広い接触面積をもつことを可能とした同軸ケーブルの開発に成功しました。この構造体は、電子を与える部分(ヘキサベンゾコロネン)と電子を受け取る部分(トリニトロフルオレノン)が連結した分子が、ある溶剤条件下で自然に積層する現象を利用することにより形成します。この現象を利用したことにより、電子供与体と電子受容体が混ざること無く、ナノ相分離構造とヘテロ接合構造を併せ持つ材料を作り出しました。この同軸ケーブルの外径は16ナノメートル、壁厚は3ナノメートル、長さは数ミクロンにもおよびます。さらに、同軸ナノケーブルに光をあてると10000倍にもおよぶ電流値の大きな変化の誘起が実証されました。このような大きな変化は、カーボンナノチューブをはじめとする他の炭素ナノ材料では実現できていません。本研究成果は、高効率な光-電気変換デバイスの開発に向けて重要な設計指針を与えるものであります。
 本研究成果は、戦略的創造研究推進事業 発展研究「分子プログラミングによる電子ナノ空間の創成と応用」(研究総括:相田卓三 東京大学大学院工学系研究科教授)の福島孝典研究員らによって得られたもので、米国科学誌「サイエンス」に2006年12月15日(米国東部時間)に掲載されます。


<研究の背景>

 化石燃料や放射性物質を必要としないクリーンなエネルギー変換デバイスの開発は21世紀の科学技術の最重要課題であり、太陽電池には熱い視線が注がれています。現在、無機材料からなるアモルファスシリコン太陽電池注5が実用化されていますが、近年、その軽量化、低コスト化、大面積化を目指すと伴に、次世代のプラスチックエレクトロニクス注6の担い手として、有機薄膜を使用した太陽電池の実現に、世界がしのぎを削っています。有機薄膜太陽電池を開発するには、電子供与体(電子を与える分子)と電子受容体(電子を受け取る分子)を個別に積層させ、かつ、それらを混じり合うことなくヘテロに接合させることが望まれますが、効率の高いシステムの実現には、当然ながら接合面積を可能な限り広げる必要があります。即ち、電子供与体と電子受容体を分子レベルで制御し、それぞれの分子層が触れ合う面積を最大限にするナノスケールの接合です。しかし、本来、互いに引き合う性質を有する電子供与体と電子受容体を用いて「ナノスケールの相分離とヘテロ接合」を実現するには、多くの困難が予想され、事実その前例はありませんでした。

<研究の内容>

 今回、本プロジェクトは、それぞれ電子供与体と電子受容体からなる異なる分子層が一つのチューブ状ナノ構造体中でヘテロ接合した「光電導性同軸ケーブル」の開発に成功しました。このナノチューブは、「ヘキサベンゾコロネン」という名前の、グラファイト注7の一部を切り出したシート状分子(略称HBC)と、「トリニトロフルオレノン」という名前の分子(略称TNF)が連結した分子部品(略称HBC-TNF:図1)から構成されています。溶剤中では、この分子部品のHBC部分とTNF部分とは会合しています。しかし、別の溶剤をゆっくりと加えていくと、この会合が解離し、今度はHBCはHBCと、TNFはTNFと積層し、結果として、直径16ナノメートル、壁の厚さ3ナノメートル、長さ数ミクロンにもおよぶチューブを形成します(図2)。このナノチューブは、壁の内部にHBCがグラファイトのように規則的に整列し、そのチューブ層をTNF層が両面からラミネートした同軸構造(図3)を有しています。すなわち、ここでは、電子を与えるHBCと電子を受け取るTNFが一定距離を保ちながらそれぞれ個別に配列したナノ相分離構造が実現しました。「接合界面の大きさ」という点では、究極のデザインであり、まさに多くの研究者が望んでいた構造です。
 このナノチューブ自体は絶縁体ですが、光をあてることにより、電気を流す性質を示すことが明らかとなりました(図4(1))。これは、光照射によりHBC部分からTNF部分に電子が飛び移り、その結果生じたホール注8が整列したHBC分子間を移動するためです。電流値はほぼ光の量に比例して増大し(図4(2)、10000倍を超える電流変化を示しました。また、光照射のオン/オフにより、電流を急峻にオン/オフが可能となります(図4(3))。これは、カーボンナノチューブをはじめとする他の炭素ナノ材料では未だ実現されていない著しい特徴です。

<今後の展開>

 以上の事実を解明したことにより、以下の展開が期待されます。

1 高温・高真空という過酷な条件を必要とするカーボンナノチューブの製造プロセスとは対照的に、本研究で開発された同軸ナノケーブルは、室温程度の温和な条件下において分子レベルで均一なナノチューブ構造体を作製できることから、1次元的な電気の通り道を有するナノメートルスケールのエネルギー変換材料として、微小電子回路の開発研究をはじめとするナノテクノロジーの進歩、ナノエレクトロニクスの発展に大いに貢献することが期待できます。

2 ナノチューブ構造では、それぞれの分子層が触れ合う面積を最大限にすることができるため、より高効率な光電導性材料、光起電材料としての応用が期待できます。本研究により示した材料設計指針は、革新的なコア技術として、有機太陽電池開発のための重要な指針となるものと考えられます。

図1 HBC-TNFの化学構造式
図2 HBC-TNFナノチューブの電子顕微鏡写真
図3 ナノチューブの構造
図4 HBC-TNFナノチューブの光電導特性
<用語解説>

<掲載論文タイトル>

"Photoconductive Coaxial Nanotubes of Molecularly Connected Electron Donor and Acceptor Layers"
(分子的に連結した電子供与層と電子受容層からなる光電導性同軸ナノチューブ)
doi :10.1126/science.1134441

<研究領域等>

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。
 戦略的創造研究推進事業 発展研究「分子プログラミングによる電子ナノ空間の創成と応用」
研究総括:相田 卓三 東京大学大学院工学系研究科 教授
研究期間:平成17年度~平成20年度

本研究に際し、田川精一教授、川合知二教授のグループ(大阪大学産業科学研究所)、および石井則行博士(独立行政法人産業技術総合研究所生物情報解析研究センター)の協力を得ました。

<本件問合わせ先>

相田 卓三(あいだ たくぞう)
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 発展研究
「分子プログラミングによる電子ナノ空間の創成と応用」研究総括
〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1
東京大学大学院工学系研究科 教授
TEL: 03-5841-7251 FAX: 03-5841-7310
E-mail:

黒木 敏高(くろき としたか)
独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 特別プロジェクト推進室
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703
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