本開発課題は、戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究 土居バイオアシンメトリプロジェクト(総括責任者 土居洋文、研究期間 平成7年~12年)の研究成果を基に、平成16年1月から平成18年3月にかけてセレスター・レキシコ・サイエンシズ株式会社(代表取締役 松岡雅裕、本社 茨城県つくば市、資本金 3千万円)に委託して、企業化開発(開発費 約7千万円)を進めていたものです。
PCR法(注1)と呼ばれる遺伝子の大量複製技術は、今やバイオテクノロジー分野の基盤技術となっています。現在市販されているPCR用酵素は2つのタイプに分類できます。忠実度重視型は、短いDNA鎖であれば少ない複製エラー(注2)で増幅できますが、時間がかかります。一方、伸長度重視型は、長いDNA鎖を大量に増幅できますが、複製エラーが多くなります。そのため、両者の長所を備えたPCR用キットが望まれていました。
本事業では、好熱性古細菌(注3)の一種から取り出したDNA合成酵素と、同細菌内でDNA合成を補助するアクセサリー蛋白質(注4)の双方を改良し、双方組み合わせてPCR法を行なうことにより、長いDNA鎖を忠実に、かつ、大量に複製できるDNA増幅キットを開発しました。
本技術は、遺伝子増幅を伴うバイオテクノロジー分野において、研究用ツールとしてのみならず、将来的には食品安全性検査や遺伝子診断等への活用が期待されます。
本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。
PCR法による遺伝子の大量複製は、今やバイオテクノロジー分野の基盤技術となっています。現在市販されているPCR用酵素は、忠実度重視型と伸長度重視型2つのタイプに分類できます。前者は複製エラーはほとんど出ませんが、3千塩基程度の短いDNA鎖を少量しか増幅できません。後者は、1万塩基程度の長いDNA鎖を大量に増幅できますが、複製エラーが多くなります。これまでこの2つのタイプを目的に合わせて使い分けなければならず、研究者は伸長度重視型の酵素で複製したDNAから複製エラー部分を探し出し修復する作業に、かなりの時間と労力を費やしています。そこで両者の長所を備えたPCR用キットが望まれていました。
本技術は、好熱性古細菌テルモコックス科パイロコッカス・フリオース(Pyrococcus furiosus)から取り出したDNA合成酵素と、同細菌内でDNA合成を補助するアクセサリー蛋白質の双方をアミノ酸置換により改良し、双方組み合わせて用いるPCR用キットに関するものです。パイロコッカス・フリオースのDNA合成酵素はもともと忠実性が高いので、その特性を維持したまま、4倍程度以上も長いDNAを複製するように改良しました。また、改良したアクセサリー蛋白質を添加することで、複製量が多くなり、結果的に反応時間を大幅に短縮できました。本開発品と市販製品を比べた結果は表1の通りで、本開発品は従来製品に比べて増幅性能と高忠実度を兼ね備えた新しいタイプのPCR用キットです。また、市販の酵素に、本開発品のアクセサリー蛋白質を添加したところ、半分の反応時間で大量に複製できるようになりました。
PCR法によるDNA複製技術は、基礎研究から産業利用まで広く浸透しています。本技術は従来製品に比べ性能を向上できたことから、バイオテクノロジー分野における基礎研究から、試薬開発、遺伝子解析や遺伝子診断、食品安全性検査まで、幅広く使われることが期待されます。
【表1】市販製品と本開発品との比較性能表 | ||||||||||||
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・ | 鋳型としたDNAは、ヒトゲノムの8千塩基の長さの領域です。 | ||||
・ | 市販品A、Bは添付のバッファー(注5)を使用し、開発品は独自組成のバッファーを使用しました。 | ||||
・ | 反応温度・時間は、以下の通りです。 | ||||
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・ | エラー数は、ヒトゲノム8千塩基を複製した場合の複製エラー塩基数を示します。また、括弧内数値は、鋳型DNAに存在する10回以上の繰り返し配列を除いた場合のエラー値で、鋳型DNAの塩基配列の特異性の影響を排除したものです。 |
<添付資料> |
用語解説 |
開発を終了した課題の評価 |
セレスター・レキシコ・サイエンシズ株式会社
代表取締役 松岡雅裕(マツオカ マサヒロ)
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