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<用語解説>

(注1)ゲノム
 ゲノムは上記の核内DNAが担う遺伝情報の総体を指します。すなわち、ヒトゲノムはヒト個体の全遺伝情報と同義なため"ヒトの設計図"とも称されます。現在では、このヒトゲノムを構成する30億個の塩基の配列すべてが解読されています。

(注2)遺伝子
 生命は自分とよく似た子を作り、これを世代から世代へ伝えます。これを遺伝とよびます。遺伝子とは、この遺伝に関わる情報を担う因子で、ヒトの場合、細胞の中の核といわれる器官に格納されたDNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる物質がその本体です。
 DNAは塩基とペントースと呼ばれる糖の一種とリン酸から構成された高分子です。塩基以外はそれぞれが鎖状に重合する際の骨格部分を構成します。細胞内のDNAは重合した2本の高分子が逆方向に並び、互いによじれあうことでらせんを形成しています(2重らせん構造)。遺伝の情報は、このDNA分子で、4種類の塩基の並びに暗号化されて伝えられています。

(注3)ヒト構造多型コンソーシアム
 多様な人種におけるコピー多型の全貌を解明するために2005年に開始された国際共同プロジェクトです。コンソーシアムの主な構成機関は以下のとおりです。ケンブリッジ大学 サンガー研究所(英国)、東京大学先端研 LSBM ゲノムサイエンス部門(日本)、アフィメトリクス株式会社(米国)、トロント大学(カナダ)、ハーバード大学 医学部(米国)。

(注4)テーラーメイド医療
 個別化医療とも呼ばれ、患者となる個人の持つ遺伝情報を解析することで、治療法に対する効果や薬剤に対する効能を予め推測して、治療法の選択から薬剤投与量の決定まで最適な治療をデザインする医療です。

(注5)国際ハップマッププロジェクト
 2002年に開始された、ヒトの病気や薬に対する反応性に関わる遺伝子を発見するための基盤を整備するプロジェクト。一般集団におけるヒトゲノムにおけるDNA多型のパターンを特定し、この情報を社会の共有財産として医学や医療の発展のために自由に利用するためのリソース作りを目指しています。このプロジェクトは、カナダ、中国、日本、ナイジェリア、英国、米国の科学者と各国政府、財団などの協力により行われています。現在、100万種類以上の塩基配列多型の遺伝子型、頻度、多型相互の関連性の程度を解明して、ゲノム全体にわたる塩基配列多型性パターンの地図を作成しています。

(注6)一塩基多型(SNP:Single nucleotide polymorphism)
 ヒトでは、ある集団内に個体間の遺伝子DNAの配列が異なる現象、すなわち遺伝子多型が観察されています。ここで、一塩基多型とは、ゲノム内の塩基配列の中で一つの塩基が置き換えられる変異で、ゲノム全体に数100万箇所存在します。国際ハップマッププロジェクトでは、ヨーロッパ人、アフリカ人、アジア人270名のDNAサンプルについて詳細な解析が行われました。

(注7)DNAチップ
 シリコン基板上に多数の短いゲノムDNAの部分配列を合成しカートリッジに納めたもので、ゲノムコピー数や遺伝子発現、SNPタイピングなどの解析に用いられます。多数の項目を同時測定する解析に好適です。

(注8)染色体
 核内のヒトDNAは、24種類の染色体と呼ばれる構造に分かれて格納されています。ヒトでは22対の常染色体とX,Yの性染色体の46本からなります。21番染色体全体が3本になるのがダウン症候群です。本研究でのコピー数多型は光学顕微鏡では識別不能な大きさの染色体増幅や欠失について網羅的にDNAチップを用いて検出したものです。

(注9)文節的重複(segmental duplication)
 ブロック重複(block duplication)ともよばれ、遺伝子が複製されて同一遺伝子数がゲノム中で増える突然変異(遺伝子重複)のうち、染色体の10~300kbのまとまった領域が単位となりゲノム上で離れた別の場所へ複製されたものを指します。