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参考2

研究開発プログラムの概要
領域総括の募集・選考に当たっての考え方

1 「ユビキタス社会のガバナンス」

領域総括:土居範久(中央大学教授)

【研究開発プログラムの概要】

 「ユビキタス社会」の到来によって、より創造的で生産的な社会が実現され私達の生活と社会経済活動の一段の発展が期待されると共に、情報セキュリティの確保やプライバシーの保護などの重要性が問われている。すなわち利便性を優先することに起因する社会的な脆弱性が心配される。「ユビキタス社会」の特徴として、「ユビキタス社会」を支える技術について、研究開発と社会展開がオーバーラップすることから、実証と実用が混在しながら展開することが予想される。このような特徴により、従来の社会制度との整合性確保が十分に行われないことや、あるいは、科学技術の発展に社会科学や法制度が追従し切れていないことが問題として露呈してきているといえる。
 そこで、当該研究開発プログラムでは「ユビキタス社会」で必要とされる「ガバナンス」はいかにあるべきかを主題として取り上げ、予測される悪や悲劇の芽を摘み取るため、あるいは予測されるよい点をよりよく進展させるための手段について検討し、実証実験までカバーした特定の技術や手法等の具体的な成果を得ることを目標とする。その際、取り組む課題によっては、解決のための選択肢を提示するところまでを目標とすることがある。人文社会科学だけでなく科学技術などの知見も統合した俯瞰的な視点をもって問題解決のための検討を行うものとする。

【領域総括の募集・選考に当たっての考え方】

 「ユビキタス社会」としては、「コンピュータ利用のユビキタス」の視点に限定されることなく人類の持つ情報のすべてが情報システムの上にユビキタスに拡散する状況、情報システムが人をユビキタスに同定する状況、情報システムと実世界とがユビキタスに結合する状況を含めて、考え得るすべてがユビキタスになった社会を想定する。
 今回の募集では、(1)来るべき「ユビキタス社会」に対応するための法制度のあるべき姿の明確化と立法化の提案、あるいは(2)「ユビキタス社会」の持続的な開発・発展を可能にし、限られた資源を最大限活用するための政策のあり方、を明らかにする研究開発プロジェクトを期待する。例えば、情報信頼度評価システムの研究(情報信頼度の評価手法、情報の格付け手法)、個人情報の積極的利用法に関する研究(利用と保護のバランスを図るガイドライン・法制度の提案と実装)などの研究開発プロジェクトが考えられる。
 昨年度と同様、将来の本格的な研究の実施に資する実行可能性に係る準備調査・研究プロジェクトを対象に募集する。
 募集に当たっては、明確に定義された研究開発プロジェクトと、研究成果の社会への実装の方策に重点を置いた研究方法の提示を求めることとする。なお、調査研究の実施期間は6ヶ月程度とし、1課題あたりの予算は100万円から500万円の範囲とする。
 6ヶ月間程度の実行可能性に係る調査研究によって得られる成果として、提示した研究開発プロジェクトについて、その研究実施体制、設定されるサブテーマ、研究進捗のマイルストーン、具体的な成果の社会への実装方法、研究の評価尺度など、現実的かつ実効性の高い研究計画が提示されることを期待する。このため、実行可能性に係る調査研究を実施する研究者グループの編成は、特定領域の研究者に限定されるべきではなく、社会科学系研究者と理工学系研究者の混成チームを編成するなど、より多くの側面からの検討を行うことを期待する。
 採択後初年度はいくつかの採択された計画の実行可能性に係る調査研究を、それぞれ個別に並行して行う。その後、それらの結果について、実施体制などの実行可能性も含めた評価をあらためて行い、次年度からの本格研究に移行する課題(2~4課題程度)を選定する。なお、本格研究では、2.5年以内の実施期間とし、1課題あたり年間1,000万円から2,000万円程度の支出を予定する。なお、調査研究のみの提案も受け付ける。

2 「21世紀の科学技術リテラシー」

領域総括:村上陽一郎(国際基督教大学教授)

【研究開発プログラムの概要】

 現代社会において、科学・技術の研究フロントが、極めて高度化し、専門家は自分たちの研究成果が、一般社会に直接大きな影響を与えるという事態に慣れていないための戸惑いを隠せないし、非専門家は専門家の知識を理解することの困難に苦しむ。しかも今日の科学・技術化された社会の主権者たる国民の大部分は「非専門家」である。民主主義という政治の根幹形態にさえ迫る、こうした全く新しい事態を迎えて、これまでの理科教育や、啓蒙活動では十分に対応し切れないことが明らかになりつつある。本領域では、科学・技術に関わる人々の「社会リテラシー」も含めて、誰のリテラシーを、誰のために高めるのか、という点を明確にしつつ、科学・技術の研究フロントと一般の人々との橋渡しも含めて、具体的に探り、提言し、その具体的な成果(特定の技術や手法等)について実証実験まで実行することを目標とする。その際、取り組む課題によっては、解決のための選択肢を提示するところまでを目標とすることがある。

【領域総括の募集・選考に当たっての考え方】

 斬新であること、達成目的が明確であること、理論とデータの程よい統合があること、具体的な提言が期待でき、またパイロット・プラントなどの形でその提言を実行可能なものとする見通しが含まれていること、外国との比較研究や外国の研究者の協力はもちろん望ましいが、結果はさし当って現在の日本社会に適用すべきものであること、対象(生徒か、学生か、一般の人々か)、目標(国家主権者、生活者、職業人、専門家など、何を目指すか)を明確にすること、このような点を考慮しながら、専門家集団にのみ目を向けた研究プロジェクトではなく、広く実社会を視野に捉えた、十分に野心的な提案を切に期待している。広い意味で教育に関る問題の性質上、大学以外の現場のメンバーを組み込んだ提案も歓迎する。
 研究開発プロジェクトは、その予算規模からA、B二つのタイプを用意している。Aタイプでは、大規模な実地調査等を含むリテラシー研究、あるいはパイロット・プラントなどの作製を含む研究提案として、年間研究費 1,000万円から2,000万円程度の課題を想定し、Bタイプでは、教育に関わる現場の実務者等の問題意識に基づく研究提案として、比較的小規模な年間研究費200万円から500万円程度の課題を想定しているが、各々で適正な規模を選択していただきたい。いずれも、研究期間は3年以内とする。