科学技術振興機構報 第35号
平成16年3月15日
埼玉県川口市本町4−1−8
独立行政法人 科学技術振興機構
電話(048)226-5606(総務部広報室)
URL:http://www.jst.go.jp/

脳内物質オレキシンが睡眠障害を改善

−不眠症など睡眠障害治療を切り開くか−

独立行政法人 科学技術振興機構(理事長 沖村憲樹)の創造科学技術推進事業「柳沢オーファン受容体プロジェクト」(研究総括:柳沢正史 テキサス大学教授)は、オレキシンという脳内たんぱく質が、ナルコレプシーと呼ばれる睡眠障害を改善することを、マウスを用いた研究で明らかにした。
柳沢教授、桜井グループリーダー(筑波大学基礎医学系助教授兼任)らは、オレキシン神経細胞欠損マウスに、新たにオレキシン遺伝子を導入し、オレキシンがつくられるようにしたところ、目覚めた状態からいきなり深い睡眠に入るナルコレプシーの症状が見られず脳波の改善も得られることを見いだした。さらにオレキシン神経細胞欠損マウスの脳内にオレキシンを注射すると、同様にナルコレプシーの症状が消失し、覚醒状態が改善することを発見した。
睡眠制御のメカニズムの根幹にかかわる本研究成果は、ナルコレプシーのみならず、日中の眠気を伴う他の睡眠障害、時差ぼけや、不眠症の治療にもつながるものである。オレキシンやその周辺物質が一般の不眠症治療をも視野にいれた新規治療薬の開発に有用な手がかりを提供するものと期待される。本成果は、米国ハワードヒューズ医学研究所、およびテキサス大学との共同研究で得られたものであり、平成16年3月15日週(米国東部時間)の米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に発表される。
【本文】
ナルコレプシーは、日中強い睡眠発作に襲われ突然眠りに陥る疾患で、若年成人期に発症する。しばしば夜間の睡眠障害や脱力発作、入眠時の幻覚、金縛り状態などを伴う。柳沢教授らの研究グループは、1998年に食欲促進物質としてオレキシンを発見し、翌年それが睡眠覚醒にも深くかかわっているとして、世界で初めて直接に睡眠を制御する遺伝子メカニズムを解明していた。ナルコレプシーが、脳内の視床下部から分泌される神経伝達物質であるオレキシン(*1)が欠乏することによって起こることを、オレキシン遺伝子が欠損してオレキシンをつくれなくなったマウスを用いた研究ですでに突き止めており、その治療に繋がるものとして注目を集めていた。
今回、柳沢教授、桜井グループリーダー(筑波大学基礎医学系助教授兼任)らの研究グループは、オレキシン神経細胞欠損マウスに、新たにオレキシン遺伝子を導入し、オレキシンがつくられるようにしたところ、目覚めた状態からいきなり深い睡眠に入るナルコレプシーの症状が見られず脳波の改善も得られることを見いだした。さらにオレキシン神経細胞欠損マウスの脳内にオレキシンを注射すると、同様にナルコレプシーの症状が消失し、覚醒状態が改善することを発見した。また注射したオレキシンの覚醒作用が消失したあと、それまでよりかえって眠くなるリバウンド睡眠が見られなかった。
ナルコレプシーの患者では脳内のオレキシンが著しく欠乏していることが既に分かっている。患者本人の社会的評価を下げるなど、ナルコレプシーには特有の苦しみと辛さがあり、周囲の誤解や偏見がつきまとう。また日常的に眠い、夜間に鮮明な夢を見るために熟睡できない、自分ではあまり眠い感覚がないのにあとで何をやっていたのか覚えていない、などの症状がありながら、自らが病気だと気付いていないケースも多く、運転中などに起こる突然の睡眠発作や夜間の不眠に悩まされる。睡眠制御のメカニズムの根幹にかかわる本研究成果は、ナルコレプシーのみならず、日中の眠気を伴う他の睡眠障害、時差ぼけや、不眠症の治療にもつながるものである。オレキシンやその周辺物質が、一般の不眠症治療をも視野にいれた新規治療薬の開発に有用な手がかりを提供するものと期待される。本成果は、米国ハワードヒューズ医学研究所、およびテキサス大学との共同研究で得られたものであり、平成16年3月15日付の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表される。
<脚注>
*1 オレキシン
あらゆる生命活動は、細胞間情報伝達物質(ホルモン)が、細胞表面でアンテナの役目を果たす受容体という分子に結合し、情報のやり取りをすることで営まれる。近年、ゲノム情報から、対応する情報伝達物質が明らかになっていない受容体が多数見つかっており、オーファン(孤児)受容体と呼ばれている。それらを釣り餌として、未知の情報伝達物質を見つける新しい手法が注目されている。
柳沢教授らのグループは1998年、この手法を世界に先駆けて適応し、食欲や睡眠の制御に関連する新しい神経伝達物質であるオレキシンを発見した。この発見により、この方法が実際に可能かつ有効であり、そこから得られた成果が画期的な科学的・社会的インパクトをもたらし得ることを、世界に先駆けて示した。
他にも未知のオーファン受容体遺伝子は多数見つかっており、これらがどのような役割を果たしているのかを研究することが、柳沢オーファン受容体プロジェクトの重要なテーマの一つである。
 
研究主題: 創造科学技術推進事業「柳沢オーファン受容体プロジェクト」
(研究期間 平成13年〜平成18年)
 
 【本件問い合わせ先】
********************************************************
大内 崇史(おおうち たかし)
柳沢オーファン受容体プロジェクト 技術参事
〒135-0064 東京都江東区青海2-41 日本科学未来館内
Tel: 03-3570-9186 Fax: 03-3570-9187
古賀 明嗣(こが あきつぐ)
科学技術振興機構 戦略的創造事業本部
特別プロジェクト推進室
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703
********************************************************
■ 戻る ■


This page updated on March 16, 2004

Copyright©2003 Japan Science and Technology Agency.