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科学技術振興機構報 第339号

平成18年9月14日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

光アイソレータと光通信用半導体レーザの一体集積化に初めて成功

(光通信モジュールの小型化と高機能光集積回路の実現に期待)

 JST(理事長 沖村憲樹)は、光通信の安定動作に必須の素子である光アイソレータと光ファイバ通信用半導体レーザを同一半導体チップ上に一体集積化することに、世界で初めて成功しました。
 光アイソレータ注1は長距離かつ高速伝送を目的とした半導体レーザ光源の安定動作に必須の素子ですが、従来の光アイソレータは、半導体レーザと材料および構造の相性が悪かったために、レーザとの集積化が最も困難な素子とされてきました。
 今回、従来の光アイソレータとは原理・材料が異なり、2004年に同研究グループが世界に先駆けて実証を行った、半導体導波路光アイソレータ注2を用いることによって、光アイソレータと半導体レーザの一体集積化を実現しました。この集積化より、光信号送信モジュールの小型化、光エレクトロニクス素子の一体化、光集積回路の高機能化など様々な分野への応用が期待できます。
 本研究の成果は、JST戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「非相反デジタル光集積回路の開発と全光ネットワークへの応用」(研究代表者:中野義昭(東京大学 先端科学技術研究センター 教授))の研究分担者である清水大雅(同上 助手)と、中野義昭(同上 教授)らにより得られたもので、2006年9月17日から21日まで米国ハワイにて開催されるIEEE半導体レーザ国際会議(The 20th IEEE International Semiconductor Laser Conference)で9月19日(米国ハワイ時間)に発表されます。

<研究の背景>

 光アイソレータとは、光を一方向にのみ通す性質を持つ光素子であり、例えば光ファイバを使用した高速・大容量光通信に必須の素子のひとつです。そして今後は、通信装置の小型化、高機能化に伴い、光アイソレータ自体の小型化や、光アイソレータと半導体レーザとの一体集積化が必要となりつつあります。
 従来の光アイソレータは、光の進行方向を制限する仕組みとして、物質から受ける効果が光の伝搬方向(前向きか後ろ向きか)によって異なる現象を有する「非相反性」注3と呼ばれる性質を用いています。そして使用される磁性体としては、「磁性ガーネット」という酸化物の結晶が一般的ですが、この場合、半導体レーザからの光を一度自由空間に取り出す必要があるため小型化が難しく、また磁性ガーネットと半導体の材料同士の相性が悪いために、光アイソレータは半導体レーザとの集積化が最も困難な素子とされてきました。加えて従来の光アイソレータでは、磁性ガーネットの他に2枚の偏光子(特定の伝播方向の光のみを通過させる素子)も必要としており、これが半導体レーザとの一体集積化を更に困難にしていました。

<成果の内容>

 今回の集積化には、従来の光アイソレータとは原理・材料が異なる、半導体導波路光アイソレータを用いました。
この半導体導波路光アイソレータは、半導体光増幅器と強磁性金属の組み合わせによって成立します(図1)。本研究では半導体光増幅器として、光通信用に用いられる波長1550ナノメートル帯のレーザ光に適用するため、インジウム燐基板上のインジウムガリウム砒素燐を用い、強磁性金属として鉄を用いました。この鉄がもたらす「非相反性」により、光の伝搬損失が進行方向によって異なる効果が現れます。半導体光増幅器が、この伝搬損失を補い、光が送信される方向の伝搬損失をゼロにします。以上の「非相反性」と伝搬損失補償効果により光アイソレータ動作が実現されます。
 今回の研究では、半導体導波路光アイソレータは、偏光子を用いる必要がなく、半導体レーザとの一体集積化に適している性質から、長距離・高速伝送用途の通信用半導体レーザとして、一般的な分布帰還型半導体レーザ注4と半導体導波路光アイソレータを同一基板上に一体集積化することに成功しました。この集積化素子(図2)は長さ1mm、幅0.3mm、厚さ0.15mmの大きさで、半導体レーザは、光通信に適した波長1543.8ナノメートルで単一モード発振をしました。半導体レーザから導波路光アイソレータへ伝搬した光は予想通り非相反な伝搬損失を受け、光アイソレータの性能を示す消光比注5は4dBを示しました(図3)。今後は消光比を15-20dB程度にすべく、さらなる改善を目指します。

 本成果にて使用した半導体導波路光アイソレータは、同グループが1999年に提案し2004年に世界に先駆けて実証を行ったものであり、光ファイバ通信用の半導体レーザとほぼ同じ素子構造をしているのが特徴です。

<今後の展開>

 インターネットや携帯電話などの便利な通信サービスを支える光エロクトロニクス技術において、今後様々な光エレクトロニクス素子を集積化するには、各素子間の相互干渉を防ぐために導波路光アイソレータが必要となります。今回の成果は、将来的には、インターネットや携帯電話を取り巻く、光通信の大容量化、高速化、高機能化などに大きく貢献するキーテクノロジーとして期待されると共に、光エレクトロニクス技術を使用する様々な分野への応用も期待されます。
 また、適切な半導体材料・強磁性金属の選択により、光通信用波長以外の波長帯域への応用も可能です。
 今後は、今回の集積化素子の消光比をさらに高め、光信号伝送装置への応用を目指します。


<用語解説>
図1 半導体導波路光アイソレータの断面電子顕微鏡写真
図2 分布帰還型半導体レーザと半導体導波路光アイソレータの一体集積素子の光学顕微鏡写真
図3 集積素子の発振スペクトル

<学会論文名>

"First Monolithic Integration of a Waveguide Optical Isolator with a Distributed Feedback Laser Diode"
(導波路光アイソレータと分布帰還型半導体レーザの初の一体集積化)
doi :10.1109/ISLC.2006.1708064


<研究領域等>

戦略的創造研究推進事業
研究課題名:非相反デジタル光集積回路の開発と全光ネットワークへの応用
研究総括:三谷忠興(北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 教授)
研究代表者:中野義昭(東京大学先端科学技術研究センター 教授)
研究期間:平成16年10月〜平成19年3月

<問い合わせ先>

清水 大雅(しみず ひろまさ)
 国立大学法人 東京大学 先端科学技術研究センター 助手
 〒153-8904 東京都 目黒区 駒場4-6-1
 TEL: 03-5452-5150, 03-5452-5155
 E-mail:

中野 義昭(なかの よしあき)
 国立大学法人 東京大学 先端科学技術研究センター 教授
 〒153-8904 東京都 目黒区 駒場4-6-1
 TEL: 03-5452-5150, 03-5452-5155
 E-mail:

小松 理(こまつ さとし)、江森 正憲(えもり まさのり)
 独立行政法人 科学技術振興機構
 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第三課
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