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科学技術振興機構報 第334号

平成18年9月7日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

高速測定する超高精度レーザ距離計の開発に成功

(10Kmを測定しても誤差10ミクロン以内)

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業委託開発の開発課題「超長距離高精度光学式距離計」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、東北大学電気通信研究所 所長 伊藤弘昌の研究成果を基に、平成15年3月から平成18年3月にかけて株式会社光電製作所(代表取締役社長 加藤毅、本社 山梨県上野原市上野原5278、資本金 2億9950万円、電話:0554-20-5860)に委託して、企業化開発(開発費約97百万円)を進めていたものです。
 光距離計は、光波を目標物まで往復させ、その距離を時間や周波数、位相などの情報から求める装置で、測量機器をはじめとする多くの分野で活用されています。計測方法としては、時間領域方式注1周波数領域方式注2位相領域方式注3など幾つかあり、より一層の計測可能距離の延長、高精度化、高速化が試行されてきました。
 しかし、距離計測の高精度化にはそれぞれ方式上の制限があり、高精度で使いやすい新しい光距離計が求められていました。
 本新技術では、周波数シフト帰還型レーザ注4光周波数コム注5を利用した周波数領域方式の超高精度光学式距離計を開発し、従来法では実現できなかった測定誤差が除去でき、高精度を達成するとともに、数100kmもの長距離の計測を可能とします。
 本開発を進める中で、長時間長距離の高精度計測を安定して行うために、偏光状態を制御するσ(シグマ)字型レーザ共振器注6を応用し、レーザ出力光の乱れを解決しました。さらに、計測速度を向上させるために、FFT(高速フーリエ変換)注7を主とした周波数計測信号処理アルゴリズムを高速処理するハードウェアを開発し、1000点/秒という高速計測を実現しました。
 これにより、遠隔より高精度な距離計測が可能になり、接近が難しかった物体の計測や、大型構造物など計測対象の大きな物体のひずみや振動解析、光ファイバセンサの遠隔計測、光三次元座標計測機注8などへの応用が期待されています。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  高精度で使いやすい光距離計が要求されていました。

 光を使った距離の計測は、測量機器をはじめとして多様な分野で活用されています。
 時間領域方式、周波数領域方式や位相領域方式など幾つかの方法があり、より一層の計測可能距離の延長、高精度化、高速化が求められ、各方面で技術開発が行われてきました。しかし、距離計測の高精度化にはそれぞれ方式上の制限があり、高精度で使いやすい新しい光距離計が要求されていました。
 例えば、古くから用いられてきた時間領域方式である光パルス方式は、光波が目標物までを往復する時間を計測する方法で、感度が高く、非常に遠距離の計測を得意としますが、計測精度は数mm程度と良くありません。また位相領域方式は、反射光波の位相遅れから距離を求める方法で、高速で非常に高精度な計測が可能ですが、目標物以外からの反射光が含まれたり複数反射点があったりする場合には計測が困難になるため、適用できる環境が限られていました。
 これに対して、本新技術で採用した周波数領域方式は、時間領域方式と位相領域方式の中間的な性質を持ち、測定距離、測定精度、感度、測定速度、汎用性の各性能について、総合的にバランスが良いのが特徴です。 しかし、他方式に比べて周波数解析の信号処理が複雑なため、これらの問題を解決する必要がありました。

(内容)  周波数シフト帰還型レーザによる超高精度光距離計を開発しました。

 本新技術は、周波数シフト帰還型レーザを光源とした周波数領域方式の光距離計の開発に関するものです。周波数シフト帰還型レーザは、レーザ共振器の中に挿入した音響光学素子注9の働きにより、光波が共振器を周回する度に一定の周波数シフトを繰り返し、その結果、光周波数コムが超高速で直線的に掃引しています(図1図2)。従来、周波数領域方式の計測精度を制限していた周波数挿引の非直線歪みがなく、またビート(うなり)が高い周波数となるため、計測時間が短くなり周波数分解能が向上します。また、光周波数コムによる複数本のビート信号を順に切り替えることにより、高い精度を維持しながら数100kmもの長距離計測を可能とします。
 周波数シフト帰還型レーザから出力した光周波数コムは、干渉計に入ると測定目標物と参照用に分けられ、目標物を往復した反射光と、参照光を干渉させて得られるビート信号を光検出器で検波します。ビート信号の周波数に含まれる距離情報を信号処理により取り出し、目標物までの距離が求まります(図3)。
 本開発では、光源部において、高精度計測のために重要なビート信号の安定化を目的として、σ(シグマ)字型のレーザ共振器注6を開発し、単一偏光出力の安定性を向上しました。また、信号処理部では、計測速度向上のため、FFT(高速フーリエ変換)注7を主とした周波数計測信号処理アルゴリズムをハードウェア化することにより、顕著な高速化を実現しました。これらの結果をもとにコンパクトな光距離計を完成させ、長さ50m〜10kmの光ファイバの距離計測を行ったところ、10μm以下の高精度(計測誤差/計測光学長=10-9)を実証し、1000点/秒までの高速計測を達成しました(図4図5)。
 また、本装置を高精度レーザスキャナ(開発:東北大学電気通信研究所、(株)ハーモニックドライブシステムズ)と組み合わせて光三次元座標計測機注8としての評価を行ったところ、5mまでの距離における三次元座標点群を、距離方向50 mの高精度と、160点/秒の高速度で取得できることも実証しました(図6)。

(効果)  超高精度な光距離計測が新たな遠隔計測を可能とします。

 本新技術は、10kmの長さを10ミクロンの誤差の超高精度、最大1000点/秒の高速計測、反射信号強度比70dB(デシベル)以上を達成した高感度という特徴を有することから、高度な距離計測が実現できます。また、これまで接近することが難しく計測が困難だった目標の遠隔計測が可能となり、建造物や大型構造物のひずみや振動解析、光ファイバセンサの遠隔計測に適用されます。
 さらに、最近製造業界を中心に活発化している非接触光三次元座標計測は、従来の単なる座標取得装置から、より信頼性の高い検査装置への移行が求められています。本新技術は、この分野においても、工業製品の診断やリバースエンジニアリング、文化財のデジタルアーカイブなど、広範囲における適用が期待されます。

用語解説
図1  周波数シフト帰還型レーザの構成と回折光の周波数
図2 周波数シフト帰還型レーザで発生する光周波数コム
図3 σ字型周波数シフト帰還型レーザと干渉計
図4 σ字型共振器周波数シフト帰還型レーザ
図5 計測結果(1)長距離計測精度評価結果
図6 計測結果(2)光三次元座標計測結果
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社光電製作所
 産機事業本部 山本 明人(ヤマモト アキト)
 〒146-0095 東京都大田区多摩川2-28-6
 TEL: 03-3756-6507 FAX: 03-3756-6831
 特機事業本部 特機技術2部 原 武文(ハラ タケフミ)
 〒146-0095 東京都大田区多摩川2-13-24
 TEL: 03-3756-6501(代) FAX: 03-3756-6509

独立行政法人科学技術振興機構
 産学連携事業本部 開発部 開発推進課
 菊地 博道(キクチ ヒロミチ)、沖代 美保(オキシロ ミホ)
 〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3
 TEL: 03-5214-8995 FAX: 03-5214-8999