JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「生命現象と計測分析」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
9 戦略目標 「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」
研究領域 「生命現象と計測分析」
研究総括 森島 績(立命館大学理工学部 客員教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
海野 雅司 佐賀大学理工学部 助教授 ラマン円偏光二色性分光による生体分子の動的構造解析 タンパク質の機能はしばしば水素結合ネットワークの構造変化や分子構造の歪など、わずかな構造変化が引き金となって実現されています。本研究では水素結合ネットワークや分子構造の変化など、従来では見ることのできなかったタンパク質構造の小さな変化を100ナノ秒の時間分解能で観測する新しい技術、ラマン円偏光二色性分光法を開発します。
王子田 彰夫 京都大学大学院工学研究科 助手 プローブラベリングによるタンパク質間相互作用解析 細胞内で多くのタンパク質は、複数のタンパク質からなる「タンパク質複合体」を構成してそれぞれの機能を発現しています。本研究では、小分子による新しいタンパク質ラベル化技術を用いて、タンパク質どうしの相互作用を解析できる新しい手法の開発を目指します。さらにこの手法を用いて、細胞内でのタンパク質複合体形成の解析やタンパク質どうしの相互作用を阻害する薬剤の探索研究を行います。
岡野 俊行 早稲田大学理工学術院 助教授 光受容タンパク質を利用した新しい遺伝子機能解析法の開発 本研究では、光感受性のタンパク質を利用して、光によって遺伝子や酵素の活性をスイッチングする技術を確立し、新しい生体活性計測法としての利用に向けた基盤研究を行います。この技術は、トランスジェニック技術などの既存のテクニックと組み合わせることも可能であり、細胞や生体内において分子の機能を解析するための画期的な新技術として応用が期待されます。
川上 勝 University of Leeds Institute of Molecular Biophysics
(リーズ大学)
博士研究員 熱揺らぎを利用した粘弾性測定による1分子内部運動の解析 本研究では、原子間力顕微鏡技術を基礎として、生体1分子を捕らえ、装置の熱揺らぎを利用して分子を揺らし、これに対する分子の応答を粘弾性という形で計測する技術を開発します。1分子の粘弾性の情報から、分子内部の微細な運動に関する情報を詳しく知ることができ、生体分子の機能解明に役立つと期待されます。さらには、内部運動の情報を利用して、捕らえられている分子の状態をリアルタイムに追跡しながら、分子に様々な構造を取らせる新しい1分子操作技術の開発を目指す。
田川 陽一 東京工業大学大学院生命理工学研究科 助教授 ES細胞由来肝組織装置による薬物動態計測システム 肝臓の発生学的知見に基づいて、ヒトES細胞から肝実質細胞だけでなく、類洞内皮細胞や星細胞などの非実質細胞をも有する’ヒト肝様組織’の分化誘導及び培養系を確立し、肝臓の器官形成や再生の分子メカニズムに迫ります。さらに、そのヒトES細胞由来肝様組織を用いて、’ヒト肝組織マルチ流路チップ’を開発し、個体レベルに近い薬物代謝試験システムを開発します。
谷 知己 北海道大学電子科学研究所 助教授 タンパク質1分子モーションキャプチャー技術の開発 蛍光タンパク質を数珠状につなげた明るい蛍光マーカーを複数個、タンパク質の異なる部位に挿入し、各々の蛍光マーカー分子の向きをリアルタイムで計測することによって、生きたタンパク質の構造変化をモニターする計測技術を開発します。このタンパク質1分子のモーションキャプチャーは、構造変化に基づくタンパク質動作原理の解明のみならず、タンパク質の機能を可視化する基盤技術として生命科学に広く貢献することが期待されます。
森田 将史 滋賀医科大学MR医学総合研究センター 特任助手 MRI・蛍光同時計測による生体内分子・細胞イメージング法の開発 近年、成人における神経幹細胞からの神経細胞の産生や、ミクログリアによるアミロイドプラークの除去活動など、脳内での動的な細胞動態現象が知られてきています。こうした脳内で長期にわたり能動的な活動をしている細胞集団を可視化し、その生理状態を明らかにするため、細胞内での長期安定化プローブの開発と生体システムレベルと分子・細胞レベルの可視化を同時に行う蛍光・MRI同時分子・細胞イメージングシステムを開発します。
横田 浩章 財団法人東京都医学研究機構東京都臨床医学総合研究所 主席研究員 DNA/タンパク質間相互作用の高精度1分子多次元解析 1分子計測関連技術のうち、DNA1分子操作技術と、蛍光1分子イメージング技術を組み合わせた同時計測顕微鏡を開発します。これにより、DNA複製における複雑なDNAとタンパク質分子のダイナミックな相互作用を、DNAの力学状態と、DNAとタンパク質の相互作用やタンパク質によるATP加水分解などの多次元同時計測を通して、1分子レベルで空間的・時間的に明らかにします。
渡邉 恵理子 日本女子大学大学院理学研究科 学術研究員 細胞情報解析のための超高精度・高速位相計測システム 本研究では、生物細胞のサンプルの位相情報を非接触・非侵襲で超高精度・高速に測定する計測システムを開発します。光位相情報を計測する過程に高精度位相ロック技術を導入し、さらにホログラフィック光バッファメモリに位相情報を記録し、その記録された情報を計測することで高精度高速化します。生体細胞の中でも、神経細胞の活動電位発生時のナノメートルスケールの膨張を高速で実時間測定することを目標とし、神経活動の解明を目指します。
渡邉 朋信 東北大学先進医工学研究機構 助手 生細胞内における蛍光蛋白質による力発生の3次元可視化 生物内では、様々な蛋白質が力を発生し機能しています。本研究では、生きた細胞内における蛋白質1分子の「三次元可視化」と「力発生可視化」を行います。異なる二焦点画面像を取得する光学系と、わずか二つの二次元像から三次元画像を再構成するアルゴリズムを開発し、張力によって蛍光波長特性が変化する蛍光蛋白質を構築します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:森島 績(立命館大学理工学部 客員教授)

 本研究領域は、生命現象の解明のために必要な新たな原理や手法に基づく計測・分析の技術に関して、独創的な発想に基づき革新技術を創出し、生命現象の本質に迫る諸問題を解決することを目指したもので、昨年度に引き続き本年度も研究提案を募集しました。
 これまでに活発に研究されてきた生体分子の科学から生命現象の科学への進展には生命現象にかかわる計測・分析技術の飛躍的発展が不可欠となります。細胞内での生体分子間相互作用など複雑な化学的諸過程を含む生命現象を解明するためには、物理・化学・生物現象を利用した新規な発想に基づく先端的計測分析法の開発が必須となります。また、このような計測技術の開発を支える新しい試薬の開発などの周辺技術研究も公募の対象としました。さらには細胞レベルにとどまらず個体や生態・環境レベルでの研究も対象としました。
 本研究領域の公募に対し、幅広い研究分野から計106件の応募があり、これらの研究提案を9名の領域アドバイザー、3名の外部評価者の協力を得て厳正に書類選考を行い、特に優れた研究提案24件に対して面接選考を行いました。面接選考に際しては、研究のねらい、研究計画などの観点のほか、研究構想が提案者の独自のアイデアに基づくこと、当該研究分野において新規性に富んでいること、研究実施体制が個人規模であること、などを重視しました。
 採択課題数は10件で、新しい発想に基づく意欲的な研究課題を採択することが出来ました。競争率は10倍強と昨年度の20倍にくらべて半減いたしましたが、依然高い倍率であり、この分野の研究に対する関心が極めて高いことを示しております。物理原理に基づく新しい計測法、既存の手法の革新的高性能化、分子生物学的手法による細胞内生体高分子の動態解析、化学合成による高感度プローブの開発、新しい分離分析チップの開発など多数の優れた提案がありました。採択された課題はいずれも意欲的かつ挑戦的で、準備状況も進んでいるものが多くありました。他方、提案課題の中には独創性は高いが準備が進んでいないものや、研究対象としては生命現象にかかわる極めて優れた研究でありながら、新規な計測・分析技術開発という本領域の趣旨にそぐわない研究提案もありました。これらの方々には上記の点を勘案して、来年度再度挑戦していただきたいと思います。また、斬新な装置開発に関する研究や新規性が高くシンプルな計測・分析手法、大胆なアイデアに基づく提案などが期待したほど多くなく、来年度に期待したいと思います。女性研究者からの優れた提案を今年度に初めて1件採択しましたが、提案数そのものが依然として少なかったことは残念でした。この点に関しても、来年度に期待したいところです。