JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「構造制御と機能」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
8 戦略目標 「プログラムされたビルドアップ型ナノ構造の構築と機能の探索」
研究領域 「構造制御と機能」
研究総括 岡本 佳男(名古屋大学エコトピア科学研究所 客員教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
上野 隆史 名古屋大学物質科学国際研究センター 助手 多孔性蛋白質結晶のナノ空間化学 新しい多孔性材料として蛋白質結晶の化学を展開します。これまで全く注目されなかった蛋白質結晶のもつ細孔形状とサイズの多様性に加え、アミノ酸側鎖による細孔表面の多彩な化学環境変化を組み合わせたビルドアップ型の材料作成を目指します。本研究によって、従来の剛直な多孔性材料では困難であった柔軟性分子素子の創成が可能となり、次世代の環境低負荷材料として大きなインパクトを与えるものと考えます。
植村 卓史 京都大学大学院工学研究科 助手 創造型ナノ空間を用いた精密高分子合成 本研究では金属イオンと有機配位子の自己集合を用いて、望みの空間形状、サイズ、表面および周期構造を有するナノ空間材料を創製します。これらの細孔の持つ性質を「空間情報」として捉え、その情報を正確に複製、変換、翻訳を実現出できるように細孔内で有機および無機高分子の精密合成を行います。これにより、従来の人工的な方法では全く不可能であった「欲しい構造の高分子」や「新規構造高分子」を得るシステムを構築します。
奥田 哲治 鹿児島大学大学院理工学研究科 助教授 構造制御と機能評価による酸化物熱電材料の創成 本研究では、様々な酸化物半導体、電子間のクーロン斥力(強相関効果)が物質の物理特性に本質的な役割を果たす強相関電子系酸化物、または、それらの類縁酸化物において、構造の"乱れ"と"次元性"に着目したナノ構造制御と、高圧・極低温・強磁場などの複合極限環境下での基礎物性評価を実施することにより、巨大熱電応答を示す新たな熱電材料の創成とその熱電特性のメカニズムの解明を試みます。
鎌田 香織 東京工業大学資源化学研究所 助手 高分子ナノシリンダーによるナノ回路・配線技術の開発 本研究は、ブロック共重合体膜内のシリンダー相分離構造に潜在する工学的応用への可能性を電気化学の観点から追求すべく、ナノシリンダーの外場配向制御とマイクログレインサイズの制御を実現し、既存のリゾグラフィーでは描画不可能なサイズ領域における輸送・拡散ナノチャンネルの作製法を提案します。得られるナノシリンダーの自在な描画・配線基板の電界効果型トランジスタ、単電子トランジスタへの応用展開を目指します。
小畠 誠也 大阪市立大学大学院工学研究科 助教授 光機能性有機分子結晶の固体物性制御 結晶形状、電気伝導率、蛍光特性、屈折率等が光可逆に変化し、エレクトロニクス材料やフォトニクス材料として応用可能な有機結晶デバイスの創製を目指します。光可逆に分子構造変化を起こすフォトクロミック分子結晶による結晶構造および結晶サイズの制御を行うことにより、固体物性の光可逆制御を行います。実現できれば、新しい有機デバイスとなるだけでなく、結晶材料としての新しい可能性を切り拓くことができると考えます。
小松 晃之 早稲田大学理工学術院 助教授 蛋白質ナノチューブを用いたバイオ超分子の創製 蛋白質からなる中空シリンダー構造のナノチューブを構築し、その一次元内孔空間に生体高分子(ヘモグロビン、リン脂質ベシクル)を包接させることにより、従来に類例のない一群のバイオ超分子を創製します。膜壁となる蛋白質には血液成分であるアルブミンを使用、その中に結合させる機能性分子とチューブ内孔空間に取り込ませる生体高分子の組合せにより、様々な機能発現を目指します。新しい医薬品、バイオセンサーの開発へと展開したいと考えます。
高谷 光 大阪大学大学院基礎工学研究科 助手 メタル化ペプチドを用いる金属の組成・配列・空間配置制御と異種金属集積型分子デバイスの創製 優れた機能を示す金属集積型分子を創出するためには、合理設計に基づく集積様式制御によって金属の相互作用や機能の連携を正しくデザインする必要があります。本研究ではアミノ酸やペプチドを利用して金属の組成・配列・空間配置を制御して集積化する新しい手法の開拓を行います。これによって種々の有用金属元素を含む異種金属集積型分子デバイスの合成を行い、金属の組み合わせの妙から生み出される新しい機能の探索を行います。
棚谷 綾 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科 助教授 機能性芳香族フォルダマーの構築と動的立体制御 本研究では、らせん構造や多層構造等のユニークな立体構造を持つ芳香族フォルダマーの構築およびその機能特性を追求します。新規に見いだした「芳香族アミド類の立体特性」は、三次元構造を規定したフォルダー構築に有用です。また、アミド結合の立体転換に基づいたスイッチ機能等を組み込むことにより、分子もしくはその集合体の動的立体構造制御が可能であり、その特性を基盤とした機能性芳香族分子開発を目指します。
松浦 和則 九州大学大学院工学研究院 助教授 ペプチド分子の自己集合によるナノ空間の創製 球状ウイルスなどの天然のタンパク質集合体は、分子の対称性を利用して自己集合することにより、数十~百nmサイズの分子カプセルをビルドアップしています。本研究では、その構築原理に学んで、三回もしくは五回対称性を有数自己集合性のペプチド分子を設計し、人工ナノカプセルを構築します。それらの内部ナノ空間に遺伝子やタンパク質1分子を、これまでにないナノバイオ材料として応用することを目指します。
山田 真実 北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科 助手 集積型金属錯体ナノ粒子を利用したスピン依存単電子デバイスの構築 現在、ナノ粒子の複合金属化およびデバイス薄膜化を簡便に行う手法開発が望まれています。本研究では、異種金属イオンが有機配位子で連結された自己集積型金属錯体のナノ粒子を前駆体として、多種多様な金属組成・ナノ構造からなる複合金属および複合金属酸化物ナノ粒子合成法を確立します。新規磁性ドット、磁性超薄膜およびナノコンポジット膜といった、高性能ナノ磁性材料へ展開し、化学プロセスを主軸としたスピンエレクトロニクス素子の構築に挑戦します。
吉沢 道人 東京大学大学院工学系研究科 助手 三次元錯体空間を活用したπ共役ナノ集積体の構築と機能 本研究は、プログラムされたπ共役系分子のナノ領域での自己組織化を利用し、有限なπ共役集積構造の有効的構築法の開発から一連の集積体群を創製、さらに、その物性誘起や機能制御を達成することで、次世代の機能性ナノ材料開発に貢献する「π共役ナノ集積体の化学」を開拓します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:岡本 佳男(名古屋大学エコトピア科学研究所 客員教授)

 研究領域「構造制御と機能」は、昨年度から公募を開始し、本年は2年目となります。ナノテクノロジーに対する関心の高さと、本領域が材料科学のかなり広範囲の研究を対象としていることもあり、121件の応募がありました。これらの応募課題を11名の領域アドバイザーで書面審査し、22件の面接対象課題を選考いたしました。2日間にわたる面接で厳選し本年度は11件が採択課題に選ばれました。今回採択されなかった課題の中には、面接に選ばれなかった課題を含めて多くの非常に興味深い提案課題があったことは申すまでもありません。
 「欲しいものを欲しい場所に」ビルドアップし、新しい機能を持つナノスケールの構造体を創製できる体系化された技術はほとんど存在せず、これから発展が期待される研究分野です。また、扱う材料が複雑になればなるほど、その相互作用は複雑なものになり、思いがけない機能が見いだされる可能性を秘めた魅力的な研究分野です。
 ビルドアップ型ナノテクノロジーの難しさは、分子や原子、あるいはその分子や原子を組織化してナノ構造体を構築する際に人間の意図を伝え、実用的なアウトプットを得るプロセスの体系化にあります。 そのために、様々なアプローチの中にある独創的なアイデアに飛躍の機会を提供することで、ナノ構造の構築とその機能発現につながる技術の多様性を確保し、将来体系化された技術となりうる新しい技術の芽を見いだすことをこの領域設定の目的としております。独創性のポイントは、ナノ構造の構築手法でも、構築したものから発現する機能であっても構いませんが、ナノ構造の構築プロセスの制御が、系の特性に本質的な影響を及ぼすものを対象とします。研究で掘り下げる部分は限定されていても、その研究が、ナノスケールから実用的なスケールまで、様々なスケールで起こる現象を結びつける連続的なプロセスを意識した視野の広い研究提案を期待します。すでにかなりの実績がある研究より多様性確保の観点から、リスクの高いチャレンジングな研究も優先して採択したいと思います。来年度の公募を目指しより魅力的な提案に仕上げて、再度チャレンジしていただくことをお願いいたします。