JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「光の創成・操作と展開」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
6 戦略目標 「光の究極的及び局所的制御とその応用」
研究領域 「光の創成・操作と展開」
研究総括 伊藤 弘昌(東北大学電気通信研究所 所長・教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
青木 隆朗 東京大学大学院工学系研究科 助手 キャビティQEDによる原子と光子の量子操作 共振器内に閉じ込められた光と原子が強く結合した系(キャビティQED)では、原子と光子のコヒ―レントな相互作用によって特異的な量子現象が起こります。すなわち、単一原子が単一光子レベルの入力光に対して大きな非線形性と非古典統計性をもたらす一方で、単一光子レベルの光が単一原子の量子状態に大きな影響を及ぼします。本研究では、このような系で原子と光の量子状態をコヒーレントに操作する技術の確立を目指します。
芦原 聡 東京大学生産技術研究所 助手 赤外サイクルパルス光波による分子振動ダイナミクスの追跡 本研究では、中~遠赤外波長域において、パルス中の光電場が1~2周期しか存在しないような高エネルギーサイクルパルス光波の発生ならびに、そのような光パルスを利用した高速な分子振動ダイナミクスを追跡する時間分解分光システム開発を目指します。これにより、未だ解明されていない低振動数領域の分子振動ダイナミクスを明らかにすると共に、本研究により得られる技術と知見は、分子振動波束グイナミクスの量子制御という夢ヘと繋がることが期待されます。
木下 俊哉 ペンシルバニア州立大学Physics Department Post-doctoral fellow
(ポストドクトラルフェロー)
光格子によるアトムトロニクスのためのデバイス開発 光格子内に導入された量子縮退したガスの研究は、近年目覚しい発展を遂げており、その成果の中には、各サイトへの単一原子の送り込みや原子集団、単一原子の動きの制御など、量子情報処理や量子シミュレーションにとって重要な技術に発展しうるアイデアが含まれています。また、光格子は、物質波の輸送にとっても優れた環境を提供し、超精密な力のセンサーや原子波干渉計などへの応用が期待できます。本研究では光格子を用いたアトムトロニクス、小型集積化原子デバイスのための基盤技術を開拓していきます。
櫛引 俊宏 大阪大学大学院工学研究科 特任助手 光技術による生体幹細胞の分化制御 -再生医療実現化にむけた光技術の創成- 再生医療で話題となる幹細胞は生体組織や臓器に成長する元となる細胞です。 幹細胞を生体に移植する際、遺伝子組換、熱や薬剤処理により目的細胞への分化を制御していますが、 倫理的問題、腫瘍細胞化などの副作用が臨床応用への障壁となっています。本研究では安全に幹細胞の分化制御を行う方法として光技術を適用し、細胞内光受容体や体内時計遺伝子の解析を行い、再生医療実現化へブレークスルーとなる光技術を提案します。
越野 和樹 和歌山大学システム工学部 助手 光子数確定パルスの空間制御理論 光子数確定パルスは、量子コヒ―レンス時間の長さのため、将来の量子情報技術に欠かせない物理系であり、その効率的な制御方法を確立することが急務となっています。本研究では、印加電圧・照射レーザー光などの外場に駆動された"動的"な光学系を最大限に活用することによって、光子数確定パルスの量子状態を、その空問的形状まで含めて、自由自在に制御するための方法論を理論面から模索します。
田中 拓男 理化学研究所河田ナノフォトニクス研究室 先任研究員 プラズモニック・メタマテリアルの創製と新奇光デバイスへの展開 ナノサイズの金属体中の自由電子の振動を利用して、これまで物質固有とされてきた誘電率や透磁率を人工的に自在に制御し、自然界には存在しない全く新しい物質"プラズモニック・メタマテリアル"を作り出します。そして、この物質とそこから生み出される新奇な光学現象を用いて、物質境界面において光を完全に透過させる光学素子といった、古典光学の範囲では実現し得ない新しい光制御技術の確立とそのデバイスの創製に挑戦します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:伊藤 弘昌(東北大学電気通信研究所 所長・教授)

 光・光量子科学技術は、わが国がこれまで積み上げてきた高いポテンシャルを有する分野であり、さらなる優れた基礎的科学技術の創出が求められています。本研究領域では昨年度に引き続き、光の本質の理解、光に関わる新しい現象・物性の解明、光の制御と光による物質の制御に関する新しい概念・手法の探求などに関して、個人の独創的な発想に基づき、将来もたらされると期待される新パラダイムを見据えたこれまでにない研究を対象に選考を実施しました。
 本研究領域の提案に対し、国公立大学、独立行政法人研究機関、民間企業等の方々から計39件の応募が有りました。応募内容は、赤外、可視光、紫外の広範な領域の光の発生・伝搬・検知の手法・技術や素子等に関する研究、光と物質の局所的相互作用に関する研究、光による原子・分子の制御、光の波長・振動数、位相、エネルギー密度などの光の本質の理解に関する研究、光技術の医療に向けた研究など幅広く寄せられ、特に、超短パルスを用いた光の本質探求に関わるものが多く寄せられました。これらの研究提案に対し、光関連領域の専門家からなる15名の領域アドバイザーと共に慎重に選考を行いました。選考にあたっては、研究のねらい、提案者自身のオリジナリティ、研究計画、個人研究に適した実施規模であることなどを考慮しましたが、特に、提案内容が「将来どのような新しい科学・技術分野に展開できる可能性を持っているか」を重視して選考致しました。
 まず書類選考により、特に内容が優れた12件に対して面接選考を行いました。選考の結果、新現象の解明を目指す基礎的研究から素子やシステムの革新を追求する研究に至るまで幅広い研究提案6件を採択することとなりました。採択された提案はいずれもオリジナリティが高く、理論的、実験的裏付けに基づく研究計画を明示し、本研究の成果が光・光量子科学技術に革新性をもたらす事が期待できるものです。また、実験的裏付けが十分とは断定しがたいものの、極めて独創性が高く、実現性に説得力がある提案についても採択いたしました。今回は、光技術の再生医療に向けた研究、メタマテリアルに関する研究などが採択され、研究領域活動のカバー範囲が拡大しています。昨年度採択の研究者10名を含めた研究領域活動を通じ、これらの採択課題の中から21世紀の光科学・技術の新芽となる技術が育つことを期待します。
 また、優れた提案でありながら採択に至らなかったものが多くありますが、これらの研究提案についても研究をさらに発展していただき、次年度に応募をしていただくことを希望します。今後も新たな原理の発見、方法論の創出や革新的な技術展開の契機となる独創性溢れる提案を期待します。