JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「物質と光作用」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
5 戦略目標 「光の究極的及び局所的制御とその応用」
研究領域 「物質と光作用」
研究総括 筒井 哲夫(九州大学先導物質化学研究所 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
生駒 忠昭 東北大学多元物質科学研究所 助手 光誘起巨大磁気抵抗を有する分子素子の創出 電子スピン操作で電気抵抗を制御するスピントロニクスは次世代キーテクノロジーです。本研究では、光で誘起される巨大分子磁性を用いて室温で機能する軽量高性能スピントロニクス材料の開発を行います。開発予定の新材料は、高純度シリコン結晶半導体ではなく、ナノメートル量子スピン効果を利用した安価な分子性物質です。家電品はもちろん携帯電子機器への応用も期待され、スピントロニクスの実用化を目指します。
岡本 晃一 カリフォルニア工科大学物理学科 上級研究員 プラズモニクスに基づく高輝度発光デバイスの開発 固体発光素子は、蛍光灯に代わる次世代光源として期待されており、年々飛躍的に発展してきていますが、発光効率やコストの面でいまだ多くの問題が残されています。本研究では、発光材料表面にナノメートルサイズの微細加工パターンを持つ金属を作成し、金属界面の特殊な電子振動(表面プラズモン)を利用して、発光材料の高効率化を試みます。これによりすべての蛍光灯・電球を固体素子に置き換える"照明革命"の早期実現を目指します。
加藤 雄一郎 スタンフォード大学化学科 博士研究員 カーボンナノチューブの電界発光 カーボンナノチューブの電界発光は、そのナノスケールの一次元的構造に由来する特徴がオプトエレクトロニクスに利用できる可能性があります。電界発光の機構および原理に対する理解を深めることにより、カーボンナノチューブのオプトエレクトロニクス材料としての評価に役立て、また従来の直接半導体のようにキャリヤー注入により発光する素子の構造を見いだすことを目指します。
立間 徹 東京大学生産技術研究所 助教授 局在プラズモンを利用した電荷分離 金や銀などの金属をナノレベルで微細構造化すると、ステンドグラスと同様の原理で発色します。これを酸化チタンと接触させると光エネルギーを吸収した電子が酸化チタンに移ることを見いだしました。その機構を解明し効率を高め、太陽電池や光触媒などの機能の実現を図ります。これまで、光エネルギー変換には半導体や色素の光吸収が利用されてきましたが、金属ナノ粒子やナノ構造という新たな選択肢を加えることが目標です。
中山 健一 山形大学工学部 助教授 メタルベース構造を用いた有機発光トランジスタ 新しい原理に基づく有機トランジスタとして、従来の電界効果型有機トランジスタよりも低電圧・大電流動作が可能な「メタルベース有機トランジスタ(MBOT)」を考案しました。本研究では、有機ELと同じ面状デバイスであるMBOT構造を用いて、トランジスタそのものが面状に発光する「有機発光トランジスタ」を提案し、その作製技術を確立すると共にディスプレーとしての応用を目指します。
藤田 晃司 京都大学大学院工学研究科 助教授 酸化物の形態制御による微小光共振器の形成 酸化物のサブミクロン空間を精密に制御し、光の干渉効果に基づいた新規な光機能性材料を創製します。具体的には、液相プロセスを用いて、相分離による自己組織的な構造形成により高屈折率の酸化物にマクロ多孔構造を形成し、光が最も効率よく散乱される構造を設計します。特に、酸化物多孔体における光の振る舞いを明らかにし、光機能性分子やイオンと複合化して、光のもつ特性を最大限に活用した超小型光デバイスを開発します。
増尾 貞弘 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科 助手 有機ナノサイズ凝集体の光アンチバンチング現象の解明 複数の蛍光分子から構成される凝集体であっても、そのサイズをナノサイズにすることにより、単一光子発生源として振る舞うことを世界に先駆けて解明します。単一光子発生源は「量子暗号通信」に必要不可欠であることから、本研究で得られる成果は、この次世代通信技術の発展につながるだけでなく、ナノサイズの特有の革新的な光機能応であり、「ナノ」の有効性を示す画期的な結果になると考えます。
矢貝 史樹 千葉大学工学部 助手 超分子色素モジュールによる高機能光学材料の創製 様々な機能性色素を多重水素結合により超分子モジュール化してから自己集積させるという手法により、革新的な光機能材料の創出に挑みます。これまでに開発した光応答超分子モジュールを用いて、光に応答する機能性カラム状集合体を創製します。さらに、容易に構造を多様化させることができるポリマー型超分子モジュール基盤として、単一色素を多種多様な集積構造へと導き、多様な光学特性を引き出します。
山田 容子 愛媛大学大学院理工学研究科 助教授 有機導電性化合物の光による高効率合成 有機半導体は軽くフレキシブな材料として期待されていますが、大面積のデバイスを実現するためには塗布による薄膜作製法の開発が必要です。光反応により、溶液および薄膜において可溶性前駆体をP型半導体であるペンタセンへ変換することに成功しました。光を用いるためパターンニングも可能です。今後は優れた有機半導体の光による合成を発展させると共に、有機電界効果トランジスタや有機薄膜太陽電池への応用を検討します。
山本 晃司 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 特任研究員 テラヘルツ波による有機電子物性の解明と有機デバイス検査法の開発 テラヘルツ時間領域分光法を用いて、分子間振動による有機低次元伝導体の電気伝導特性を解明し、動的な観察に基づく低次元物性の研究領域を推進させます。また、テラヘルツ波発生解析による有機半導体の表面電場解析法を確立し、有機デバイス検査法を開発します。この方法を用いれば、効率的な有機素子開発が可能になるものと期待されます。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:筒井 哲夫(九州大学先導物質化学研究所 教授)

 本研究領域は、平成18年度からスタートした新しい領域であり、「光機能を物質から取り出す」、「光を用いて物質の本質を調べる」、「光を用いて機能物質を創成する」という観点で、有機物、無機物、生物関連物質などの凝集体(固体、薄膜、分子集合体、液晶、ゲルなど)に対する光の作用について新しい角度から多面的に追究する研究を対象として募集を行い、選考を進めてきました。
 国公私立大学の方々から89件、独立行政法人研究機関の方々から16件、その他(外国の大学所属など)4件、合計109件の応募がありました。残念ながら民間企業所属の研究者からの応募はありませんでした。来年度は更に、組織的にも地理的にも、多様な場所からの応募を期待します。
 応募内容は学問分野で表現すれば、有機化学、無機化学、材料科学、物性物理、分光学、半導体物理、デバイス工学、物理学にまで広がる広範な分野からのものがありました。光機能材料・デバイスに分類できるものが最も多かったものの、光関連の先端技術を駆使して物質の本質を極めることを志向した研究提案も多数ありました。対象物質は有機物、無機物、金属まで多様であり、物質の合成や集合体・薄膜形成、構造体形成の手法の開拓に重点を置いた提案も多くありました。
 すべての応募書類について、9名の領域アドバイザーと研究総括とで査読、評価を行いました。書類選考の結果22件を面接対象に選びました。書類選考の過程では、提案の新規性、独創性、さきがけ研究としての計画の妥当性を重視しましたが、研究者の主体性、研究の発展性、将来の科学技術へのインパクトについても考慮しました。多くの荒削りではあっても大胆さと積極性に富む提案に感動を覚えながら書類を読み進めました。しかし研究提案の中には、研究計画に一貫性を欠くもの、単なる思いつきの組み合わせで実践的な実験研究としては成立しないと想定されるもの、一般論を展開するだけで個人研究としての先進性を感じさせないものなども、残念ながら少なからず含まれていたことを、敢えて述べておきます。
 22名について面接選考を行い、最終的に10名を採択しました。書類選考においても、面接選考においても、さきがけ研究として最も優れた提案を選び出すことだけを考えて選考を進めましたが、幸いにも研究内容においては、物質合成から物性物理まで、基礎から応用までと多様な分野の研究提案をバランスよく採択する結果となりました。30代を中心とする多彩な10名の若手研究者の活躍に期待します。これで公募の時点で敢えて提起していました異分野の研究者間の相補的協力関係を育てるための基盤形成も順調に進むものと思われます。
 なお、採択倍率が10倍を越えましたので、優れた提案でありながら、面接選考対象に加えることができなかったもの、面接選考で高い評価を得ながらも止むを得ず採択に至らなかったもの、あの欠点を修正さえできれば採択ラインを越えたであろうと惜しまれるものなどが多数ありました。惜しくも今回の採択に至らなかった提案については、研究を更に発展させ、またさきがけ研究に相応しい研究計画として再度練りあげて、次年度以降に再挑戦していただくことを切望します。