JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「構造機能と計測分析」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
10 戦略目標 「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」
研究領域 「構造機能と計測分析」
研究総括 寺部 茂(兵庫県立大学 名誉教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
荒船 竜一 東京大学大学院新領域創成科学研究科 産学官連携研究員 非弾性光電子分光による表面・界面振動解析 光電子の非弾性放出現象を利用した表面・界面の振動情報をプローブする手法を開発します。具体的には波長可変レーザーを励起光として、放出される超低速光電子を高エネルギー分解能、高波数分解能、高時間分解能で分光します。この手法によって、表面吸着種に対する低エネルギー振動モードのダイナミクス、物質界面の電子状態等を明らかにすることを目指します。
安 東秀 東京大学物性研究所 リサーチフェロー ナノスケール分解能スピン共鳴原子間力顕微鏡の開発 スピンエレクトロニクスの実現への期待とともに、今後、ナノスケールの空間分解能でスピン検出可能な計測手法の開発が必須と考えられます。本研究は、従来の電子スピン共鳴分光法に、原子分解能を有する原子間力顕微鏡(AFM)の手法を応用し、探針直下の試料表面近傍の局所領域のみに電場を高周波変調し、探針から直接スピン信号を検出することで、スピン検出の空間分解能をナノスケールにまで飛躍的に高めることを狙います。
石濱 泰 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 助教授 オミクス解析用超微小エレクトロスプレー法の開発 ポストゲノム時代において、プロテオミクスの重要性はますます高まっていますが、全プロテオームを解析できる計測技術は未だ開発されていません。質量分析計を用いて細胞内の全プロテオーム解析を行うため、エレクトロスプレーを極限まで微小化した超高感度システムを構築し、世界最高性能のプロテオーム計測システムの構築を目指します。このシステムは、同じ分析プラットフォームを共有するメタボロミクスへの応用も可能です。
大野 雅史 東京大学大学院工学系研究科 特任助手 高速超伝導転移端マイクロカロリメータの開発 超伝導転移端マイクロカロリーメータ(TES)は優れたエネルギー分解能を実現しうるスペクトロメータですが、現状では応答速度とピクセル数に制約があり、実用レベルに達していません。TESの機能の一部を自己温度安定機能を有する吸収体に持たせることにより、応答速度を改善します。また、独自の並列ピクセルバイアスを適用したアレイ信号読み出し法により、1000ピクセルの実現を目指します。これらにより実用性の高いTESイメージング技術の構築を目指します。
迫野 昌文 理化学研究所前田バイオ工学研究室 基礎科学特別研究員 毒性型アミロイドオリゴマーの高感度検出 アミロイド化合物の形成するアミロイドオリゴマーを特異的に認識するシステムを構築し、アルツハイマー病などのアミロイド性疾患の診断用に有効な検出法の開発を行います。分子シャペロンを用いることで、高毒性のアミロイドオリゴマーを高選択的にサンプルから分離する独創的発想に基づく研究です。アミロイド抗体により分子シャペロンに捕捉されたアミロイドオリゴマーを高感度に検出することを実現します。
佐藤 記一 東京大学大学院農学生命科学研究科 助手 マイクロバイオブロッティング分析システムの開発 遺伝子の有無を確かめるサザンブロッティング法、遺伝子の発現量の解析を行うノーザンブロッティング法、特定のタンパク質の存在を確認するサザンブロッティング分析をマイクロチップ化することを目的とします。これらの分析法はどれも生命科学研究において必須の分析法であり、チップ化が実現すれば分析時間の大幅な短縮、操作の簡便化、超微量分析が可能になり、生命科学研究の発展に大いに貢献することが期待できます。
初井 宇記 自然科学研究機構分子科学研究所 助手 価電子をその場観測する顕微軟X線発光分光法の開発 軟X線が物質に照射されると、1%以下の確率で軟X線発光が起こります。本研究では、この軟X線発光のうち50-500 eVの領域で、高エネルギー分解能軟X線発光スペクトルを、電場印加下、電解液共存下など、機能性材料が機能を発揮しているその場で測定します。さらに、顕微軟X線発光分光器を開発し、機能性電子材料の価電子について、機能発現時にその場で観測できる高精度な顕微分光法を確立します。
松田 康弘 東北大学金属材料研究所 助教授 時間分解X線磁気円二色性分光法の開発 材料やデバイスのダイナミクスを電子状態から理解することは、応用面ばかりでなく物理的にも注目されています。時間領域でのX線磁気分光技術は、電子状態のダイナミクス計測を元素選択的に可能とする画期的な手法と考えられます。本研究では、新規材料のスピン偏極電子ダイナミクスを微視的視点から理解することを目指し、放射光X線極短パルスと時間制御された磁場を用いて時間分解X線磁気円二色性分光技術を新たに開発します。
吉田 裕美 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科 助手 タンパク質の新規電気化学定量法の開発 電気化学的手法に基づいて、未知タンパク質の分子の数を評価するシステムを開発します。この方法は、複数のタンパク質が共存していても、それぞれを区別して同時に測定するもので、従来の方法のように、タンパク質の精製や単離をする必要がありません。単離をすることが難しい微量タンパク質の定量法として非常に有効です。タンパク質全般を扱うことができる実用性の高い測定方法の実現を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:寺部 茂(兵庫県立大学 名誉教授)

 本研究領域は平成16年度に発足し、本年度は第3回目の募集で最後の募集となりました。応募者は102名と3年間では最少であり、その約3分の1は再応募者でした。また、本年度は過去2年間で採択されなかった分野、具体的には分離分析、質量分析、試料前処理分野からの採択を希望している旨を募集要項で述べたため、この分野からの応募が約3分の1ありました。今回の書類選考では12名のアドバイザーに専門の近い分野を評価していただき、本年度の選考方針を加味して特に優れた研究提案に対して面接選考を行いました。面接選考では、特に分野にこだわらず、本研究領域の目標である計測分析技術の革新技術に発展する可能性のある研究提案であるかどうかに重点を置き選考した結果、9件の提案を採択しました。このうち4件は本年度、特に採択を希望した分野からの採択でした。また、前回の提案より基礎検討を十分に行って再挑戦し、採択された研究提案は、前回の応募と比べて著しい進歩があったと評価された結果です。
 最後の選考を終え、採択された研究者は合計40名となり、領域の規模は大きくなりました。明確に分けるのは難しいのですが、40名のうち、物理が主体の計測法開発に関する研究が16件、生物および化学が主体の計測法開発に関する研究は、分光分析を含めて24件です。生体材料あるいは生化学的手法を利用した計測法に関する研究は比較的少数ですが、この分野は平成17年度発足の姉妹領域である「生命現象と計測分析」で活発な研究が行われています。本研領域の研究分野は極めて広範囲にまたがっており、基礎的物性計測法の開発から、マウス等を材料に用いた生体内反応の計測法の開発研究まで多岐に渡りますが、領域会議ではお互いに未知の分野に対する知識欲を満たすべく活発な情報交換が行われています。本研究領域の活動期間は残り3年半あり、領域の目的である"計測・分析技術に関して、個人の独創的な発想に基づくこれまでにない革新技術の芽の創出"のために思う存分研究していただき、我が国発の新規計測分析法の開発につないでいくことを大いに期待します。