JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【CRESTタイプ】
4 戦略目標 「ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築」
研究領域 「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」
研究総括 堀池 靖浩(物質・材料研究機構 フェロー)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
片岡 一則 東京大学大学院工学系研究科・医学系研究科 教授 遺伝子治療実用化のための超分子ナノデバイス製造技術の創成 安全でかつ効果的な遺伝子治療の実現を目指して、精密高分子合成技術を基盤とする超分子自己組織化プロセスに基づき、複数のインテリジェント機能を数十nmスケールの中に創り込んだ超分子ナノデバイスを構築します。実際の医療応用に適する形での機能・安全性評価と高効率製造技術を確立することによって、「具体的に医療現場で使えるもの」としての応用基盤を構築し、癌、循環器疾患、運動器疾患という三大疾患の克服を目指します。
小寺 秀俊 京都大学工学研究科 教授 再生医療に向けたバイオ/ナノハイブリッドプラットホーム技術の構築 本プロジェクトは、微細加工・微細操作などのMEMS/NEMS技術に基づき、臓器を構成する細胞およびその有機的集合体である臓器を再生するためのバイオ・ナノプラットホーム技術を開発し、再生医科学の研究とMEMSの利用方法に関する新たな手法を実現します。バイオテクノロジーとMEMS技術を融合するこの製造技術は、MEMS技術を活用して今後のバイオナノテクノロジーを推進するための新たな製造技術として期待できます。
高井 治 名古屋大学エコトピア科学研究所 教授 ソリューションプラズマ反応場の自律制御化とナノ合成・加工への応用 ソリューションプラズマは、従来の気相プラズマとは異なり、液相において発生され、新しい材料合成・加工の反応場として期待できます。本研究では、本プラズマ中へのナノバブル導入と新溶媒開発を行い、反応場としての多様性・可能性を追求します。また、励起状態計測手法、溶媒中活性種の定性・定量法を確立し、ナノ材料合成・加工分野で各種応用可能な自律制御"新反応容器"開発をめざし、ソルーションプラズマの実用化を目指します。
塚越 一仁 理化学研究所河野低温物理研究室 先任研究員 ナノ界面・電子状態制御による高速動作有機トランジスタ 有機薄膜トランジスタは素子内部の界面の特性で大きく変わり、従来から安定性および信頼性の制御が困難とされてきました。この界面を根本から理解し制御することで、短チャネル有機トランジスタを高い制御性で実現するとともに、高速動作の限界に挑戦し、実用展開のための基盤技術の確立を目指します。この研究の発展は現在のIT機器の形状や概念に変革をもたらす次世代のプラスチックエレクトロニクスへの基盤技術となります。
半那 純一 東京工業大学大学院理工学研究科 教授 液晶性有機半導体材料の開発 液晶分子が自己組織的に凝集したナノスケールの分子凝集相では結晶物質に匹敵する高速の電子伝導が起こります。この発見は液晶物質に分子配向をもつ高密度な凝集相を自発的に形成する新しいタイプの有機半導体として位置づけられます。本研究では非晶質有機半導体に代わる次世代の有機デバイス用半導体材料として、液晶物質の実用的な応用展開に必要な工学的な基盤を構築し、液晶トランジスタや液晶EL素子などの実現を目指します。
前田 英明 産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門 マイクロ・ナノ空間化学グループ長 マイクロ空間場によるナノ粒子の超精密合成 ナノ粒子技術は、21世紀型のボトムアップ型ナノテクノロジーとして大きな期待が寄せられています。本研究は、マイクロ空間化学合成技術をナノ粒子合成反応の精密解析ツールとして応用し、ナノ粒子生成過程を精査・解析することで、ナノ粒子利用時に要求される種々の付帯的要件を満足するような最適合成ルートの選定指針確立と製造プロセスへの展開を目的とします。
(五十音順に掲載)

<総評>堀池 靖浩(物質・材料研究機構 フェロー)

 ナノテクノロジー研究の促進はこれまで精力的に進められて来ましたが、今後はその実用化を図る時期に至ったとの背景から、本研究領域では、ナノデバイスやナノ材料を高効率に製造する技術群の基盤構築、およびこれらの応用による具体的応用実施例の提示、ならびに製造プロセスに係る現象のナノスケール科学による革新を志向した研究を推進し、これらを「ナノ製造技術」の基盤として構築することを通して将来のナノテクノロジーの本格的実用化を目指します。

 今回の応募は80件でしたが、当該研究領域がカバーする研究内容は広範囲に渡るため、種々の研究が提案され、その多くが融合分野に属します。その為、課題の分野分類は困難ながら、あえて分類しますと、ナノプロセス系:17件、ナノカーボン系:10件、半導体・プロセス系10件、ナノデバイス系:9件、バイオデバイス系:7件、ナノ構造系:7件、有機デバイス系:5件、有機合成系:4件、DDS系:3件、ナノインプリント系:3件、MEMS/NEMS系:2件、計測系:2件となります。
 本研究領域の研究総括、領域アドバイザー11名と、当該趣旨に概ね合致した新規な提案であるか、さらに、単にナノ現象の研究や製造技術に留まらず、当該戦略目標であるナノ科学技術を製造技術へいかにして具体的に展開しようとしているかに関して議論を深め、方向性の考え方を共有した後、書類審査により13件の提案を選択し、面接審査により以下の6件の提案と2件の特定調査課題を採択しました。面接選考に当たっては、当該領域の趣旨に合致しているかに加え、ご提案と関係の深いテーマでの他の研究費の取得状況などを勘案して質疑討議を行いました。

 その結果、安全で効果の高い遺伝子医療を実現するDDS、バイオMEMSを駆使したプラットホームを用いた再生医療用デバイス、独創性の高い強誘電体液晶を用いた新規なデバイス、マイクロ空間化学、及び液中プラズマ制御を用いた独創的ナノ粒子創製、界面制御による高移動度有機トランジスタを採択しました。

 不採択提案の中には採択提案と匹敵する提案もありましたが、研究内容としては優れているものの、当該領域の趣旨である実用化への具体性を欠く提案も多く見られました。また、今回の採択提案にバイオ関係やナノ粒子、有機デバイスが採択されたのは、これらの研究がたまたま優れていたためであり、当該領域を目指す研究はこれらに限るものでなく、今後「使えるナノテク」の趣旨をご理解され、一層の優れた提案を切に希望します。