JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステム」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【CRESTタイプ】
2 戦略目標 「高セキュリティ・高信頼性・高性能を実現する組込みシステム用の次世代基盤技術の創出」
研究領域 「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステム」
研究総括 所 眞理雄(ソニー株式会社 コーポレート・エグゼクティブ SVP
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長)
副研究総括 村岡 洋一(早稲田大学 理工学部 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
石川 裕 東京大学情報基盤センター 教授 高信頼組込シングルシステムイメージOS 本研究ではネットワークで接続された組込みコンピュータによるデータベースサーバや高性能計算システムを実現するための高信頼高性能組み込み並列分散オペレーティングシステムを研究開発します。処理能力に応じて、ディスクを搭載したコンピュータ群、マルチコアCPUとメモリだけを搭載したコンピュータ群が適時ネットワークでつながれるクラスタシステムを想定し、Linuxを基に、高信頼単一システムイメージを提供する並列分散OSを実現します。
佐藤 三久 筑波大学大学院システム情報工学研究科 教授 省電力高信頼組込み並列プラットフォーム マルチコア・マルチチップとなる高性能並列組込みシステムにおいて、冗長性を持ったソフトウェア分散共有メモリ機構により耐故障性を実現し、実時間制約下で並列性制御と省電力化を行うための電力制御機構、さらに複数のネットワークリンクを適宜用いることにより、電力制御・性能制御・耐故障性を包括的に実現する通信機構を研究開発します。これらについて低電力高速ネットワークを持つ並列組込みシステムを構築し実証します。
徳田 英幸 慶應義塾大学環境情報学部 教授 マイクロユビキタスノード用高信頼OS 無線センサノードや小型携帯端末のようなマイクロレンジ組込み機器で共通に動作可能な、実時間性、高信頼性、高安全性、高可用性を持つオペレーティングシステムの基盤を、オープンソースOSであるLinuxを拡張して実現します。同基盤を提供することにより、それらの機器を相互接続したアプリケーション開発の容易化と、それらのアプリケーションにおけるディペンダビリティを提供します。
中島 達夫 早稲田大学理工学術院 教授 超高機能情報家電のためのオペレーティングシステム 本研究では、既存のソフトウエア資産を有効に利用しながら、システム全体の信頼性,制御系と情報系処理の融合、機能拡張性を大幅に向上する超高機能情報家電向け仮想実行環境を構築します。本研究のシステムは、現状のLinuxを用いた場合の開発においてその場限りの一時的な対応になっている障害管理、入出力管理、リソース管理を共通フレームワークとして提供することにより、コストを増加させず信頼性や機能拡張性を向上させます。
前田 俊行 東京大学大学院情報理工学系研究科 助手 高信頼システムソフトウェア構築技術に関する研究 本研究では、静的プログラム解析技術 (プログラムを数学的理論に基づいて解析することで、プログラムを実行することなく、その性質を知る技術)、特に型理論とモデル検査理論に基づき、システムソフトウェアの安全性・信頼性を保証・検証する技術を実現します。また、この技術を実用化し、実際にシステムソフトウェア開発者に広く利用してもらえるような現実的な検証ツールを開発・公開します。
(五十音順に掲載)

<総評>研究総括: 所 眞理雄(ソニー株式会社 コーポレート・エグゼクティブ SVP
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長)
副研究総括:村岡 洋一(早稲田大学 理工学部 教授)

 コンピュータの実用化から半世紀以上が経ち、その応用範囲は基幹業務系やPCなどの「目に見える」コンピュータから、家電機器、自動車、携帯電話、センサー・アクチュエータなど、「直接目に触れない」形でありとあらゆる用途に広がって来ています。その間、我々はハードウエア、オペレーティングシステム、ミドルウエア、アプリケーション構築に関する多くの知見を得、また知的な資産として蓄積してきました。近年、「目に見える」コンピュータだけでなく、「直接目に触れない」形のコンピュータが急速にネットワークに接続されるようになって来ました。その結果、個々のシステムに対する高い信頼性、応答性、効率性に加えて、それらを接続した情報システム全体の信頼性、安全性、セキュリティ、可用性、効率性や、将来の拡張性や変更に対する動的対応性についても要求されるようになって来ました。本研究領域では、「直接目に触れない」コンピュータに対するこのような要求を満足し、また、近い将来実用に供することを目的とし、これまでの知的資産を活用し、ディペンダブルな組込みシステム向けのOSの研究開発を行います。また、研究成果の実用性を担保するために、個別の研究成果を統合して実用システムとして実現が可能であることを実証し、オープンソースの形で将来の更なる研究開発の基盤を提供することを目指します。すなわち、統合されたソフトウエア自身を本研究領域の最終的な研究成果と考えます。
 本研究領域の目的ならびに進め方についての基本的な考えを応募者に伝えるため、応募に先立ち2度のコンセプト説明会を開催し、関連資料をホームページで公開しました。その結果18件の応募があり、6名の領域アドバイザーとともに書類選考、面接選考を行い、5件の提案を採択しました。選考に当たっては、研究提案が研究としての十分な新規性を備えること、研究実施者がそのアイデアをソフトウエアとして期間内に完成することが十分期待できること、個別の研究成果を統合して実用システムを実現するために積極的に貢献する意思があること、を主たる基準としました。また、高い性能が要求されるアプリケーション、中位な性能が要求されるアプリケーション、小型のアプリケーションのそれぞれに対応できるとともに、統合してひとつのディペンダブルな組み込みシステムを構築できること、ディペンダビリティー確保のためのプログラムの正当性の検証の必要性、なども念頭に入れ、選考を行いました。その結果が上記の研究課題です。いずれも研究ならびにシステム実装に十分に実績があり、最終成果が大いに期待できると考えます。一方、不採択とした研究提案の中にも極めて独創性の高いものや研究としての価値が高いものがありましたが、その具体的な効果や統合システムとしての実用性の観点から本年度は不採択とせざるを得ませんでした。