JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「生命システムの動作原理と基盤技術」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【CRESTタイプ】
1 戦略目標 「生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出」
研究領域 「生命システムの動作原理と基盤技術」
研究総括 中西 重忠(財団法人大阪バイオサイエンス研究所 所長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
上村 匡 京都大学大学院生命科学研究科 教授 器官のグローバルな非対称性と一細胞の極性をつなぐ機構の解明 頭からお尻へ、腕の付け根から指先へと、私たちの体は軸に沿って非対称な形をしています。この器官のグローバルな非対称性の情報を読み取って、個々の細胞は極性を獲得します。本研究では、生きたモデル動物の細胞中で、タンパク質の動きを追跡し数理的な解析を加えることで、器官と細胞の非対称性を結ぶ仕組みの解明を目指します。細胞の形と機能は密接に連関しており、形態の発達不全の結果生じる病気(機能不全)の描像をシャープにすることを目標とします。
影山 龍一郎 京都大学ウイルス研究所 所長 短周期遺伝子発現リズムの動作原理 細胞の増殖や分化過程では、多くの遺伝子が正しいタイミングで機能しますが、その時間を計る生物時計の実体はよくわかっていません。転写因子Hes1やHes7が短周期の生物時計として働くこと、短周期発現リズムを刻む遺伝子が他にも多く存在することは明らかになりましたが、その全体像は不明です。本研究では、数理モデルの構築と検証を行い、短周期リズムを刻む遺伝子動態の分子基盤とリズム形成の意義を明らかにします。
黒田 真也 東京大学大学院理学系研究科 教授 シグナル伝達機構の情報コーディング 生命現象の本質は、多種多様な刺激を限られた種類の細胞内分子の活性にコードして適切に応答することにあります。このコーディングには、入力の違いを活性化する分子の組み合わせにコードするだけでなく、分子活性の時間波形に情報をコードする時間情報コーディングがあります。本研究では、同じ刺激の時間波形に依存して様々な応答を示す生命現象に着目して、シグナル伝達の情報コーディングの基本原理を抽出します。
濱田 博司 大阪大学大学院生命機能研究科 教授 生物の極性が生じる機構 一様な細胞集団の中に極性を生み出すことは、初期発生において極めて重要な現象です。本研究では、左右と頭尾という2つの極性を題材にして、対称性が破られる機構、さらには、体の極性の起源を明らかにします。左右や頭尾を決定するシグナル因子(Nodal, Lefty)をマウス胚中で可視化し、分泌後の挙動を観察します。得られた実験データを再現する数理モデルを構築し、初期発生を支配する原理を解明します。
森 郁恵 名古屋大学大学院理学研究科 教授 行動を規定する神経回路システム動態の研究 認識、記憶、学習といった脳・神経系のいとなみを理解することは、現在の神経科学において、重要な課題です。本研究では、全神経回路がわかっている線虫に着目し、温度学習行動を規定する神経回路動態の仕組みを明らかにすることを目標とします。そのために、神経細胞の活動や学習行動の鍵となる遺伝子の働きについてイメージング技術を開発し、必要に応じてコンピュテーショナルバイオロジーを導入し、新概念の提言を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:中西 重忠(財団法人大阪バイオサイエンス研究所 所長)

 地球上に生物が誕生した約40億年前から多種多様な生物が進化を遂げてきました。その中で、私達は、生物が種、属を超え、「生命システムの動作原理」を、したたかに保存していることを学んできました。
 本研究領域では、この「生命システムの動作原理」の解明を目指して、新しい視点に立った解析基盤技術を創出し、生体の多様な機能分子の相互作用と作用機序を統合的に解析して、動的な生体情報の発現における基本原理の理解を目指す研究を取り上げる事にしました。近年の飛躍的に解析が進んだ遺伝情報や機能分子の集合体の理解をもとに、細胞内、細胞間、個体レベルの情報ネットワークの機能発現の機構解明、さらには、生体情報の発現の数理モデル化や新しい解析技術の開発などの基盤技術の創成など、生命システムの統合的な理解をはかる上で重要な研究を対象とし、公募を致しました。
 本研究の推進は、わが国の生命科学研究に、新しい視点から取り組むもので、極めて緊急かつ重要な課題と認識しています。当然、産業面からも新しい基本原理や基盤技術を創薬開発やバイオエンジニアリングに繋げることが期待されています。
 本年度、本領域の公募に対し、チーム型研究(CREST)では159件、個人型研究(さきがけ)では303件、総数462件と予想を大きく超える研究者からの応募がありました。多くの研究者が本領域を次世代の重要な研究領域として注目している証であると考えています。
 応募課題は、いずれも、第一線で活躍されている優秀な研究者からの提案で、生体をシステムとして捉え、その動作原理を解明しようとする意欲的な内容が多く、又、基盤技術においても独創性の高いものが、数多くありました。これらの研究提案を10名の領域アドバイザーの協力を得て、厳正に書類選考を行い、チーム型研究(CREST)では、特に優れた研究提案10件に対して面接選考を行いました。最終的には、5件(内女性研究者1名)を採択致しました(競争倍率32倍)。審査に当たっては、応募課題の利害関係者の審査への関与や、他制度の助成金等との関係も留意し、公平・厳正に行いました。
 書類及び面接選考に際しては、研究の構想、計画性、課題への取り組みなどの観点のほか、国際的な視野やオリジナリティーを重視致しました。特にチーム型研究(CREST)では、新分野を切り開く独創性に基づく動作原理の理論と研究(共同)体制基盤を重視しました。
 来年度も、本領域を開拓する多くの研究者の応募を期待します。