JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第317号(資料2)新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要 > 研究領域:「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者及び研究課題


4 戦略目標 「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」
研究領域 「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術」
研究総括 鈴木 紘一(東レ株式会社 専任理事、先端融合研究所 所長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
新井 洋由 東京大学大学院薬学系研究科 教授 生体膜リン脂質多様性の構築機構の解明と高度不飽和脂肪酸要求性蛋白質の同定 本研究においては、主に線虫を材料として用い、遺伝学、生化学、およびマススペクトロメーターを駆使しながら、1.リン脂質分子種多様性形成に関わる分子群の同定 2.高度不飽和脂肪酸を含むリン脂質を要求する分子群の網羅的同定 3.高度不飽和脂肪酸を含む新規生理活性脂質の同定の3点に焦点をしぼり、生体膜機能の本質的問題を解決します。
礒辺 俊明 首都大学東京大学院理工学研究科 教授 RNA 代謝解析のための質量分析プラットフォームの開発 近年、低分子のRNA代謝物とタンパク質の複合体が生体内で重要な働きをしている事が明らかにされています。本研究では、最新の質量分析法を駆使した包括的なRNA解析のプラットフォームを開発し、生体内に存在する低分子RNAの実態を明らかにするとともに、RNA/たんぱく質複合体の解析技術を確立することで、プロテオミクスと低分子RNA研究が融合した細胞機能ネットワーク解析の基盤作りを目指します。
鍋島 陽一 京都大学大学院医学研究科 教授 代謝応答を統御する新たな分子機構の研究 脂質、糖質、アミノ酸などの摂取、体内での代謝、代謝物質による特異的シグナル分子の制御などを統合することによって動物固体のエネルギー代謝が制御されています。我々が同定したβ-Klothoはこのエネルギー代謝を制御する重要な制御因子であると推定され、本プロジェクトではβ-Klothoの機能とその作用機能の解明を基盤としてエネルギー代謝の全体像の理解を目指します。同時にエネルギー代謝は肥満、加齢、メタボリックシンドロームなどと深く関わっており、得られた成果を医学的応用へと発展させます。
藤木 幸夫 九州大学大学院理学研究院 教授 オルガネラ-ホメオスタシスと代謝調節・高次細胞機能制御 脂質など様々な重要な代謝を担い神経疾患や有用物質生産とも関係の深いペルオキシソームというオルガネラを対象に、そのホメオスタシス(形成と分解)の分子制御と、その破綻により起こる代謝障害を、代謝が支配している分子ネットワークの動態解析により解明し、神経疾患の治療薬や診断法・蛋白質・食料生産のための新しい基盤技術を確立します。
三村 徹郎 神戸大学理学部 教授 液胞膜エンジニアリングによる植物代謝システム制御 液胞は、植物細胞の大半を占めるオルガネラであり、細胞内環境のホメオスタシス、代謝活性の維持に必須です。液胞膜に存在する機能未知タンパク質の形質転換細胞について、液胞と細胞質に含まれる代謝産物の網羅的解析を行うことで、その機能同定を行うとともに、液胞膜輸送機能の変換で、細胞質の代謝機能を制御する可能性を探ります。液胞膜輸送機能の改変は、植物液胞に貯まることが知られている有用物質の生産制御に大きな新しい可能性を開くものと期待します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:鈴木 紘一(東レ株式会社 専任理事、先端融合研究所 所長)

 代謝の研究は生化学の基礎として古くから研究されてきましたが、生体物質の変化や代謝経路を明らかにする研究が殆どで、代謝産物を網羅的に解析する研究はありませんでした。代謝産物の種類や濃度が非常に多岐にわたるので、これらを網羅的に解析する技術基盤が未完成だからです。この戦略的創造研究は、トランスクリプトーム、プロテオーム解析の次の課題として注目されている代謝産物の包括的な解析、メタボローム解析の技術的基盤を確立し、基礎研究はもちろん、医薬を始め多方面の応用に繋がる革新的な成果の創出を目指すものです。ポストゲノム研究としてプロテオーム解析などを基盤とする研究開発が一段と激化する中で、メタボローム研究は欧米でも研究が端緒に付いたばかりで、本研究の推進は、我が国のバイオ研究の優位性を確保するためにも極めて緊急かつ重要な課題です。
 本年度、本研究領域には47件の応募がありました。昨年同様、応募課題には網羅的代謝の課題に正面から取り組んだものは少なく、プロテオーム、情報伝達、転写調節、構造生物学に近い分野のものが多数見られました。この事実は、「代謝領域」の広さと同時に、言葉としての「代謝」が認知されているにもかかわらず、「網羅的な代謝産物の研究」がまだ揺籃期にあることを示すものと思われます。応募課題全般のレベルは非常に高く、分野の多様性もあり選考には大変苦労しました。審査に当たっては、メタボロームに正面から取り組む点に留意し、独創性・発展性、実行可能性、期待されるインパクトの大きさ等をも考慮しました。また、審査に当たっては、応募課題の利害関係者が審査に関与しないよう十分注意し、公平・厳正な審査を心がけました。様々な分野をカバーする12名の領域アドバイザーの方々の協力を得て、書面審査で12課題を選んで面接選考を行い、最終的に5課題を採択しました。 採択された5課題は、網羅的なメタボロームを扱う研究ではなく、生体膜リン脂質、RNA、生体エネルギー代謝やオルガネラなど特定の代謝領域に焦点を当てたフォーカスドメタボロームに相当しますが、いずれも独創性に富むハイレベルの研究で、インパクトのある大きな成果が得られるものと期待しています。