JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第317号(資料2)新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要 > 研究領域:「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者及び研究課題


2 戦略目標 「通信・演算情報量の爆発的増大に備える超低消費電力技術の創出」
研究領域 「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」
研究総括 南谷 崇(東京大学先端科学技術研究センター 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
小池 帆平 産業技術総合研究所エレクトロニクス研究部門 グループ長 しきい値電圧をプログラム可能な超低消費電力FPGAの開発 スーパーコンピュータから情報家電まで幅広い分野での活用が増えてきたプログラム可能論理素子FPGA(Field Programmable Gate Array)において、深刻な問題となる漏れ電流による消費電力の増大を防ぐ技術として、トランジスタのしきい値電圧をきめ細かくプログラム可能とした超低消費電力FPGA「Flex Power FPGA」を開発し、漏れ電流による消費電力を従来技術の100 分の1 以下に低減させることを目指します。
後藤 敏 早稲田大学大学院情報生産システム研究科 教授 超低消費電力メディア処理SoCの研究 動画像、静止画、音声、テキスト等のマルチメディア情報を送受信するシステムにおいて、1 メディア情報の重要度に応じて暗号強度や誤り訂正能力を最適に制御する方式、2 画像処理、暗号処理、誤り訂正の各方式の超低演算化と低メモリアクセス方式を実現するアルゴリズムとアーキテクチャ、3 フロアプランと一体化した自動高位合成システムとコンフィギャラブルプロセッサ、の研究に取り組み、従来比で1/100の消費電力化をはかる超低消費電力SoCの実現を目指します。
高木 直史 名古屋大学大学院情報科学研究科 教授 単一磁束量子回路による再構成可能な低電力高性能プロセッサ 超伝導単一磁束量子回路による再構成可能な大規模データパスを有するプロセッサの研究を行い、10 テラフロップス程度の計算能力をもち、デスクサイドに設置可能なコンピュータを、現在の技術を用いる場合に比べ約100分の1の消費電力で実現するための基盤技術を確立します。
中村 宏 東京大学先端科学技術研究センター 助教授 革新的電源制御による次世代超低電力高性能システムLSIの研究 高性能なシステムLSIは高度情報化社会を支える基盤として広く利用されていますが、そのさらなる高性能化は消費電力の面で限界に来ています。本研究は、回路実装、アーキテクチャ・コンパイラ、システムソフトウェアの各階層が真に連携・協調し、革新的な電源制御を行うことで、これらの問題を解決することを目的とし、ハイエンド向けシステムLSI の消費電力あたり処理能力を、研究終了時点で現状の100 倍に向上させることを目標とします。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:南谷 崇(東京大学先端科学技術研究センター 教授)

 この研究領域は、情報システム/ネットワークにおける爆発的な通信・計算量の増大に備えて、デバイス、回路、VLSI、アーキテクチャ、システム・ソフトウェア、ネットワーク、応用・サービスなどの各システム階層における個別要素技術の飛躍的革新だけではなく、それらの階層統合的/協調的なシステム管理、制御によって消費電力当たりの処理性能を100倍から1000倍に向上させる超低消費電力技術を確立する、という戦略目標達成を目指しています。
 昨年同様、適応的エネルギー管理、動的再構成アーキテクチャ、省電力ネットワークアーキテクチャ、省電力アルゴリズム、並列処理言語・コンパイラ技術等のシステム要素技術で飛躍的な低消費電力化を実現するとともに各階層の連携、統合的管理によってシステムの超低消費電力化にブレークスルーをもたらす研究、また抜本的な超低消費電力化を可能にする新しい原理のハードウェアおよびソフトウェア基盤技術創出を目指す研究の提案を期待しました。この期待を鮮明にするため、今年度は特に、より上位層のシステム技術に重点をおいた選考を行う方針を募集要項に明示しました。
 応募件数は昨年度に比べて大幅に減少して10件でしたが、書類審査で7件を選択し、面接審査によって最終的には4件の提案を採択しました。選考に当たっては、審査の公平性、透明性に十分配慮した上で、本領域に課せられた高い数値目標を達成するため、領域の成果を最大化する最適な研究課題と最高のチーム編成で「バーチャル研究所」を構成するという視点を唯一の審査基準として、9名の領域アドバイザーとともに厳正な審査を行いました。採択テーマは、「しきい値電圧をプログラム可能な超低消費電力FPGAの開発」、「単一磁束量子回路による再構成可能な低消費電力高性能プロセッサ」、「超低消費電力メディア処理SoCの研究」、「革新的電源制御による次世代超低消費電力高性能システムLSIの研究」の4件でした。いずれも基礎となる技術の裏付けあるいは実績があり、チーム構成のポテンシャルが高く、目標達成へのアプローチが明確な研究提案です。昨年度採択の4テーマと合わせると領域として一層バランスの良い構成になりました。
 なお、来年度もこれまでと同様の方針で本領域の掲げる数値目標達成に貢献できる提案を求めますが、特に、情報システムの階層統合的なアプローチによって既存技術の限界を打破し、この領域の最終成果を明確に提示できる形態の研究提案を期待します。