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科学技術振興機構報 第297号

平成18年5月29日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL https://www.jst.go.jp

超小型・低価格で高速認証が可能な「汎用指紋照合LSI」の開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業委託開発の開発課題「汎用指紋照合LSI」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、東京工業大学教授 國枝博昭の研究成果を基に、平成16年1月から平成18年1月にかけて株式会社ビヨンド・エルエスアイ(代表取締役社長 朝比奈冬男、本社 住所 東京都目黒区大岡山2-12-1、資本金1億2千万円、電話:03-5734-2315)に委託して、企業化開発(開発費約152百万円)を進めていたものです。
 バイオメトリクス(生体認証)には、指紋、瞳の虹彩、顔などがありますが、現状では指紋認証が一般的で、流通シェアの過半数を占めています。しかし、従来の指紋照合では、プログラムサイズが大きく、照合速度が遅いのが実状です。さらに、1指の登録データサイズが大きいため、多人数照合の場合では非常に大きなメモリ領域を必要とします。
 本開発では、プログラムサイズが小さく、使用メモリ量の少ない高精度な認証アルゴリズムを採用し、センサや用途に合わせてプログラムの変更が可能な汎用プロセッサLSIとしてワンチップ化させました。 従来では3チップが必要であった機能モジュールを、超小型(5mmx5mm)なワンチップでの構成を可能にし、実際の指紋センサと組み合わせた試験では、1秒で1,000指のデータと照合できることが測定されました。 これは従来のソフトウエア使用の場合と比較すると、約10倍の高速性能で、この照合速度は単一チップLSIとしては世界初です。
 本新技術は、指紋照合エンジンが超小型で低価格な上、各種のセンサや周辺回路に対応できるなど汎用性があるため、中規模人数のオフィス、事業所等の入退室システム、ドア、電子錠、金庫など小型組込システムへの応用が期待されます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  本人認証の普及のため、小型高速の指紋照合システムLSIが求められています。

 バイオメトリクス(生体認証)を用いた本人認証システムは、パスワードまたはIDカードなど所有物を用いた本人認証と比べて、成りすまし脅威からの防御性に強く、かつ利便性の高い本人認証技術として、各種の技術が開発されています。その生体認証には、指紋、瞳の虹彩、顔などがありますが、現状では指紋認証が一般的で、流通シェアの過半数を占めています。
 また、生体認証技術は、認証アルゴリズム注1をPC上で稼動させるソフトウエア技術から、単独で動作するハ一ドウエアモジュール技術に現在移行しつつあります。しかし、その大半はPCと同じ環境を、機能モジュールに搭載したものであり、プログラムサイズが大きいために、照合速度が非常に遅くなります。指紋照合システムの場合、プログラムを100Kバイト以下にすることは困難であり、1指の登録データのサイズは200バイト以上であるため、多人数登録する場合には、非常に大きなメモリ領域を必要とするのが現状です。

(内容)  単一チップLSIとしては世界初の5mmx5mmサイズで、1秒で1,000指のデータと照合できる高速指紋照合LSIを実現しました。

 本新技術は、ソフトウエアとハードウエア処理の最適な組み合わせを可能にする、周辺I/O用のハードウエアとプロセッサ、高速照合エンジンとプロセッサから構成され、その間のデータ交換を効率良く行える、汎用な小型高速の1:N指の指紋照合注2用のシステムLSIです。
 本開発では、プログラムサイズが小さく、使用メモリ量の少ない、高精度な独自の認証アルゴリズムを採用しました。 指紋照合センサ、LCD表示装置、ICカードなどインターフェースの使用に応じた変更可能なプログラムや、高速照合エンジンをビットシリアルFPGA注3(BSFPGA注4)で実現させたことより、指紋画像処理、指紋照合を高速で処理できるようにしたLSI(表1図1)を設計・製作しました。
 指紋認証方法には、指紋の盛り上がった曲線の端点や分岐点を特徴点として、その2次元座標情報を用いた独自の「特徴点抽出法」を採用し、認証は画像処理、特徴点抽出、照合処理という過程から成ります。
 従来法では、個人を認識するためには1指あたり登録データサイズは200バイト以上必要とされてきましたが、本開発の「特徴点抽出法」ではそれを64バイトまで圧縮、認識のためのプログラム格納サイズも32kバイトで、従来の1/3に低減しています。
 この開発により、LSIチップの設計、動作検証、量産テスト技術を確立することができました。 従来では3チップが必要であった機能モジュールを、超小型(5mmx5mm)なワンチップでの構成を可能にし、実際の指紋センサと組み合わせた試験では、1秒で1,000指のデータと照合できることが測定されました。これはソフトウエアのみの場合と比べ、約10倍の高速で、この照合速度は単一チップLSIとしては世界初です。

(効果)  認証LSIは、多くの分野で応用が可能になり、情報・通信セキュリティ社会の進展に貢献できます。

 本LSIの認証システムは、汎用性を持たせるためにRISC注5プロセッサとBSFPGAを最適な組合せしているので、毎年製品化されるセンサや周辺機器の変化に応じて、ハードウエアを追加することなく対応することができます。
 また、高速照合な機能を持ちながら、超小型・低価格で量産可能なため、電子鍵、金庫などのアクセス制御用に使われるほか、指紋照合としては、従来のセキュリティカードにチップを搭載して個人認証を取り入れるなどの用途拡大も進むと考えられます。その結果、PCやネットワークのセキュリティ制御用、携帯電話およびICカードの電子商取引における個人認証など多くの応用が可能となります。
 本開発成果品は、IT社会の急速な発展が進行する中で、情報・通信セキュリティ社会基盤の形成をより一層進展させる重要な技術として期待されます。

<用語解説>
表1 設計したLSIの主な仕様
図1 製作したLSIとBSFPGAのレイアウト
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社ビヨンド・エルエスアイ
技術部課長 熊本乃親
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1
東京工業大学 インキュベーションセンター4階
TEL: 03-5734-2315 FAX:03-5734-2391

独立行政法人科学技術振興機構 産学連携事業本部
開発部 開発推進課
菊地 博道(キクチ ヒロミチ)、永田 健一(ナガタ ケンイチ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3
TEL: 03-5214-8995 FAX: 03-5214-899