科学技術振興機構報 第27号
平成16年2月5日
埼玉県川口市本町4−1−8
独立行政法人 科学技術振興機構
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「ナノボール:次世代DNA解析デバイスの心臓部」

−ナノテクでDNA解析が簡便・迅速・低コストに−

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「ナノチップテクノロジーの創製とゲノム解析への応用」(研究代表者:馬場 嘉信 徳島大学薬学部教授・産業技術総合研究所単一分子生体ナノ計測研究ラボ長)の研究において、直径数十ナノメートルのナノボールを開発し、バイオデバイス技術と組み合わせることで、DNA解析の超高性能化を達成した。これまで、バイオデバイスでのDNA解析においては、その心臓部として取り扱いの難しいゲルやポリマーを用いる必要があったが、ナノボールはこれらを必要とせず、しかも、DNA解析の能力を飛躍的に高めることができる。本研究は、ゲルやポリマー以外の物質がDNA解析を実現できることを示した世界初の例である。DNA解析のバイオデバイスは、ゲノム創薬やテーラーメード医療に必要不可欠であるが、ゲル・ポリマー使用がネックとなり、実用化が進んでいなかった。ナノボールの開発によりDNA解析デバイス実用化にはずみがつくと期待される。さらに、ナノボールは、DNA解析デバイスのみならず、タンパク質解析デバイスへの応用も期待される。
 この研究は、徳島大21世紀COE・田渕眞理講師、東大工・片岡一則教授、京大理・吉川研一教授、東京理大・長崎幸夫教授との共同研究で行われた。
 本研究成果は、2004年2月8日付の米国科学雑誌「ネイチャー・バイオテクノロジー」でオンライン発表、3月号に掲載される。

 DNA解析デバイスとしては、DNAチップ・マイクロアレイや電気泳動チップなどが実用化され、ゲノム・プロテオーム解析による疾患関連遺伝子・疾患関連タンパク質やSNPs解析が進んでいる。将来、これらの遺伝子・タンパク質解析により疾患の診断や予測が進み、ゲノム医療やテーラーメード医療が進むと期待される。しかし、これらを実現するには、疾患に関連した遺伝子・タンパク質を簡便・迅速かつ低コストで解析できるデバイスの開発が必要不可欠である。そのため、電気泳動チップを基盤にDNA解析デバイスの実用化を目指した研究・開発が進んでいるが、その心臓部として取り扱いや品質管理の困難なゲルやポリマーを使う必要があり実用化の妨げとなっていた。特に、現状の電気泳動チップは微細加工によりマイクロまたはナノ構造を有し、その中に粘性の高いゲルやポリマーを導入することが困難で、安定に正確な遺伝子解析を行うことが困難であった。
 我々の研究グループは、この状況を打開するためにゲルやポリマーにかわるDNA解析デバイスの心臓部の研究開発を進めてきたが、分子ナノテクノロジーに基づいて直径が数十ナノメートルの球状の化合物(ナノボール:図1)を開発することに成功した。ナノボールは、図1のように化合物の中心にポリ乳酸で核をつくり、その周りにポリエチレングリコールを球状に結合させたものである。ポリエチレングリコールの長さを制御することによりナノボールのサイズを10-100ナノメートルの範囲で正確にコントロールすることができる。本研究では、50ナノメートルのナノボールを作成した。原子間力顕微鏡というナノ構造を観察できる顕微鏡でナノボールの構造をみると、図2のように正確にサイズをコントロールできることが分かる。さらに、ナノボールの表面の性状も親水性や疎水性などに自由に制御できる。
 ナノボールを水溶液にして、これをマイクロデバイス上の溝(10-100マイクロメートル)に満たすことで、DNA解析を実現することに成功した(図3)。従来のDNA解析デバイスではこの細い溝にゲルやポリマーを満たしていたが、これらは寒天や水あめのように粘性が高く、デバイスに満たすことが困難なため、実用化のボトルネックとなっていた。しかし、ナノボールの溶液は、通常の水と変わらないほどさらさらなため、細い溝の中に入れることが非常に簡単であり、従来数分間かかっていた充填を2秒で行うことができる。さらに、洗浄も可能なことから、高価なマイクロデバイスのリサイクルも実現できる。また、ナノボールを心臓部とすることで持ち運びできるような簡便な装置でもDNA解析が可能になる。
 ナノボールによるDNA解析は、遺伝子診断に使う小さいDNA(百―千塩基)や細菌などの検出に使う大きいDNA(千-1万5千塩基)のいずれに対しても、従来法より数倍高速で著しく高い解析能を示した(図3)。さらに重要なことに、ナノボールでは大きさの異なるDNAを同じナノボールで解析可能であることが明らかとなった。従来のゲルやポリマーでは、その濃度の異なる溶液を作成しDNAによって入れ替える必要があった。これは、個々のポリマー分子の長さを正確に制御できないためであった。これに対してナノボールはナノテクノロジーにより大きさを正確に制御可能で、従来より著しく高い解析能力を示すことができる。
 DNA解析デバイスの領域ではゲルやポリマーを使用することが常識であったが、本研究は、ナノボールがDNA解析に適用可能であり、さらに従来技術をはるかに凌駕することを示した世界最初の例である。今後は、同様の研究が世界的に展開されるものと考えられる。
 ナノボールにより、DNA解析デバイスの実用化のボトルネックが解決され、DNA解析デバイス実用化の研究開発にはずみがつくものと期待される。本技術はすでに特許出願済みであり、企業へのライセンス提供が進展中である。さらに、ナノボールはDNAのみならずタンパク質の解析にも転用可能であり、将来のゲノム医療・テーラーメード医療を実現するうえで、不可欠の基盤技術となるものと期待される。
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:ゲノムの構造と機能<研究総括:大石道夫、かずさDNA研究所 所長>
研究期間:平成11年〜平成16年
図1 ナノボールの構造のイメージ
図2 ナノボールのAFM(原子間力顕微鏡)像
図3 DNAの解析例 (本技術と従来技術の比較)

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本件問い合わせ先:

 馬場 嘉信(ばば よしのぶ)
  徳島大学薬学部薬品物理化学教室
   〒770-8505 徳島市庄町1−78
   Tel:088-633-7285 Fax:088-633-9507

 森本 茂雄(もりもと しげお)
  独立行政法人科学技術振興機構 研究推進部 研究第一課
   〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
   Tel:048-226-5635 Fax:048-226-1164
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