JSTトッププレス一覧 > 科学技術振興機構報 第264号
科学技術振興機構報 第264号

平成18年3月6日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

高い計数能力を持つ中性子検出用シンチレータの開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発の開発課題「中性子検出用Li-B系シンチレータ」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、元理化学研究所イメージ情報研究ユニットリーダー清水裕彦氏(現高エネルギー加速器研究機構教授)らの研究成果を基に、平成15年3月から平成17年9月にかけて株式会社第一機電(代表取締役社長 城井正純、本社 東京都調布市下石原1-54-1、資本金 9,700万円、電話:0424-88-3312)に委託して、企業化開発(開発費約93百万円)を進めていたものです。
 中性子検出器には比例計数管が従来から広く使用されてきましたが、その計数率注1は数十キロカウント毎秒程度に留まっていました。この計数率では、新たに建設されているJ-PARC注2等の大強度中性子源で行う実験に使用する中性子検出器としては対応しきれません。それに対して本開発のシンチレータ注3は、従来の数万倍にあたるギガ(10の9乗)カウント毎秒という高い計数率の実現が期待できると同時に、厚さ1mmで90%以上の検出効率注4を達成する能力を持った材料であり、中性子検出器における飛躍的性能向上が期待できます。
 本開発では、原子番号が3および5と小さいことからガンマ線吸収能力が低く、かつ元素の性質から中性子吸収能力の高い、Li(リチウム)とB (ホウ素)から構成される酸化物単結晶を母体としております。さらに、高性能化のため、添加物として20種類近くの金属イオンの評価を行い、銅イオンを選択しました。そして銅の価数を制御しながら結晶中に固溶させてブリッジマン法注5で大型の結晶(図1)を作製する技術を開発しました。
 本製法により製造された高速シンチレータを中性子検出に使うことで、従来の数万倍という高い計数率の実現が可能となり、中性子回折・散乱による物質の構造・機能の解析をはじめとした中性子ビームを使った様々な実験における中性子の利用効率の飛躍的向上が期待されます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  高速かつ高効率な中性子検出器のためのシンチレータが求められています。

 従来から広く用いられている中性子検出器は比例計数管であり、その計数率は数十キロカウント毎秒程度となっております。それに対して、建設中であるJ-PARCの大強度中性子源では従来の百倍程度の強度になり、同一時間に来る中性子の数が増えることから、全てに対応することはできません。一度に大量に来る中性子を検出するには発光減衰特性の速い高速な検出器が求められます。シンチレータを用いた検出器にはその可能性はあるものの、従来から一部で使用されているシンチレータはあまり高速ではなく、効率も高くありません。そのため、高速なシンチレータで、同時に中性子検出効率が高い、すなわち中性子吸収能力が高い材料が望まれていました。

(内容)  リチウム、ホウ素からなる酸化物単結晶を母体として、高速で高効率なシンチレータを実現し、大型化を可能としました。

 本新技術は、リチウム、ホウ素から構成される酸化物単結晶を母体として、添加物により高性能化を図った中性子検出器用高速・高効率シンチレータの製造技術です。リチウム、ホウ素は原子番号がそれぞれ3あるいは5と小さいことからガンマ線吸収能力が低く、かつその原子核の性質から中性子吸収能力の高い元素であり、高効率が実現できます。シンチレータの計数率を高くするには発光減衰特性が速いことが求められます。本開発においては、母体となる単結晶のナノ秒という超高速の発光減衰特性を保ったまま(図2)高出力化(図3)するために、添加物として、20種類近くの候補となる金属イオンを評価しました。その中から最適な結果を得た銅イオンを選択し、ブリッジマン法によって、その銅イオンの価数が一価注6になるように制御しながら結晶中に固溶させた大型の結晶を作製する技術を開発しました。

(効果)  高速・高効率中性子検出器で貴重な中性子ビームの効率的利用が期待されます。

 本新技術により得られる銅添加リチウム・ホウ素酸化物単結晶は、シンチレータとしての発光がナノ秒という短時間で減衰し、1mmの厚さにおける90%以上の中性子吸収率が示すように中性子検出効率が高いという特徴を有するため、高速・高検出効率中性子検出器に利用されることが期待されます。また、高い中性子吸収能力を利用して中性子遮蔽体(中性子の透過を止める物体)としても使用することが可能です。

用語解説
図1 LBO:Cu単結晶インゴット
図2 発光減衰時間特性
図3 α線による発光の光量測定
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社第一機電 総務部 課長 馬詰裕嗣
東京都調布市下石原1-54-1   [電話(0424) 88-3312]

独立行政法人科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部
開発推進課 菊地博道、山田寛
東京都千代田区四番町5−3   [電話(03) 5214-8995]