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別紙2

委託開発の採択課題の内容


課題名 Vasohibin蛋白による血管新生診断キット
新技術の代表研究者 東北大学 加齢医学研究所 教授 佐藤 靖史
委託企業 塩野義製薬株式会社
新技術の内容:
 本技術は、血管細胞が血管新生の刺激にさらされた際に、自ら産生して血管新生が行き過ぎないように制御する新規蛋白質Vasohibin(バソヒビン)を測定することによって、血管新生の診断を行うものである。血管新生は、創傷治癒等の生理的な血管新生だけでなく、癌や糖尿病、慢性関節リウマチなどの成人病にも関係し、特に、癌の増殖、転移においては、癌細胞へ栄養を送るために、様々な血管新生誘導因子を分泌し、血管新生を活性化している。一方、生理的範囲を超えて病的な血管新生が起こると、血管はVasohibinを産出し、血管新生を制御された範囲内に収束させると考えられ、Vasohibin蛋白を測定することで、血管新生の活動を知ることができ、疾患等の正確な診断が可能となることが期待される。
 本技術は、血管新生に伴う疾患である癌、眼疾患(糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症)、慢性炎症(関節リウマチ)に関する病態や、血管再生療法の効果判定に対し、簡便且つ正確な方法として応用することが可能であり、画期的な血管新生の診断法として期待される。

課題名 MPC処理を用いた長寿命型人工股関節
新技術の代表研究者 東京大学 医学部附属病院整形外科 教授 中村 耕三
委託企業 日本メディカルマテリアル株式会社
新技術の内容:
 本技術は、生体適合性に優れたポリマー MPC(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)を用いて、ライナーからの摩耗粉の産生を抑制させた人工股関節である。
 従来の人工関節手術は、患者のよりよいQOLの獲得に大きな役割を果たす優れた治療法であるが、人工関節の寿命(耐用年数)を制限する「弛み」という深刻な合併症の決定的な解決策が得られておらず、再置換手術の必要性や若年層への適用が困難などの問題があった。
 本技術は、人工股関節の摺動面を構成するポリエチレンライナーの表面にナノスケールのMPC処理層を被覆させ、摺動特性を大幅に改善させることで対摩耗性を向上させるものであり、摺動特性が大幅に改善されることから、製品の寿命が向上するだけでなく、従来適用が困難であった若年層への適用の拡大が期待される。

課題名 光ファイバセンシングによる海底地震観測システム
新技術の代表研究者 元:独立行政法人 防災科学技術研究所特定プロジェクトセンター・ディレクター
藤縄 幸雄
委託企業 エヌ・ティ・ティ・インフラネット株式会社
新技術の内容:
 本技術は、光ファイバセンシングを応用した加速度型地震計と津波計からなる海底地震観測システムである。給電不要に加え部品数が少ないため、コスト面で優れるだけでなく、高い信頼性を有し、敷設後長期間にわたりメンテナンスが不要となる。また、津波計を備え、津波発生箇所近くでの検知が可能であり、より早い警報発信と避難時間の増加を実現する。
 地震の初期微動(P波)を捉え、主要動(S波)が到達する前に緊急地震警報を発信し、ライフラインの非常停止などの初期対応により被害の大幅減少が見込めるため、近年、地震観測網の設置が急がれている。特に海底地震を発生源近くで観測するほど効果は高いが、従来方式では電気を要し、水中で用いるには高コストとなり、海底敷設は数カ所にとどまっていた。
 本技術は、信頼性・コストの面で優れているため、海底地震・津波の観測システム整備を大きく促進させることができ、地震や津波被害の大幅な減少に寄与しうるものである。

課題名 亜臨界水処理による鶏由来副生物からの有用成分抽出装置
新技術の代表研究者 大阪府立大学 大学院工学研究科 教授 吉田 弘之
委託企業 三菱長崎機工株式会社
新技術の内容:
 本技術は鶏由来副生物を連続的に亜臨界水処理装置に投入し、亜臨界水のもつ強力な加水分解力により、安全な高付加価値のアミノ酸水溶液、油脂分、カルシウム分等を高速で分解・抽出する製造技術である。従来、羽毛、不可食骨・内臓などの鶏由来副生物は食鶏を食肉加工した時に必ず発生し、貴重な蛋白質源でありながらも産業廃棄物として取り扱われており、環境対策を行いながらの低生産性処理は業界の経営を圧迫していた。
 熱破壊することのない領域の亜臨界水処理により、被処理物の蛋白質が、ペプチド、アミノ酸、有機酸等の低分子に断片化されるため、消化率の高い安全な高濃度水溶液等の有価物を効率的に生産することができる。また事故鶏、廃鶏も本技術で処理可能であり従来の埋設、焼却処分等が不要となるだけでなく、製造時の悪臭成分も低分子化、分解されるため、脱臭処理装置の小型化など環境負荷の低減が期待できる。

課題名 アレルギー性鼻炎治療剤
新技術の代表研究者 愛知医科大学 医学部 教授 稲福 繁
委託企業 ゼリア新薬工業株式会社
新技術の内容:
 本技術は、アレルギー性疾患に対する治療剤に関するものである。
 アレルギー性疾患を始めとする鼻粘膜疾患患者は年々増加しており、内服薬や点鼻薬などを始めとする現行の治療に抵抗性を示す患者も増加している。現在外科的処置として鼻粘膜切除術、レーザ焼灼術等の治療が行われているが、開放創を形成することによる粘膜への侵襲性が大きく、回復にかなりの時間を要するという問題点があった。
 本技術は、エタノールとステロイド薬の配合剤を、専用注射器を用いて鼻アレルギー反応の発生場所である鼻粘膜患部に直接注入し凝固させることで、低侵襲で安全に鼻炎症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉等)を改善・消失させるものである。
 本剤を用いた治療技術は低侵襲の治療方法であるだけでなく、効果が術後早期に発現し、しかも長期間持続するという特徴を有することから、従来の外科治療手段に比べて、幅広い普及が期待できる。

課題名 冷凍倉庫におけるガイドレス無人フォークリフト
新技術の代表研究者 岡山県立大学 情報工学部 助教授 神代 充
委託企業 日本輸送機株式会社
新技術の内容:
 本技術は、CAD情報を用いた高速画像処理技術をフォークリフトに適用することにより、冷凍倉庫内をガイドレスで自動走行し、指示された目的物を自動荷役する無人フォークリフトを実現するものである。
 従来、冷凍倉庫における有人フォークリフト作業は、作業者の健康上の問題や作業効率の低さから無人化が望まれている。一方、これまでの無人フォークリフトはルートが固定されたガイド方式のため走行性能や作業効率が低く、ほとんど普及していない。
 本技術における高速画像処理技術は、3次元CAD情報を2次元に変換し重心と輪郭線を比較する方式により、画像処理時間を大幅に短縮させ、対象物をリアルタイムで認識できる技術である。この技術をフォークリフトに導入することにより、有人運転並みの走行性能や状況に応じた格納作業が可能となり、冷凍倉庫における作業効率を向上させるとともに、劣悪な冷凍環境から作業者を解放することが期待できる。

課題名 鋼構造道路橋のリアルタイムモニタリング・診断システム
新技術の代表研究者 東京工業大学 大学院理工学研究科 教授 三木 千壽
委託企業 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
新技術の内容:
 本技術は、光ファイバセンサとネットワークを用い、災害時にリアルタイムでの橋梁異常検知を可能とする技術である。平常時にはセンサ情報とカメラ映像の統合的解析により通行車両の車種・重量を判別し、損傷の主要因となっている重量超過車両の通行データを自動収集することが可能となる。また得られた通行データから、損傷度予測に基づいた補修優先橋梁の抽出等効率的な維持管理戦略にむけて重要とされる情報の提供が可能となる。
 現在、道路保全業務においては、地震等災害時の甚大な社会的・経済的損失を軽減させるため、異常検知・サービス再開判定の早急なシステム整備が強く求められている。また、橋梁の多くは建設後40年近く経過しており、平常時においても橋梁の損傷度を正確に把握し必要な点検・補修により延命を図ることは緊急の課題となっていた。
 本技術は、複数橋梁のリアルタイムでの車両通行状況・橋梁異常の把握を可能とするものであり、道路橋の安全に大きく寄与するものである。

課題名 超極細繊維を用いた人工血管
新技術の代表研究者 横浜市立大学 研究推進センター 教授 野一色 泰晴
委託企業 ディーブイエックス株式会社
新技術の内容:
 本技術は、素材を生体内での安全性が認められているポリエステルから逸脱することなく、単にその形態を変化させただけで、漏血を少なくした安全性の高い人工血管に関するものである。現在、漏血防止には、ポリエステルにウシ由来のコラーゲンを被覆した人工血管が使用されているが、アレルギー反応や最近のBSE問題等により、安全性について懸念されている。本技術では、通常繊維間隙に超極細繊維を絡ませて、個々の通常繊維間隙に存在させることにより、血栓膜が付着し易く、さらに個々の超極細繊維を核に、互いが繋がり蜘蛛の糸のように張り巡らされるため、細胞に良好な足場を提供して、血液の凝固を促進し漏血を防止すことが可能である。
 本技術は、ほとんどが輸入品に頼っている人工血管市場で、ウシ由来のコラーゲン被覆品でなく安全な人工血管として、患者のQOLの向上や医療費の削減などが期待される。

課題名 屈折率分布型レンズ製造技術
新技術の代表研究者 鳥取大学 工学部 教授 古田 武
委託企業 日本ライトン株式会社
新技術の内容:
 本技術は、芯ファイバーを引き上げながら連続的に、屈折率を調整したポリマー溶液のコーティングと溶液中モノマー成分の内部拡散浸透・重合をおこなうことにより、所定の直径、屈折率分布を有する屈折率分布型レンズを製造する技術である。
 ロッドレンズアレイは、FAX・スキャナー・多機能プリンタの読み取り部に用いられるが、屈折率の制御が非常に困難であった。
 本技術により、シンプルな製造方法で高精度かつ短時間での屈折率分布制御が可能となる。さらに、材料の選択肢が広いためカラー用プラスチック製レンズアレイの製造が可能であり、FAX・スキャナー等の更なる高性能化、環境負荷低減に寄与しうる。

課題名 人工透析用カセット型回路
新技術の代表研究者 元 鈴鹿医療科学大学 医用工学部 教授 竹澤 真吾
委託企業 カンタツ株式会社
新技術の内容:
 本技術は、車のテールランプなどに利用されている金型樹脂成型方法(ダイスライドインジェクション(DSI)方式)を、微小でかつ複雑な流路を必要とする人工透析用カセット型血液回路に応用するものである。カセット型回路は、30年以上前より多くの企業で検討されていたにもかかわらず、流路を構成する部品の接着強度が十分に得られず、体液や血液などが治療中に漏れ出してしまうこと、生体適合性の観点から接着方法が限られることが原因で実現しなかった。
 本技術では、生体適合性を損なうことなく臨床使用耐えうる強度を持った人工透析用カセット型回路を作製することが可能となり、簡便性・安全性に優れることから通常の血液透析回路のみならず、集中治療室などでの血液浄化用回路としても利用されることが期待される。

課題名 熱電シナジー排ガス発電システム
新技術の代表研究者 独立行政法人 産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門
主任研究員 藤代 芳伸
委託企業 株式会社アツミテック
新技術の内容:
 本技術は固体酸化物型燃料電池(SOFC)とセラミック熱電変換材料を組合せることにより、燃料電池発電とともに廃熱エネルギーを有効利用し、限られたユニットスペースでの発電量を向上させる熱電一体化燃料電池モジュールである。セラミック材料を利用するSOFC技術は、高効率で多燃料対応が可能なため、移動体等の新しい補助電源システムとしての適応が期待されているが、実際の発電においては作動、停止時の出力変動が大きく、これらを抑えることが課題であった。
 本技術では、モジュール化技術によるSOFCの出力密度向上とともに、熱電発電による加熱や除熱時の温度変化および定常的な電極上での発熱エネルギーからの電力変換により、発電密度を向上させ、システム全体でのエネルギーの有効利用を図る。これにより、自動車等にてこれまで未利用であった化学反応エネルギーや廃熱エネルギーの有効利用が可能となり、化石燃料の消費削減を通じて二酸化炭素の低減による地球温暖化対策への貢献も期待できる。

課題名 C型慢性肝炎における肝機能改善剤
新技術の代表研究者 東京医科歯科大学医学部付属病院 医療福祉支援センター長
七里 眞義
委託企業 株式会社ジーンケア研究所
新技術の内容:
 本技術は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の値が恒常的に高値であるC型慢性肝炎患者に対する治療剤に関するものである。
 C型慢性肝炎に対する療法として抗ウイルス療法が一般的であるが、年間の治療費が高額となること、うつ病など重篤な副作用を引き起こす場合もあることなどが課題であった。さらに、抗ウイルス療法が無効である場合も少なくない。その他の療法においては有効性の問題や、投与方法が注射である場合には患者への負担が大きい、など問題があった。
 本技術は、AST、ALTの値が恒常的に高値であるC型慢性肝炎患者の肝機能の改善を図る肝機能改善剤を開発するものであり、経口投与のため患者への負担が少ないだけでなく、C型肝硬変さらには肝癌への症状の進行を抑制する効果も期待される。