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科学技術振興機構報 259号

平成18年2月23日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

磁場の変化で、大きな歪と力を発生する新型形状記憶合金を開発

(コンピュータシミュレーションを利用して開発)

 JST(理事長:沖村憲樹)は、強磁性から弱磁性への構造変化を生じる新しい合金系を見出し、この性質を用いて室温で磁場により作動する新しいタイプの形状記憶合金を開発しました。
 JSTの研究チームでは、合金の地図とも言える状態図(相図)1)を計算機シミュレーションで予測する研究を実施しております。その過程で本研究チームは、ニッケル、マンガン、インジウム、コバルトからなる合金において、今までに殆ど報告の無い強磁性2)結晶から弱磁性2)結晶への構造変化を生じる磁性形状記憶合金3)を開発しました。また、この合金の単結晶試料に約3%の変形を加えた後、磁場を与えると室温の状態でほぼ完全に元の形状に回復すること(形状記憶効果)がわかりました。 この現象は、常態では安定な弱磁性マルテンサイト相4)が、磁場により不安定化して強磁性母相に変化し、その際に形状が元に戻るために生じたもので、今までに報告のある磁歪材料5)に比して桁違いに大きな力と変形量が得られます(図参照)。このことから、この合金は今までに無い新しいタイプの機能性材料として、磁性アクチェータ、磁気センサー、熱磁気モータ等いろいろな応用が期待されます。
 本成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」研究領域(研究総括:土居 範久(中央大学理工学部 教授))の研究テーマ「材料の組織・特性設計統合化システムの開発」の研究代表者・石田清仁(東北大学大学院工学研究科 教授)、貝沼亮介(同 助教授)及び及川勝成(同 助教授)らによって得られたもので、英国科学雑誌「Nature」オンライン版に2006年2月23日(英国時間)に公開されます。

研究の背景:

 現在NiTi(ニチノール)合金が代表する形状記憶合金は、超弾性効果6)を利用した用途で実用化が進んでいます。更に圧電素子(ピエゾ素子)7)の様な駆動素子(動力源)として利用する場合にも、セラミックス系電歪材料8)などと比べて桁違いに大きな変形量と力が得られることから、大きな可能性を有することが分かってきました。しかし、基本的に温度を変化させることにより作動させる形状記憶合金では、ピエゾ素子に要求されるような高応答性の点で限界があり、磁性を利用する強磁性形状記憶合金が注目されてきました。 近年、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のグループにより開発されましたNiMnGa(ニッケル、マンガン、ガリウム)系単結晶合金では、9%もの変形量が報告されましたが、双晶界面9)の移動を原理とすることから室温では3MPa程度の力しか発生できず、それが実用への大きな障害となっていました。

今回の論文の概要:

 本研究チームは、合金状態図のシミュレーション結果を参考にして行った合金設計により、今までに無い興味ある物性を有する合金系を見出し、室温で利用できる新たな磁性形状記憶合金を開発しました。今回見出したNiMnIn(ニッケル、マンガン、インジウム)合金は、NiMnGa合金とは異なり強磁性の母相から弱磁性のマルテンサイト相へ変態すること、さらにCo(コバルト)の添加により母相のキュリー温度10)を100℃以上まで上げられることがわかりました。また、室温付近にマルテンサイト変態温度を持つ合金へ7T(テスラ)の磁場をかけることによりマルテンサイト変態温度が約30℃低下しました。さらに、変態温度付近で温度を固定し、磁場を加えたところマルテンサイト相から母相への逆変態が確認されました。さらに、予めマルテンサイト相状態で約3%圧縮した単結晶試料に磁場を印加しましたところ、ほぼ完全な形状回復(形状記憶効果)が得られました。 この様に磁場誘起逆変態11)を利用した磁性形状記憶は今までに前例が無く、原理的には100MPaもの力を発生させる事が可能であることから、この新しい現象をメタ磁性形状記憶効果と命名しました。

今後期待できる成果:

 本合金では、熱エネルギーと機械エネルギーを変換する従来の形状記憶に、さらに磁気エネルギーを加えた制御が可能となり、磁性駆動素子12)、高出力振動子、磁気-応力-温度センサーや熱磁気エンジン13)など、従来には無い新しいアプリケーションが期待されます。

<用語の説明>
図.NiCoMnIn系で初めて実現したメタ磁性形状記憶効果の説明図

【論文名】

「Magnetic-field-induced shape recovery by reverse phase transformation」
(逆マルテンサイト変態による磁場誘起形状回復)
doi :10.1038/nature04493

【研究領域】

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。
 ○「材料の組織・特性設計統合化システムの開発」
  (研究代表者:石田 清仁 東北大学大学院工学研究科 教授)
  戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)
  研究領域:「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」
  (研究総括:研究総括:土居 範久(中央大学理工学部 教授))   研究期間:平成15年度〜平成20年度

【お問い合わせ先】

 貝沼 亮介 (かいぬま りょうすけ)
 東北大学大学院工学研究科 助教授
   住所 〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6−6−02
   TEL: 022-795-7322
   FAX: 022-795-7322
   E-mail:

 佐藤 雅裕(さとう まさひろ)
 独立行政法人科学技術振興機構
  戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
   〒332-0012 川口市本町4−1−8
   TEL:048‐226‐5636
   FAX:048‐226‐1164
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