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科学技術振興機構報 第258号

平成18年2月21日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL https://www.jst.go.jp

一定荷重の測定が可能な高剛性・高分解能 力センサの開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発の開発課題「精密加工機用精度改善ユニット」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、東京大学大学院工学系研究科教授 樋口俊郎氏らの研究成果を基に、平成15年3月から平成17年9月にかけて株式会社ナノコントロール(代表取締役社長 飯田克彦、本社 東京都品川区南大井6丁目17番17号 FINEビル2階、資本金 2億円、電話:03-6404-2820 (代表))に委託して、企業化開発(開発費約104百万円)を進めていたものです。
 光学部品の金型等高精度切削・研削加工1)物の製作は、加工機の性能向上にも関わらず、バイト2)の位置決め、加工開始点の検出等加工前の調整において、職人の勘や技量に依存しています。また、一定荷重の測定は、負荷制御による切削精度の向上、切削時の異常(急激な負荷等)からバイトや切削物を保護するために重要です。これらのことから、加工前調整の負担軽減や一定荷重も検出できる力センサ3)が求められています。
 本新技術は、高感度歪ゲージ4)と歪拡大機構、剛体機構を組み合わせることで一定荷重測定が可能で、高剛性かつ高分解能を実現した力センサに関するものです。
 従来の切削加工用力センサは、圧電方式を用い、受けた力に比例し発生する電荷を測定していることから、時間とともに電荷が放出されドリフト(ノイズ)が大きくなります。そのため、一定荷重を測定できないという問題が有りました。本技術では、原理的にドリフトが生じない歪ゲージ方式を採用しました。しかし歪ゲージは、感度を高くすると剛性が低下するため、剛性と感度を両立させる構造として歪拡大機構、剛体機構との組合せにより高剛性、高分解能を実現しました。
 本新技術により製作した力センサは、高剛性、高分解能に加え、ドリフトが少なく一定荷重の測定が可能なことから、自由曲面加工時の加工開始点の検出、切削、研削力の測定やナノインプリンティング5)等の負荷制御のために一定荷重測定を必要とする装置の力センサとしての利用が期待されます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  一定荷重測定が可能で、高剛性かつ高分解能な力センサが求められています。

 デジタルカメラ、DVDのレンズ用金型を始め、ナノレベルの加工のニーズが高まるにつれ、精密加工機の精度の向上、自動化等が進んでいます。しかしながら、バイトの位置決めや加工開始点の検出等加工開始前の設置、調整等は、加工精度に影響するため、重要であるにもかかわらず職人技に頼る部分が多いのが実情です。また、一定荷重の測定は、負荷制御による切削精度の向上、切削時の異常(急激な負荷等)からバイトや切削物を保護するために重要です。これらのことから加工前調整の負担軽減や一定荷重も検出できる力センサが求められています。

(内容)  歪ゲージを用いた一定荷重測定が可能な高剛性・高分解能力センサに関するものです。

 本新技術は、高感度歪ゲージと歪拡大機構、剛体機構を組み合わせることで一定荷重測定が可能で、高剛性かつ高分解能を実現した力センサに関するものです(写真1)。
 従来の切削加工用力センサ6)は、圧電方式)を用い、受けた力に比例し発生する電荷を測定しており、剛性が高く、応答性、分解能が良いという特徴があります。しかしながら、時間とともに絶縁性の悪さから、放電現象が生じ、ドリフトが大きくなるため、一定荷重を測定できません。そのため歪ゲージ方式を採用し、性能の劣る剛性と感度を両立させる構造として歪拡大機構、剛体機構の組合せを考案しました。歪ゲージには、Ni-Cu(ニッケル-銅)に比べて3倍大きな感度が得られるCr-N(クロム窒化物)を用いました。ジルコニア基板上には、接着剤で感歪材料7)を貼り付けるのでなく、スパッタリングで成膜しました。これにより、接着層による感度のばらつきや経年劣化等が改善されました。 さらに、ホイートストンブリッジ回路8)パターンのブリッジバランスを調整する方法として、従来は、補正抵抗を外付けしていたため、温度係数の違いから温度ドリフトの原因となりましたが、本技術では、エッチングした感歪材料の電極パターンをレーザでトリミング9)することにより調整を行うように改善し、温度ドリフトを抑制し、感度のばらつきを無くしました。

(効果)  加工開始点の検出や切削、研削力の測定、負荷制御のために一定荷重測定を必要とする装置の力センサとしての利用が期待されます。

 本新技術は、
  1 剛性が高い
  2 感度が高い
  3 安定性が良い
という特徴を有しています。特に、安定性が良いので、加工中の切削・研削抵抗の測定や負荷一定制御を行う際に、ドリフトが少なく安定した状態で測定が可能となります(図1)。また、方式上、価格競争力があることから、加工機等への標準装備が可能となります。
 本技術により製作した力センサは、高剛性、高分解能に加え、ドリフトが少なく一定荷重の測定が可能なことから、自由曲面加工時の加工開始点の検出、切削、研削力の測定やナノインプリンティング等負荷制御のために一定荷重測定を必要とする装置の力センサとしての利用が期待されます。

用語解説
写真1.力センサ(動力計)
図1.加工開始点の検出、切削力の測定
表1.本開発 力センサの性能
参考 開発を終了した課題の評価

【お問い合わせ先】

株式会社ナノコントロール 開発部
   次長 古田淳[電話 03-6404-2820]

独立行政法人科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部 開発推進課
   菊地博道、新井規之[電話 03-5214-8995]