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科学技術振興機構報 第252号

平成18年2月6日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

効果的なHIV感染症治療薬の選択に役立つ臨床検査法の開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発の開発課題「HIV注1感染価・薬剤耐性測定法」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、国立感染症研究所エイズ研究センター第二室 室長 巽(たつみ)正志(まさし)氏、国立国際医療センターエイズ治療研究開発センター 臨床研究開発部長 岡慎一氏、同センター技官 蜂谷敦子氏らの研究成果を基に、平成14年2月から平成17年8月にかけて株式会社三菱化学ビーシーエル(取締役社長 佐川直敏、本社 東京都板橋区志村3-30-1、資本金 5億6,600万円)に委託して、企業化開発(開発費約1億5千万円)を進めていたものです。
 HIV感染症の治療法として、数種類の抗HIV薬剤を同時に服用する多剤併用療法が実施されていますが、薬剤が効かなくなる薬剤耐性ウイルスが出現して治療効果を低下させることが問題となっています。薬剤の効果は患者ごとに異なり、また時期により変化するので、治療に適した薬剤を選ぶ目安になる臨床検査法が望まれていました。
 このたび開発した検査法は、HIVが感染しやすく感染増殖の有無・程度が判別できる培養細胞を用いて、患者の血液検体からウイルスを分離し、分離ウイルスに各種の抗HIV薬剤を加えて培養して、どの薬剤がウイルス増殖抑制に効果的であるかを判定します。本検査法は、患者保有ウイルスの薬剤耐性を直接評価でき、検査期間も短いので、最適な薬剤選択による治療を行うための有効なツールになるものと考えられます。また、新規な抗HIV活性物質のスクリーニング注2や、抗HIV薬剤の感受性試験注3および効果判定等にも応用できるので、新薬開発の分野でも利用が期待されます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  薬剤耐性ウイルスの有無を確認でき、効果的なHIV感染症治療薬を選択するのに役立つ臨床検査法が望まれていました。

 全世界のHIV感染者あるいはAIDS患者は約4,000万人と報告されており、日本国内でも累積で1万人を超え、増加傾向にあります。HIV感染症に対する治療は、数種類の抗HIV薬剤を同時に服用する多剤併用療法が効果を上げており、病状の進行抑制と死亡率の減少に貢献しています。しかしながら、服薬中に薬剤耐性ウイルスが出現して治療効果を低下させることが問題となっており、また新規HIV感染者の10%が既に薬剤耐性を獲得しているウイルスによる感染であるという報告もあることから、どの薬剤に対する耐性ウイルスが出現しているのかを患者ごとに調べ、効果的な薬剤を選択することが重要です。
 適切な薬剤を選択するための検査法としては、ウイルスの遺伝子の塩基配列注4を調べ、その変異から耐性を推定するゲノタイプ(genotype)検査注5と、薬剤存在下でウイルスと細胞を培養し、ウイルスの増殖を直接的に測定するフェノタイプ(phenotype)検査注6があります。前者は短期間、低コストの検査法ですが、間接的評価であるため実際の臨床結果と乖離(かいり)する恐れがあり、また既知の変異にしか対応できません。一方、後者は直接的な評価方法ですが、現在行われている末梢血リンパ球を用いる手法では検査結果が出るのに2−3ヶ月かかるため治療への反映が遅れざるを得ません。そのため、信頼性が高く短期間で直接的な結果の得られる薬剤耐性検査法の開発が望まれていました。

(内容)  HIVが感染しやすく、感染増殖の有無・程度が簡単にわかる培養細胞を用いた、ウイルスの薬剤耐性検査法を開発しました。

 本技術は、研究者が樹立した特殊な培養細胞を用いた、HIVの薬剤耐性測定に関するものです。本検査で用いる培養細胞は、HIVが結合する受容体を細胞表面に発現させることでHIVが感染しやすくしています。このため、患者の血液検体からウイルスを容易に分離できます。また、分離したHIVが培養細胞内で増殖すると、目印となる指標酵素注7を分泌するよう細胞を改変しているため、その指標酵素量を測定することでウイルス増殖の程度がわかります。患者のHIVを感染させた培養細胞に抗HIV薬剤を加えて培養したとき、ウイルスがその薬剤に対して耐性がない場合(=効果のある薬剤の場合)は増殖できないので指標酵素は分泌されませんが、薬剤に対して耐性がある場合(=効果のない薬剤の場合)はウイルスは増殖して指標酵素が分泌され、増殖の程度が大きいと酵素量も多くなります。ウイルスに対する薬剤の効果は患者ごと・時期ごとに変化しますが、本検査で酵素量を測定することで、薬剤効果を判定できます(図参照)。
 本開発では検査条件や多検体処理方法を確立し、HIVの薬剤耐性を最短2週間で測定できるフェノタイプ検査法を実用化しました。

(効果)  HIV感染症治療に効果的な薬剤を選択するツールとなります。

 本検査法は、患者から分離したウイルスの薬剤耐性度合いを直接評価でき、また検査期間も短いので、患者ごとに最適な薬剤選択による治療を行うための有効なツールになるものと考えられます。また、本検査法は、新規な抗HIV活性物質のスクリーニングや、抗HIV薬剤に対する感受性試験および薬剤効果判定等にも応用できるので、新薬開発の分野でも利用が期待されます。

用語解説
図.本検査法の概略図
参考 開発を終了した課題の評価

【お問い合わせ先】

 株式会社三菱化学ビーシーエル
 総務人事部 広報担当  中野 二郎
 〒174-8555 東京都板橋区志村3-30-1
 TEL: (03)5994-2153 FAX: (03)5994-2922

 独立行政法人科学技術振興機構 産学連携推進事業本部
 開発部 開発推進課  菊池 博道、今村 千早
 〒102-8666 東京都千代田区四番町5−3
 TEL: (03)5214-8995 FAX: (03)5214-8999