別紙3

「HIV感染症統合データベース」事後評価結果


1.課題名
HIV感染症統合データベース
(URL https://aids.nih.go.jp/

2.開発(運用)責任者
国立感染症研究所
開発責任者 仲宗根 正(エイズ研究センター 主任研究官)
運用責任者 仲宗根 正(同上)

3.課題概要
 エイズワクチン開発に重要と思われる情報をデータベース(DB)化して公開し、HIV関連研究者に活用してもらうことを目的としてHIV感染症統合データベースを構築した。
 本DBでは、1988年より解析中の日本およびタイ国HIV感染者からのウイルス分離結果、遺伝子配列、蛋白構造情報などのウイルス遺伝子生物学的情報に加えて、臨床データを時系列的に管理・検索可能となる統合DBを構築しWEB上で提供する。DBは、DDBJのHIV遺伝子DBに加えて、ウイルス分離解析データ、C2V3(HIVの主要中和領域)遺伝子解析データ、V3部蛋白構造解析データ、対応臨床データからなる。主機能は、DDBJのHIV遺伝子データに対する遺伝子相同性検索、遺伝子系統樹解析、遺伝子型サブタイピング、独自のdivision作成機能、V3部蛋白3次元構造の閲覧機能、臨床データ検索機能である。臨床関連データの閲覧・利用にはユーザ登録が必要である。

<データ項目とデータ量>
A)DDBJのHIV遺伝子データ85,784件
B)ウイルス分離解析データ3,217件
C)C2V3遺伝子解析データ361件
D)V3部蛋白構造解析データ361件
E)対応臨床データ3,217件
注: CとDは感染研オリジナルデータで既存の遺伝子データバンク(DDBJ)や蛋白質構造データバンク(PDB)には未登録である。
(データ件数は平成15年9月現在)

<開発期間> 平成11年10月~平成14年9月

4.アクセス状況
公開時(平成14年10月)~平成15年9月 : 6,874件

5.外部発表
*開発中
 なし

*開発終了後
年 度 件 数 備 考
平成14年度 3件 日本エイズ学会誌他
平成15年度 1件 日本エイズ学会誌


6.事後評価結果
6-1.当初計画の達成度
 当初の目標である「日本および近隣アジア諸国HIV感染者からのウィルス分離結果、遺伝子配列さらには中和抗体感受性などのウイルス生物学的検査結果に加えて臨床医療データを時系列に管理・検索可能となるデータベースの構築」はアジア諸国感染者のデータの収録を除いて達成された。アジア諸国では感染者の多いタイを対象としていたが、研究担当責任者の承諾がまだ得られず、また倫理規定が要求する患者本人の同意書が不完全な可能性があり、データの収録は難しい状況にある。臨床医療データは国内データの収録のみのため3217件に留まっているが、データベース化にあたっては、信頼性の低いデータの削除等による収録データの質の向上が図られた。英語・日本語での参照が可能である。

6-2.データベースの評価
 遺伝子データベースと臨床医療データを連携・解析し、感染経路の追跡、HIV遺伝子の疫学的解析、今後の対策と治療法の開発、更にはV3部分を標的としたワクチン開発に有益な情報を提供出来る可能性があり、データベース自体の有益性は高いと言える。しかしながら、遺伝子情報と臨床情報の関連性を検索出来るような総合的な解析がなされていない、検索方法が初心者には難解である、基準配列の塩基数等が表示されていない、配列表示がわかりにくい等については今後の検討課題であると考える。

6-3.データベース化終了後の公開運用体制および運用状況
 公開後も遺伝子データの追加、利用者の操作性を考慮した画面修正が実施され、研究所において運用責任者と補助員により1年間格別な支障もなく運用されているので管理・運用体制についてはほぼ確立されたと評価できる。しかしながら、公開後における臨床関連データの追加に関する進展は十分であるとは言い難く、ユーザ登録方法の簡易化、外国データの掲載促進、英文での広報活動の活性化等により本データベースの登録者数の増加、海外からのアクセス件数の増加についての具体的方策について再検討する必要があると考える。

6-4.運用の今後の展開
 今後、HIV遺伝子データの追加に加えて、臨床データ・遺伝子解析データも年間100件程度追加する計画であり、着実なデータベースの成長が望まれる。
 本データベースの究極的な価値は有効性・安全性の高いワクチン開発に寄与することであり、長期的な評価が必要であると考える。しかしながら、ユーザ登録者数が少ない、海外データ(タイ、フィリピン)の登録が難しい、ワクチン開発に寄与することを目標にしている等のことより、当面は日本国内での情報収集を主に、研究者・医薬関係者、行政、HIVに関心を持つ世界中のNPOからの理解・協力を得てデータベースの充実を図り、本データベースが有益な情報源として活用できることを人々に認識してもらえるよう努力をするべきと考える。
 また、サーバの運用管理を現状の研究室管理から組織の中央サーバに付随して設置する等の方策により、専門家が監視しやすい体制、インターネット上の不正アクセスへの的確な対応、HIVと言う特殊な患者情報のプライバシー保護等について具体的にさらに強固に検討・対応することが望ましい。

7.総合評価
 本データベースはHIV感染者から得られたウイルス遺伝子解析情報と感染者の臨床データを連携し、ワクチン開発の支援を行うことを主目的にした。機能面では目標に達したが、海外データ(タイ)の収集が未完で、国内データのみの収録となった。しかしながら、本データベースの特殊性から判断して、評価は長期的視野で行う必要があるものの、研究者(登録利用者として)の組織確立、研究者への有益な情報提供、共同研究の促進等の研究者間の更なる協力体制を確立する等により、収集件数と利用の拡大を図り、当初目的であるワクチン開発の支援に有益なデータベースになりうることを示すことができよう。また、信頼性の欠けるデータの削除により掲載情報の質の向上を図った点はデータベース構築に不可欠な要因であり、地味ではあるが、関係者の努力の跡が推定される。
 なお、蛋白質構造データの3次元表示だけでなく、変異に対しての差の比較ができるというような分かりやすい解析結果の表示や遺伝子情報と臨床情報の関連性の検索が出来る統合的な解析について今後は検討する必要があろう。
 本データベースの背景にはプライバシーに係わる情報があるので、プライバシーの保護及び情報の漏出がないような人的要素も含めた総合的なシステム構築・管理が望まれる。
 本データベースは当初の目標をほぼ達成しており、ワクチンの開発支援に役立ち、今後の継続的公開・運用に大きな支障はないので、「データベースの有用性がほぼ確立された」と評価できる。

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This page updated on January 30, 2004

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