別紙1

「傾斜機能材料データベース」事後評価結果


1.課題名
傾斜機能材料データベース
(URL http://fgmdb.nal.go.jp/

2.開発(運用)責任者
宇宙航空研究開発機構(旧航空宇宙技術研究所)
開発責任者 木皿 且人(総合技術研究本部 高度ミッション研究センター 主任研究員)
運用責任者 木皿 且人(同上)

3.課題概要
 傾斜機能材料は、使用環境に応じて必要な機能を得るため材料組成を傾斜分布させて特性 を制御する機能材料であり、使用環境や機能発現のプロセスと材料データが対となって意味  のある情報となる。本データベースは、1986年以降に発表された傾斜機能材料に関する論文および資料から、研究概要、図表、数値データ、研究者情報などを抽出・整理しデータベース化したものである。また、許諾を得られた論文については全文PDFファイルを併せて搭載した。
 収録されたデータは、研究目標、傾斜化技法、対象分野、材料形態や材料種別などのカテゴリーによって多角的に整理・索引され、フリーワードによる検索の他、カテゴリー別の検索が可能であるという特徴がある。日本語と英語を切り替えて使用することが可能である。

<データ項目とデータ量>
論文データ1,320件
論文データの収録書籍データ64件
論文中の図表9,888件
研究者データ1,730件
PDFファイル754件
研究機関データ392件
(データ件数は平成15年9月現在)

<開発期間> 平成11年10月~平成14年9月

4.アクセス状況
公開時(平成14年10月)~平成15年9月 : 3,413件

5.外部発表
*開発中
年 度 件 数 備 考
平成13年度 3件 傾斜機能材料研究会国内シンポジウム他
平成14年度 1件 傾斜機能材料の実用化に関するワークショップ

*開発終了後
年 度 件 数 備 考
平成14年度 3件 傾斜機能材料国際シンポジウム(北京)他
平成15年度 1件 情報科学技術研究集会(予定)


6.事後評価結果
6-1.当初計画の達成度
 当初目標は科学技術振興調整費等による複数の傾斜機能材料プロジェクト(1986~1997年度)でのデータのデータベース化であり、2003年(平成15年)9月現在では概ね2000年度までに発表された論文も追加され、合計1320件の論文データが収録されており、この目標は達成された。

6-2.データベースの評価
 本データベースは、わが国が世界の主導権を握っていると目される傾斜機能材料に関する特性データ等を、各種の観点を組み合わせて検索可能な形態で公開するものである。特に振興調整費により推進された研究プロジェクトの成果を基礎データとして、これを整理、組織化し、データベースとして公開し、成果情報の普及をはかり、またその再利用、有効利用を促進するための要件を整備したものと考えられる。日英2カ国語で利用できる。しかしながら、本データベースは、材料専門家にとっては研究報告集のデジタル情報であり、材料の利用者にとっては分類メニュー付きのフルテキストデータベースであって、全文ダウンロード等の1回限りの利用が主で、いわゆるリピーターを招く内容は少ないようである。

6-3.データベース化終了後の公開運用体制および運用状況
 公開後もデータ修正及び新規データの追加が実施され、研究所において運用責任者と補助員により1年間格別な支障もなく運用されている。アクセス総数はまだ少なめであるが、アクセス元機関数では企業が研究・教育機関の2倍以上あり、産業界の利用が多いことは評価できる。アクセス数が少ない理由のひとつは、研究成果報告を超える新たな付加価値が少ないことにあると考えられる。収録内容については関連する基礎的な研究成果の追加、材料の利用者、初学者向きのインターフェイスの開発、若手あるいは他分野の潜在的利用者への広報、傾斜機能材料の本質を捉えたデータモデルの設計、新規情報の追加や利用者ニーズの変化への対応等を検討し、改善方法を考える必要があろう。

6-4.運用の今後の展開
 データベースのサイズも利用者集団もあまり大きくないので、今後はユーザーの要請を把握しながら運用、改善を図っていけばよい。公開運用体制に関しては、研究機関の大幅な組織改変が行われつつあるが、この機会に宇宙航空研究開発機構としての位置付けをより明確化し、十分な組織的対応が図られるよう期待したい。物性の基礎や応用事例という点では関連するデータベースも少なくないため、そうしたデータベースとの連携も望まれよう。個人に依存しない継続的な運用体制の構築が望まれる。
 傾斜機能の本格的実用化の概念は日本から出たものとされている。今後とも傾斜機能の特徴を生かした研究開発が進むと思われるが、それには他の複合材料との対比が常に必要であり、このデータベースをより有用にするために、他の材料のデータベースとのリンクが望まれる。目標とすべきは傾斜機能材料自体の魅力を体系化し、材料の研究者と利用者とを繋ぎ、今回の成果に付加価値を付けて体系的な情報を広く世界に発信することである。さらに、本分野における国際的主導権の保持をめざすとするなら、データベースの内容の体系化、データの発生からデータベース化に至る期間の短縮、ユーザーニーズの把握と研究開発への反映が連接・一体化した円滑迅速なスピード感のあるデータベースの構築・運用体制の整備が望まれる。国内外では「ナノ」という新たなキーワードで関係の深い研究開発が進行しており、本研究分野の成果を活かすためにも、基礎に立ち戻って海外コミュニティーとの連携を進展させるべきものと考える。
 こうしたデータベースの構築は、本来、研究プロジェクトの一環として組み込まれてしかるべきものである。その意味で、論文数にして年間100件程度の新規データを遺漏、遅滞なく、収録し、適宜、体系化を進めることによって、本データベースの価値は確立されることになるので、この側面での十分な体制の維持が望まれる。

7.総合評価
 目標は達成されたが、日本が主体的に提案・実施したプロジェクトでもあり、今後の展開に期するべき部分に以下の課題がある。ひとつは物質科学・材料工学全体の中での傾斜機能材料の研究開発の意味を明らかにするための体系化への努力であろう。具体的には当該分野のメタデータ、メタ知識、オントロジーの検討が必要で、そうした作業を通して他の物質・材料分野との連携方法が明らかになり、これまでの成果の有効利用の道も拓けよう。また、宇宙航空分野は社会の注目度の高い分野であり、次世代を担う青少年の科学技術、特に基盤技術としての物質・材料への興味を高めるためにも、ユーザーインターフェイスの抜本的な改善が望まれる。改善のポイントはデータベース化対象としての傾斜機能材料の情報価値の顕在化である。
 以上の点を総合すると、より高い目標を目指して機能的に改良すべき面もあるが、当初目標としたデータベースが構築され、民間の利用が相対的に多く、今後の継続的公開・運用に大きな支障はないので、データベースとしての有用性が確立されたと評価できる。

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This page updated on January 30, 2004

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