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科学技術振興機構報 第239号

平成18年1月19日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

生物にならった手法で超薄膜多層材料を開発

(無機材料に結合する人工進化ペプチドを用いたバイオテクノロジー)

 JST(理事長:沖村憲樹)は、生物が無機物を含んだ固い構造体をつくるのを模範し、特殊な人工ペプチド(アミノ酸が6個連結した分子)をもちいた交互積層法(BioLBL法)という手法を開発し、多種の半導体ナノ粒子を多層化することに成功しました。
 近年、電子デバイスなどの微細技術の開発では、生物のかたちづくりの方法を模倣して、ナノ構造体をつくる新しい技術の確立が目指されています。特に、アミノ酸を人工的に配列して、特定の無機材料に結合するペプチドをつくりだし、これをうまくナノ構造形成に利用することが目指されています。しかしながら、今までのところ大きなものを削って徐々に微細化していくトップダウン方式(層の厚みが35ナノメートル)を超えたナノ構造体の形成には至っておりませんでした。
 本研究では、人工的に配列したチタン結合ペプチドが、チタンやシリコンの表面に結合する機能と、酸化シリコンの構造体をつくりだす機能を持つことに着眼し、これらふたつの機能を交互に利用した超薄膜のBioLBL法(層の厚みが10ナノメートル)の開発に成功しました。更に、この手法を用いて、従来法では実現が難しかった多種の半導体ナノ粒子による超薄膜の多層化に成功しました。
 今回開発したBioLBL法は、半導体デバイスの高集積化や高機能化のほかに、診断用バイオセンサーの微細化や高度化など様々な分野での応用が期待できます。
 本成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CRESTタイプ)「医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創製」(研究総括:独立行政法人理化学研究所 和光研究所/中央研究所 所長:茅幸二)の研究テーマ「プログラマブル人工蛋白質からの組織体構築」(研究代表者:財団法人癌研究会 癌研究所 蛋白創製研究部 部長:芝清隆、および、JST研究員:佐野 健一)から得られた成果で、2006年1月18日(米国東部時間、日本時間1月19日)付の米国化学会誌「Journal of American Chemical Society」オンライン版で発表されます。

【成果の概要】

<研究の背景と経緯>

 生物は、遺伝情報をもとにナノスケールのさまざまな生体構造物を、分子などの超微細なサイズから積層していくボトムアップ方式によって精微に作り上げています。このような生物がつくる生体構造物には、タンパク質、核酸、脂質や糖などの有機質からなる柔らかい構造物だけではなく、サンゴや珪藻の骨格、アコヤガイの真珠層、人類やその他動物の歯や骨のような無機質を含んだ工業製品と同じように固い構造物も含まれます。すなわち、生物は、無機物のナノ構造体をボトムアップ方式によって生体構造物として形成する能力をもっています。
 このことから、生物を模倣したボトムアップ方式によるナノ構造体の形成方法が、従来のトップダウン方式による微細加工技術の限界を打ち破る次世代の無機材料の微細加工技術として期待されています。
 特に近年では、半導体材料などの無機材料に結合する人工的なアミノ酸配列を持つペプチド*1を、人工進化系*2と呼ばれる手法を用いて、実験室の中で自由に創製することができるようになりました。これら無機物結合人工ペプチドは、生物系プロセスと無機材料を結びつける分子として注目されるようになっており、無機物結合人工ペプチドの研究は、世界的にも競争の激しい分野となっています。しかしながら、現在までのところ、無機物結合人工ペプチドを利用したさまざまな微細加工技術は、従来のトップダウン法による微細化を凌駕するには至っていませんでした。
 癌研究所の芝、佐野らは、これまでの研究によって、チタンに結合する12個のアミノ酸が連結した人工ペプチド(TBP-1*3)を、人工進化系を利用して創製することに成功し、TBP-1がチタン以外にもシリコン(酸化シリコン)や銀に結合する機能と、酸化シリコンの構造体形成能力や銀の結晶化を促進する機能(固い無機質からなる構造体形成能力)をもつ多機能ペプチドであることを明らかにしました。また、籠(かご)状構造をもった天然タンパク質であるフェリチン*4の外殻に、TBP-1の特に重要な6個のアミノ酸からなる部分(minTBP-1)を結合させることにより、フェリチンがチタンや酸化シリコンに結合する機能を獲得することを明らかにしました。

<研究の内容>

1癌研究所の芝、佐野らは、これまでの研究で作り出したminTBP-1を、籠状構造をもった天然タンパク質であるフェリチンの表面に結合することにより、このフェリチンが、酸化シリコンの構造体形成能力を獲得したことを確認しました。すでに、minTBP-1をその表面に結合したフェリチンが、チタンや酸化シリコンに結合することを示していますので、今回の発見とあわせるとふたつの機能を獲得したフェリチンを得ることに成功したことになります。このことは、minTBP-1を用いることによって、12個のアミノ酸の連結したTBP-1のもつチタン、シリコン、銀に結合する機能と、酸化シリコンの構造体形成能や銀の結晶化を促進する機能を、いろいろな分子に賦与できることを示しています。
2今回、これまでの研究成果を発展させ、TBP-1のふたつの機能を交互に利用したタンパク質超薄膜形成法である、生体模倣による交互積層法(BioLBL法)(図1)を開発することに成功しました。ここでは、まずTBP-1の結合する能力を利用して、チタンなどの板上にTBP-1を結合した特定の分子の薄膜を形成します。次に、TBP-1の酸化シリコンの構造体を形成する能力を利用して、この薄膜の上に酸化シリコンの層を形成します。この酸化シリコン層は、ちょうど、レンガの積み重ねを作る時のモルタルのようなものです。
次に、TBP-1の酸化シリコンに結合する能力を利用して、この酸化シリコン層の上にさらに第2のTBP-1を結合した特定の分子の薄膜を形成します。このステップを繰り返すことで、TBP-1を結合した特定の分子の薄膜を多層化することができます。
3フェリチンは、天然に存在する籠状構造をもったナノメートルサイズの分子で、内部空間にいろいろな半導体や金属のナノ粒子*5を内包できることが知られています。今回、minTBP-1をその表面に結合したフェリチンも、天然フェリチンと同じように、半導体ナノ粒子を内包できることが分かりました。そこで、酸化鉄、セレン化カドミウムや酸化コバルトナノ粒子を内包するminTBP-1をその表面に結合したフェリチンを用い、BioLBL法によって多種類のナノ粒子の交互積層膜を作製することに成功しました。作製した積層膜の断面の電子顕微鏡写真から、ナノ粒子超薄膜が約10ナノメートルの間隔で計画したプログラム順に積層していることを確認しました(図2)。

<今後の展開>

1BioLBL法は、次世代の半導体ナノ粒子多層超薄膜製法として、メモリーチップや電池材料などのナノスケールデバイスの製法に利用されていくことが期待できます。
2今回開発したBioLBL法は、「TBP-1のもつふたつの機能」を交互に利用する方法であり、多層化する粒子(分子)の種類の制限を受けないのが大きな特徴です。また積層に必要な条件は生体環境とほぼ同じなので、生物由来の粒子(分子)の積層に適した方法です。フェリチン以外にも、抗体分子、酵素などのタンパク質に応用にすることで、新しいタイプのバイオセンサーやバイオリアクターの開発が期待できます。
3TBP-1を結合する分子は、生物材料だけに限定されません。すでに、高分子ポリマーとTBP-1のハイブリッド分子でBioLBL法を進めることに成功しています。安価な高分子ポリマーを利用することで、工業化への移行が容易になります。
4また、BioLBL法が適用できる相手はナノサイズの分子だけに限りません。TBP-1を多数の分子から構成される細胞表層に結合することで、多種の細胞を自在に3次元培養できる可能性があり、再生医療分野への応用も期待できます。

<用語解説>
図1 交互積層法(BioLBL法)の概略
図2 BioLBL法によって形成された半導体ナノ粒子の多層膜の断面像
図3 minTBP-1の原子モデル

掲載論文名

"Utilization of the Pleiotropy of a Peptidic Aptamer to Fabricate Heterogeneous Nanodot-Containing Multilayer Nanostructures"
(ペプチドアプタマーの多面性を利用したヘテロナノ粒子多層ナノ構造の作製)
doi :10.1021/ja057262r

研究領域

 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
 「医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創製」研究領域 (研究総括:茅 幸二)
 研究課題名:プログラマブル人工蛋白質からの組織体構築
 研究代表者:芝 清隆 (癌研究会癌研究所 蛋白創製研究部 部長)
 研究実施場所:癌研究会癌研究所 蛋白創製研究部
 研究実施期間:平成14年10月 平成19年10月

問い合わせ先

芝 清隆 (シバ キヨタカ)
財団法人 癌研究会
癌研究所 蛋白創製研究部
〒135-8550 東京都江東区有明3-10-6
TEL: 03-3570-0489/ FAX: 03-3570-0461
E-mail:

金子 博之 (カネコ ヒロユキ)
独立行政法人 科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 特別プロジェクト推進室
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8 川口センタービル
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