【用語解説】

1.バクテリアべん毛モーター(図1)
 多くのバクテリアはらせん状のべん毛フィラメントを回転させることによって移動する。これらの微生物は、1 秒間にべん毛を数百回も回転させ移動している。このべん毛を回転させる機構をべん毛モーターといい現在、生物学の分野では、べん毛モーターの回転速度やトルクの計測、及び機構の解明のための研究が行われている。
2.ナノマシン
 物質を原子・分子のレベルで操作する「分子レベルの大きさの」機械のこと。それぞれのナノマシンの働きは非常に単純であり、それを組み合わせることで様々な働きをさせることができる。べん毛モーターも自然界におけるナノマシンの一つと言える。
3.キメラ菌体
 キメラとは遺伝的に異なる細胞群を集合させてできた生物のことを指す。本研究においては、大腸菌とビブリオ菌のべん毛モーターの固定子の遺伝子を融合させたものを大腸菌内にプラスミド(DNA分子)として導入した。その結果、大腸菌上において、ナトリウムで駆動するべん毛モーターを発現させることができた(図2)
4.FliG
 べん毛モーターを構成するタンパク質の一つ。1998年時点でわかっているべん毛モーターの遺伝子は、約50個ある。FliGは回転子の一部であり、固定子との相互作用,回転のスイッチ機構に関与すると思われている(図5)
5.アクチュエータ
  電気的エネルギー、化学的エネルギーなどのエネルギーを、力学的運動エネルギーに変換して機械的仕事を行う機械要素のこと。アクチュエータは、小型化するほどエネルギーの変換効率が低下するため、ナノマシン用の新規アクチュエータとして、生物の運動メカニズムを解析し、これらを利用することも研究されている。
6.回転運動を行う器官
 体内においては、ほとんどの運動がリニアモーターによって行われている。代表的なものは筋収縮で、ミオシンとアクチンというタンパク質が相互に滑り込むことによって収縮運動を行う。それ以外にも、細胞運動、細胞分裂、細胞内小胞輸送などでもミオシン、ダイニン、キネシンと言ったタンパク質がATPを加水分解し、レールタンパクであるアクチン、微小管上を運動する。それに対して数は少ないが生体内にも回転運動を行うタンパク質が存在する。代表的なものがバクテリアべん毛モーター、F1FoATP合成酵素である。両者とも細胞膜上に存在し、細胞内外のイオンの流れを利用して回転運動を行う。
7.ミリモル(mmol/リットル
 溶液の濃度を表示する方法のひとつ。溶質の物質量を溶液の体積で割って求められる。溶液 1リットルあたりの溶質量として表される場合が一般的で、この場合の単位はmol/リットル(モル・パー・リットル)で、塩(NaCl)58gを1リットルの水に溶かしたものが1 mol/リットルである。ミリモルはその千分の一。人体内の細胞外液(血液など)のナトリウム濃度は通常140ミリモルである。