戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATOタイプ)
(平成17年度発足)

研究領域「マクロ量子制御」研究総括

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上田 正仁 氏
(東京工業大学 大学院理工学研究科 教授)

■研究領域「マクロ量子制御」の概要
 量子力学の性質を巧みに用いることにより、レーザー光を用いて原子集団を絶対零度近くに冷却する技術が開発された。レーザー冷却された極低温の原子集団では、量子系の有する高い制御性がマクロなスケールに拡大されるため、系の性質を決定するほとんどすべてのパラメーターを連続的に変化させることが可能になる。すなわち、マクロな量子効果により、温度、原子数密度、閉じ込めポテンシャルの形状と次元性、なかんずく原子間相互作用の強さと符号、などのパラメーターを自在に制御できる大自由度系(マクロ量子物質)が実現するのである。
 マクロ量子物質の未踏領域を系統的に探索するために、本研究領域では3つのグループを編成する。(1)相互作用制御グループでは、1mK以下に冷却された極性分子を生成し、極性分子間の相互作用の強さと符号を制御することにより非等方的でかつ長距離相互作用するマクロな人工量子物質を作り、そこで発現する新しい現象を探索する。(2)不確定性制御グループは、測定の反作用を制御することにより測定後の原子の量子状態を所望の状態へと変化させたり、外界との相互作用により壊れてしまった量子状態を修復する研究を行う。(3)強相関量子制御グループでは、光の定在波で作られた格子中に閉じ込められた原子系を用い、その相互作用の強さ、キャリアー密度、不純物の影響、および、次元性の効果等をそれぞれ独立に変化させることで、強相関量子系の物性研究を行う。
 本研究領域においては、物質パラメーターの系統的制御という観点からは新しい強相関系の研究手法の開拓や新しい化学分野の創出につながる可能性をもち、他方、量子状態および不確定性関係の極限操作という観点からは量子コンピュータへの発展や超精密測定への応用が期待される。これにより、戦略目標「光の究極的および局所的制御とその応用」に資するものと期待される。
■研究総括 上田正仁氏の略歴等

1.氏名(現職) 上田 正仁 (うえだ まさひと)

 (東京工業大学大学院理工学研究科 教授)42歳

2.略歴

昭和61年 3月 東京大学理学部物理学科卒業
昭和63年 3月 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了
昭和63年 4月 日本電信電話株式会社基礎研究所 研究員
平成 3年11月 博士(理学)(東京大学)
平成 6年10月 広島大学工学部第二類(電気系)助教授
平成12年 4月 東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻教授
   この間
平成 4年10月〜平成6年9月 東京大学物性研究所嘱託研究員
平成 8年 7月〜平成9年6月 イリノイ大学アーバナ・シャンペン校客員研究員
平成10年 4月〜平成12年3月 広島大学大学院先端物質科学研究科助教授(兼担)
平成10年 〜現在 Asia Pacific Center for Theoretical Physics (Seoul), Fellow
平成12年 4月〜現在日本電信電話株式会社物性基礎研究所リサーチプロフェッサー
平成13年 4月〜現在日本放送協会放送技術研究所客員研究員
平成15年 4月〜現在東京大学大学院工学系研究科特定研究客員大講座教授(併任)

3.研究分野

 物性物理学分野、量子光学分野、量子情報分野

4.学会活動等

 平成15年〜現在 Divisional Associate Editor of Physical Review Letters
 平成17年 BEC2005: Ultracold Gases and their Applications (San Feliu) 国際組織委員
 平成17年 Recent Progress on Many-Body Theories (Buenos Aires) 国際組織委員

5.業績等

光子数の連続測定の研究 (Physical Review A, vol. 41, 3891 (1990)、井元信之氏、小川哲也氏らとの共同研究、日本物理学会誌解説記事48巻 781 (1993))
微小トンネル接合の研究 (Physical Review Letters, vol. 72, p. 1726 (1994)、安藤恒也氏らとの共同研究、日本物理学会誌解説記事 49巻 751 (1994))
スピン・スクイジングの提案(Physical Review A, vol.47, p.5138 (1993)、北川勝浩氏との共同研究、Rochester, Caltech など欧米の多数の研究機関で実現)
引力BECの崩壊の理論 (Physical Review Letters, vol. 80, p.1576 (1998)等、Anthony J. Leggett 氏、斉藤弘樹氏らとの共同研究、日本物理学会誌交流記事  53巻 663 (1998); 日本物理学会誌最近の研究 55巻, 607 (2003)、ボースノバ現象(2001年Nobel 物理学)を解明に貢献)
スピン2BECの理論、サイクリック相の発見(Physical Review A, vol. 65, 063602 (2002) 等、小芦雅斗氏との共同研究、Hamburg 大、学習院大で実現)
2層BEC系における四角渦格子の予言 (Physical Review Letters, vol. 91,150406 (2003)、笠松健一氏、坪田誠氏との共同研究、JILA で実現)

6.受賞等

 平成14年 松尾学術賞「引力相互作用原子気体の理論的研究」