資料5

戦略目標


■ 戦略目標:情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築
  (平成15年度設定)
1. 名称
情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築

2. 具体的な達成目標
 量子力学的もつれ効果を活用することにより超高速計算や大容量通信を行うことを可能とする量子情報処理の実現を目指し、光子、電子スピン、核スピン等を用いた量子情報処理素子の研究開発を行うとともに、アルゴリズムや回路、システムも含めた包括的な研究開発を同時並行的に行い、競争的環境下において実施することにより、最も有効なアプローチを抽出し、量子情報処理技術の実現を支える技術基盤を構築すること。
・ 量子情報処理技術の実現に向けた量子デバイスの研究開発(高性能化・多量子ビット化、長寿命化・安定化)
・ 量子情報処理技術の実現に向けたアルゴリズム、システム等の研究開発

3. 目標設定の背景及び社会経済上の要請
・ 「量子重ね合わせ」現象を利用して多数の計算を同時に行い、全体として超高速の計算を実現する量子情報処理技術の確立は長期的課題ではあるが、その実現のあかつきには、情報通信分野における大きな革新をもたらすものである。具体的には、現在のスーパーコンピュータで何年~何十年もかかる医薬品や高機能ナノ材料などの構造・性能のシミュレーション、通信のセキュリティの究極的な確保、複雑な暗号を解読するような膨大な計算を瞬時に完了することができると言われている。
・ 本技術の研究開発については、長期的課題であるものの、現在欧米豪の三極で既に大規模プロジェクトが立ち上がり、競争が激化している。我が国においてもこれらの国に遅れをとることなく組織的に取り組まなければ、海外に基本特許等を押さえられるなど、本分野における国際競争力の弱体化といった弊害が想定される。
・ 量子情報処理技術の実現に向けた取組みについては、現段階では非常に基礎的な段階であり、不確定な要素も多いが、量子コンピュータの開発に必要な要素技術の開発により、新たなIT関連市場の創出も見込まれる。
・ 以上のことから、我が国においても、本技術の開発について早期に国家的に取り組む必要がある。

4. 目標設定の科学的裏付け
・ 量子情報処理技術の実現に向けた取組みとしては、構成単位となる量子ビットを実現するデバイスの開発が行われており、現段階では、単量子ビットを実現する素子から多量子ビットを実現する素子の開発にまで至っており、この素子を用いた量子もつれ合いの解明が行われつつある。
・ 量子デバイスを用いた量子情報処理技術の実現のためには、デバイスの多量子ビット化及び長寿命化とともに、演算を行うための新しいアルゴリズムの開発が必要であり、これらを組み合わせ、基本的な論理演算を行う素子を実現することが当面の目標とされている。
・ 上記のように、量子デバイスの開発については、基礎的な段階とはいえども方向性が見えてきた段階であり、今後、集中的・戦略的に取り組むことにより、大きなブレイクスルーが期待される。
・ 量子情報処理実現のための基盤技術の開発は、本分野において国際的なイニシアティブを取ることにつながることから、国際的にも競争が激化しており、海外においては国家的な取組みがなされようとしている段階である。
・ 我が国においては、各研究機関において独自に取組みが行われている状況であり、こうした状況を踏まえると、我が国としても、国家として戦略的に取り組む必要がある。
・ また、本分野では長期間にわたる研究開発を必要とすること、また、本分野の研究開発が現在若手の研究者を中心として実施されていることから、次代を担うべき若手研究者を活用して研究開発を実施していくことが重要な鍵となる。
・ 以上のことから、複数のアプローチを同時並行的に競争的環境下で進めることにより、最も有用なアプローチを抽出し、世界に先駆けて量子情報処理の基盤技術を確立することが肝要である。さらに、若手研究者の活用にも重点を置く必要がある。

5. 重点研究期間
 平成15年度から平成17年度までの3年間にわたり、新規研究課題の募集を実施し、研究期間は1研究課題につき概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を挙げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)