資料5

戦略目標


■ 戦略目標:「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」
  (平成17年度設定)
1. 名称
代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出

2. 具体的な達成目標
 遺伝子発現情報も含めた細胞内の代謝変化を統合的あるいは網羅的に解析し、細胞の恒常性維持メカニズムを明らかにすることにより、細胞機能の向上や恒常性変調を改善する細胞制御のための基盤技術を創出する。
 具体的には、例えば、以下のような基盤技術の確立を目指す。
1.特定の細胞状態を規定する代謝産物群を同定し、定量的、経時的測定に基づき、異なる細胞状態を選別する技術
(ア) 化合物、RNAi等を用いた選択的代謝経路変調時に見られる、代謝産物群の動態解析
(イ) 病態、発生過程等における代謝産物群の解析による細胞状態の評価・分類
2.代謝産物の変化情報に基づく細胞機能モデリングと機能制御技術
(ア) 既存代謝産物データベース及び個別測定データに基づく、細胞機能モデリングと機能変化予測技術
(イ) 特定の代謝経路を特異的に制御する化合物の予測に基づく設計技術
(ウ) 予測に基づく機能向上及び新規機能付与細胞作製技術

3. 目標設定の背景及び社会経済上の要請
 多くの生物種でゲノム配列情報を獲得しつつある現在、その膨大な遺伝情報を有効に活用し、社会に役立てることが期待され、また可能となってきている。そのためには、遺伝情報から作り出される蛋白質等を介して産生される代謝産物(脂質、糖、アミノ酸、核酸関連物質等)の動態を明らかにすることが不可欠である。
 代謝産物の情報を基にした細胞制御技術が有効に利用されると考えられる応用的分野としては、医療・創薬、農畜産物生産等があり、このような出口をにらんだ広範囲に応用可能な共通基盤技術の確立が望まれている。例えば、医療に関連するものとしては、疾患特異的な代謝マーカーは診断に有効利用できるし、代謝システムの解析から、病態を引き起こしている要因(病気の原因、二次的に症状を悪化させている要因等)を同定することにより、治療法の開発を促すことが期待される。また、代謝機能を制御することが可能となれば、動植物の生理機能を向上させることで、家畜や農作物の効率的生産、新機能付与へと結びつく技術への展開が期待される。
 このような切り口の研究開発は、生物が関わる分野にとって普遍的で有効に機能する基盤を提供するものである。従って、広範なライフサイエンス分野の底上げに大きく寄与するものであり、ライフサイエンスが関わる各産業分野(医療、農林畜産等)の競争力を高め、公共分野(環境保全、公衆衛生等)の効果を高めるなど、社会経済上大きな波及効果が期待されるものである。特に代謝研究は、我が国の優位が維持されている領域が多く、これらの研究基盤を有効に活用することは、従来のゲノム研究の成果を活用する研究開発が激化している先進国間の競争の中で、我が国の優位性を維持する上できわめて重要である。

4. 目標設定の科学的裏付け
 ヒトゲノムの詳細配列が決定され、現在欧米ではポストゲノムをターゲットとした研究開発が急速に進展している。ポストゲノムの網羅的な解析においてトランスクリプトームやプロテオームに関しては、日米欧で熾烈な競争が行われている。その次に来るメタボロームは欧米においてもまだ端緒についた状況であり、日本はこれまでの技術的優位性を保っている。特に解析の主流となる低分子化合物の質量分析技術がそれを支えている。 代謝変化の情報を基に生命現象の仕組みを解明するためには、代謝産物の定量的計測技術の開発は必要であるが、加えて単なる代謝産物情報の記載だけではなく、その情報の背後にある代謝制御因子(酵素、細胞内小器官等)の同定・解析をふまえた、代謝システム全体についてのモデル化を有効に行う技術開発が必要となる。システム全般を取り扱う研究については、現在欧米で精力的な基盤形成が進められており、この部分の研究開発の強化に早急に取り組むべきである。
 このような領域横断的な研究開発は、情報の共有化が重要であり、特に情報を武器に進める本戦略目標にとっては、得られた情報が活用できるデータベース構築が一つの重要要素となる。そのようなデータベース化は我が国においても精力的に進められており、連携をとりつつ推進していくことが重要である。