資料5

戦略目標


■ 戦略目標:「次世代高精度・高分解能シミュレーション技術の開発」
  (平成17年度設定)
1. 名称
次世代高精度・高分解能シミュレーション技術の開発

2. 具体的な達成目標
 マルチスケール・マルチフィジックス(超大規模・複雑)なシミュレーションを実現する効率的な計算手順を確立し、最適化設計問題・連成解析などの先端シミュレーション技術を我が国の最先端のコンピューティング環境を駆使して開発することを目的とする。

 想定される研究開発対象としては、以下のようなものが考えられる。
○ 地球規模の循環・環境変動の予測や地球環境と社会・生産活動の相互影響の予測・評価のための先進的技術の創出:
・ 異常気象の原因と考えられる数年から数十年スケールの気候変動を予測する先進的な技術を創出。また、数時間から数日程度の気象現象の飛躍的な予測精度向上を実現する画期的なシミュレーション技術を創出。
・ 気候モデルや生態系モデル等と、社会・生産活動モデルを統合するなど、地球環境変動と社会・生産活動とが相互に及ぼす影響を予測・評価するシナリオ・モデル等の先進的技術を創出。
○ 次世代材料のディジタルエンジニアリング技術等を実現するシミュレーション技術の確立:
・ カーボンナノチューブやテラヘルツ発振超伝導素子などの開発に必要な先進的な材料設計技術やそれらの開発・設計~試作、テスト、製品化に至るすべてをシミュレーションにて行うディジタルエンジニアリング技術。
○ 生命現象シミュレーションの医療への応用:
・ タンパク質の全電子計算によって、薬候補物質との結合活性を精度良く予測し、効率的な創薬のプロセスを創出。さらには、個人毎に最適な薬剤や治療法を見出す、テーラーメイド医療の実現を目指した技術の創出。
○ 自然災害予測・防災シミュレーション技術の確立:
・ 地震による被害の予測、ハザードマップの作成などの自然災害・防災シミュレーションを創出。
○ その他重点シミュレーション技術分野

3. 目標設定の背景及び社会経済上の要請
 計算機によるシミュレーションに代表される計算科学技術は、伝統的な科学技術研究の方法であった理論と実験に加え、新たに「第3の方法」として、現代科学技術の発達に大きな役割を果たしており、我が国が科学技術分野で真に諸外国を先導するためには、世界最先端の研究開発を創造し続けるための先進的シミュレーション技術を確立することが重要である。
 高速・大規模である先進的シミュレーションを実施することにより、ナノ・材料やバイオ・創薬分野を始めとする広範な科学研究への活用や自動車・ジェットエンジン等の高性能化やコストダウンなどを通じた国際競争力の強化に資するとともに、気象・災害予測、災害のライフラインへの影響予測、都市環境の改善といった安全・安心な社会の構築に貢献することが社会的に大きく期待されている。
 たとえば、地球温暖化の問題については、その予測および影響評価に含まれる不確実性と、各国の温室効果ガス排出や社会活動・経済活動による自然破壊といった要因に対する各地での気象変動や生態系崩壊、自然災害などの結果の一対一対応の困難さなどのため、世界的なコンセンサスを得ることができていない状況であり、この問題に対処するには数十年から百年規模にわたる地球各地の大域的な気候変動に関する信頼性の高い予測シミュレーションが必要である。

4. 目標設定の科学的裏付け
 2005年現在、最先端のスーパーコンピュータの性能はテラフロップス超級のものとなった。さらにハードウェア技術のトレンドから、2010年にはペタフロップス超級の性能になると予測されている。このようなスーパーコンピュータのハードウェアの性能向上により、今後は超大規模・複雑な系全体、いわばマルチスケール・マルチフィジックスなシミュレーションを指向する方向性が見えている。そこでは、現在最も高性能なスーパーコンピュータを駆使して、将来のペタフロップス超級スーパーコンピュータを視野にいれた先進的なシミュレーションに挑戦することが必要である。
 また、地球環境問題については、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の下で様々な地球環境プロジェクトが実施され、各種の地球温暖化モデルによる予測結果が出ているが、大きな仮定と簡略化を含んだモデルがほとんどであり、結果にもかなりばらつきがある。また、そうした地球環境プロジェクトの一つである地球圏―生物圏国際共同研究計画(IGBP)では大気・海洋と生態系の炭素循環・水循環等の相互作用をモデル化する試みが進められつつある。一方、地球シミュレータを利用した上記のような長期的な温暖化予測に加え、詳細な大気・海洋変動のモデルを開発し、全球シミュレーションを行って数時間から数日の短期的な気象予測についての研究開発が開始されている。また、二酸化炭素の排出や水の蒸発といった気候予測にかかわる観測拠点が各地に設置されつつあり、さらに全球的な温室効果ガスの排出、挙動を観測するため2007年には米国及び日本でそれぞれ観測衛星の打ち上げが予定されているなど、モデル開発のためのより質の良いデータが期待できる。