○個人型研究(さきがけ)
氏名 | 機関名 | 所属部署名 | 役職名 | 研究課題名 |
阿部 真之 | 大阪大学 | 大学院工学研究科 | 助教授 | 異種原子組み替えによる固体表面量子ビットの実現 |
宇佐見 康二 | 独立行政法人 科学技術振興機構 |
さきがけ 「光と制御」領域 |
博士研究員 | 測定過程を使った非古典的な原子集団スピン励起の生成と制御 |
小川 朋宏 | 東京大学 | 大学院 情報理工学系研究科 |
助手 | 量子通信路の可逆性と情報理論的・幾何学的保存量の評価 |
松下 道雄 | 東京工業大学 | 大学院理工学研究科 | 助教授 | 単一分子分光による固体中の単一スピンの観測 |
遊佐 剛 | 日本電信電話 株式会社 |
先端技術総合研究所 物性科学基礎研究所 |
リサーチアソシエイト | 新しい核磁気共鳴を用いた核スピンの量子状態制御 |
総評:研究総括 細谷 曉夫(東京工業大学大学院理工学研究科 教授)
本研究領域は、量子力学的現象を利用した情報処理を実現するために、量子力学と情報処理の間に横たわる諸問題を解決することを目標にしています。
重ね合わせを利用して多数の計算を同時に行い、全体として超高速の計算を実現する量子計算や量子もつれを利用した量子暗号などの量子情報技術は、情報通信分野に大きな革新をもたらすことが期待されています。しかし、量子情報技術の実現はまだ基礎的な段階にあり、その実現に向けて、デバイスの多量子ビット化、及び長寿命化とともに、演算を行うための新しいアルゴリズムの開発等が必要であり、これらを組み合わせて基本的な論理演算を行うための素子を実現することが課題となっています。
量子情報処理の本質部分は量子もつれにあるため、その本質的な理解と情報処理能力に結びつけた応用は中心的テーマではありますが、安全かつ高速の情報処理を実現させるための基盤を拡充するための抜本的、革新的な研究や、将来的に量子もつれにつながる研究等も広く対象としています。
本研究領域の提案に対し、物性物理や情報科学・情報理論を始めとして、海外研究機関からの応募もあり、工学も含めた幅広い研究分野から計22件の応募がありました。これらの研究提案を11人の領域アドバイザーと共に書類選考を行い、特に内容が優れた研究提案を面接対象として選考しました。面接選考は、研究のねらい、研究計画、研究主体性などの観点の他、特に研究構想が提案者のオリジナルのアイデアに基づくものであること、また当該研究分野において新規性に富んでいるかを重視して実施し、選考の結果、5件を本年度の採択課題としました。量子情報技術に革新性をもたらすことが期待できる理論研究と、新しい発想に基づく意欲的で挑戦的な実験研究とを採択することができ、将来の量子情報技術の実現に向けての貢献が十分に期待されます。
今年度は計3回の採択の最終年度に当たり、今年度採択分を含めると、領域全体としては15件の研究テーマが採択されております。その中で理論研究と実験研究はそれぞれ6件と9件であり、バランスが良くとれたと考えております。それぞれの研究テーマは、独創的かつ挑戦的であり、各研究者は、"さきがけ研究者"としての自覚と自負を持って取り組んでおり、大いなる期待を感じます。それゆえ、量子と情報を核にした広がりのある本研究領域が、量子情報処理技術の今後の発展に大いに貢献できると確信しております。