戦略的創造研究推進事業(公募型研究)における平成17年度
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題の決定について


○チーム型研究(CREST)

戦略目標「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」
研究領域:「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」

氏名 機関名 所属部署名 役職名 研究課題名
瀬戸 誠 京都大学 原子炉実験所 助教授 物質科学のための放射光核共鳴散乱法の研究
高橋 隆 東北大学 大学院理学研究科 教授 バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発
竹腰 清乃理 京都大学 大学院理学研究科 助教授 材料開発に資する高感度多核固体NMR法の開発
内藤 康秀 光産業創成大学院大学 光医療・健康分野 助教授 超高分解能高速イメージング質量分析技術(質量顕微鏡)の構築
福谷 克之 東京大学 生産技術研究所 助教授 水素のナノスケール顕微鏡

五十音順に掲載

総評:研究総括 田中 通義(東北大学 名誉教授、多元物質科学研究所 研究顧問)

 新機能性物質等の開発には継続的に大きな資金が投入され、多くの成果がありました。その一方において、物質開発に必要な評価・分析技術には十分な手当てはなされてきませんでした。研究手法、技術の開発が重要なことは、スキャンニングトンネル顕微鏡(STM)の発明が、その後どのくらい波及効果をもたらしたかを見れば明らかです。またノーベル賞の多くが研究の方法開発に対する受賞であることも再認識する必要があります。資金投入の方向性のために、装置開発を主目的にしてきた多くの研究室が方向転換を迫られ消滅していきました。一度消えた火を再度点火することはほぼ不可能に近いといえます。
 やっと機器開発の重要性が再認識され、今回、計測・分析基盤技術の研究領域が立ち上げられたことは、評価技術・装置の開発を頑張って続けてこられた研究者にとって光明のはずです。研究の成果がナノ計測・分析の基盤技術で世界をリードするものでなければならないことは当然ですが、これまで、こつこつと努力していながら日の当たらなかったあるいは注目されてこなかった計測・分析技術の研究者に配慮し、勇気付けるような採択に心がけました。
 本領域はこれまでの研究領域とは異なり分野横断型の領域であるため、異なる分野の研究に序列をつけなくてはいけないという困難な作業を迫られました。将来もっと分野を絞った評価・分析技術とその装置開発の研究領域が立ち上げられるようになれば、もう少し単純化され明快な審査が可能になるはずで、そのような方向に科学政策が進んでくれることを願わずにはいられません。
 採択の基準として、手法に新規性があって世界に先駆ける計測・分析基盤技術の研究、今後世界標準になりうる計測・分析技術の研究、従来技術を高度化するものであっても、それによって新しい展望が開ける研究、世界的な競合関係にあって推進しなければならない研究、近未来に社会への成果還元につながる研究かどうかなど、いろいろな視点があり、選考はこのような多様な判断基準を考慮して行いました。
 申請金額については、研究計画や研究体制のコスト対成果のバランスにも留意し選考しました。来年度もこのような方針で選考する考えです。採択した課題の研究費につきましても研究チームの構成等を精査し、厳しく査定しました。
 今年度の応募は69件あり、12名の領域アドバイザーに書類審査をお願いし、10件の提案を選択し、最終的には面接審査の上、アドバイザーの採点をもとに合議して5件の提案を採択しました。これらは全て昨年採択されなかった分野からの提案です。採択テーマの内訳は、質量分析1件、X線共鳴散乱1件、核磁気共鳴1件、光電子分光1件、水素の3次元計測1件でした。いずれも分析技術、装置開発に十分実績のある研究者に率いられた極めて質の高い提案でした。
 その結果、採択されてしかるべき提案も相対的評価のために落とさざるをえないという状況になりました。また、採用に至らなかった提案の中にも、画期的、意欲的な研究構想がありました。そのような研究は次年度に採択できればと思います。しかし、一方で提案の中には、本研究領域の趣旨からかけ離れた提案もありました。また物質・材料開発が主眼の提案や、すでに開発がすんでいる要素技術を複合化する提案も多くみられました。提案は先進的であっても本当に実現可能とは思えないものもありました。
 来年度も、今年度と同様の方針で選考したいと思いますが、特に、今年度までに採択できなかった分野からの研究提案を期待します。